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第2回 生徒獲得戦略セミナー

洗足学園中学校・高等学校 前田隆芳校長先生
「魅力的な教育空間と学習プログラムを支える洗足教育の原点」

大変難解なテーマを頂きました。私なりにテーマを解釈し、今日は本校の新校舎設計・家具・調度品などが、学園の教育理念・教育目標にどのように反映されているのか、さらに生徒の豊かな人間形成・学力形成にどのような影響を与えているのか、説明していきたいと思っています。

《建築に宿る洗足学園のコンセプト》
はじめに洗足学園の概要について説明したいと思います。"洗足"という名はキリスト教の聖書の一説に由来しており、顕著な慈愛の気持ちを持てるようにと付けられました。しかし宗教的なことはほとんどなく、教会の牧師さまに年1回講演して頂いたり、校名の由来となったキリストが少女の足を洗っている小さな像があるくらいです。教育目標は、社会に貢献できる女性の育成と、国際社会においてグローバルな視野を持つ生徒の育成を目指しており、教育空間の大きな設計ポイントになっています。

本校では生徒たちの精神的・身体的発達段階により、6年間を3期に分けて目標を掲げています。生徒が放課後、どのように学園を使っているのか調べてみました。中1・2(第1期)はカフェテリア・図書館でおしゃべり、中3・高1(第2期)は図書室のパソコンルームとスタディルームで調べ学習、高2・3(第3期)は自習室を多く利用していました。自習室などは誰が使っても良いのですが、学年によって自然と住み分けており、発達段階により活動する場所が違うことを発見しました。

<幼稚園から大学までの総合学園>
洗足学園は、同じ敷地内に幼稚園から大学まである総合学園です。しかし全てが繋がっているわけではありません。さらに中高のみ女子校となっています。総合学園としてのメリットを紹介します。

○施設を共同利用できる
合唱コンクールなどを行う音楽ホールや、小中高大学がそれぞれ持っているグラウンドなどです。特にグラウンドは柵で区切るなどしていないため、巨大なものができました。小学校のグラウンドにはソフトボールとドッチボールフィールドを、中高にはトラックを、大学にはテニスとフットサルのコートを作りました。大学生は18時30分まで授業があるため、中高の生徒が放課後、各グラウンドを使用しています。それ以外に温水プールなどもありますが、ひとつあれば全員で使えるという利点があります。

○世代間の交流
これはデメリットな部分もあると思います。しかし将来、保育士になりたい生徒にとっては、幼稚園があるため、高2の時点で実習を兼ねて体験することができます。また中学入試の問題作成の際、中学校の先生が小学校の授業をみて、問題作成のヒントを得ることがあります。

○国際化教育
国際社会においてグローバルな視野を持たせるため、学園全体でグローバル化を図っています。全部で32名のネイティブスピーカーの教師がおり、そのうちの7名が中高で教えています。留学システムもあり、中3ではロサンゼルスへ4ヶ月の短期留学を、高1からはサンフランシスコ・モントレーにあるMBAへ1年間の長期留学があります。また、環境作りもできていると思います。これからは英語が日常的に使われるものと考え、校内表示はすべて英語で書くことにしました。図書室でも実践してみましたが、どこに何の本があるのか分からないため、シールを貼って識別しています。

<地域との一体化>
地域に愛される学校になりたいと考えました。音楽ホールの貸し出しや、近隣の小学生を集めたドッチボール大会など、一緒に楽しめるイベントを開催しています。ボランティアも行っており、駅の掃除や、老人ホームの手伝いなどをして、地域の人々とのふれあいを大切にしています。校舎には学校名を大きく表示していません。小さく校名がローマ字で書かれているだけのため、美術館と間違えて入ってくる人もいました。

<"しかけ"のある空間>
1974年に工事が始まり、今年の3月まで約30年間に渡って工事が続きました。学園内には様々なオブジェや仕掛けがあります。今回のテーマについて話し合いを行った結果、生徒によって見方や感性が違うと分かりました。学園内のいたる所にある球体のオブジェが何に見えるか聞いたところ、「泡」「地球」などの答えが返ってきました。また楕円形のものが多く、宇宙の銀河を表わしていると考える生徒もいました。噴水については、見ていると豊かな気持ちになるため、生徒たちの憩いの場になっているそうです。オブジェとは、日常とかけはなれた空間を作り出し、生徒の創造性をかきたてる教育空間に必要なものだと思います。

《設計コンセプトと教育プログラムの関連性》
主役である生徒のための校舎、とくに女の子向けの校舎建設に重点を置き、生徒のための空間を広く取っています。玄関に入った瞬間に、学び舎に入ったという特別な意識を持って欲しいと考え、設計をお願いしました。機能性も大切ですが、遊びとゆとりと美しさを兼ね備えた校舎にして欲しいと思いました。すべての教室はいびつな形で、光が充分に入り込むよう階段型になっています。またエントランスや図書館は、天井がガラス張りになっています。ガラスは2重になっていて中にブラインドが入っており、直射日光の調節ができます。教室も片面はすべてガラス張りで、柱は少なく、自然の光が入るよう重視しています。中高の校舎は、3つの建物が1つになっており、小講堂・大講堂・体育館・セレモニールームなどもあります。講堂棟は船を、教室棟は波止場をモチーフに作られました。教室棟でしっかり勉強をして、この船に乗って大海原を乗り越え、社会に出て欲しいと思います。

新校舎の話が上がった際、教育プログラムを重視した建築を目指そうと思いました。教室は授業後、清掃してカギを閉めます。放課後は教室棟から講堂棟・アトリウムへ移動し活動します。授業を行う教室とは違う環境の中で過ごしてもらいたいと考えたからです。

各教科の教室などは、授業に工夫をするためにも、先生の意見を反映して設計しました。

理科: 実験がたくさんできるように、実験室を4つ作った。
社会: プロジェクターを使い、授業をビジュアル的に行えるようにした。
教室: 従来の1.5倍の広さを確保。将来パソコンを教室でも使えるように配慮した。机も1.5倍あるフィンランド製のものを使用。ゆったりと授業を行っている。しかし外国は規格が違うため、生徒には大きいという欠点がある。また生徒との距離を縮めるため、教壇をなくし、黒板を少し下にずらした。今後は、上下できる黒板に切り替える予定。
音楽室: 中1から高1までの間に、ひとつでも楽器を修得するプログラムを実践。
美術室: 広く、作業中心の部屋となっている。
トレーニングルーム: 生徒の体力をつけさせるために活用。
PCルーム: 将来性を見据えて、デスクトップからノートへ変更。
セミナールーム: グレード別・選択授業を行う。60人用が5教室、20人用が8教室。
大ホール: 一流の人間育成のためには、一流の人の講演が必要と考えた。本来1200名収容できるホールだが、椅子を大きくゆったりさせたため、900名収容に。音を吸収するようにしてあり、講演向けのホールとなっている。
小ホール: 350席。1学年が全員が入れる大きさ。学年集会、プレゼンテーションなどに最適。使用頻度は高く、補習を行うこともある。

このように授業内容に合わせて、校舎設計をしたと言えるでしょう。

昼休みはどこで過ごしても良いことになっています。職員室や校長室で昼食を取る生徒もいます。生徒たちにとって、昼休みは憩いの時間なのでしょう。アトリウムのエントランスではお昼のコンサートを行っており、月に1回、音楽科や合唱コンクールで優勝したクラスの発表会・演奏会などが開かれてます。

放課後は、中庭やけやきの木の下にあるベンチに座っておしゃべりに花を咲かせています。最近では、学園のカフェテリアで宿題をする生徒が目立つようになりました。勉強に対する意識が増えたようです。グラウンドでは、各クラブが活動しています。そのグラウンドは、膝に負担を掛けない人工芝を使用しています。雨が降っても1時間で乾燥するメリットもあります。

《"しかけ"のある空間 自分への発見》
学園内に散りばめられている"しかけ"について、不思議に思うこともあるでしょう。"しかけ"の持つ意図や目的など、質問形式で種明かしをしていきたいと思います。

Question1 校長室の位置の意図>
校長室は講堂棟の端にあり、生徒の登下校の様子が見えるようになっています。生徒も教員も、校長室の前を通らなければ校舎に入ることはできません。生徒の顔や雰囲気を見ることができますし、教員の指導もできる最適な場所です。


Question2 不思議な空間〜同一モチーフの連続性〜>
ケヤキの間を通って、校舎の中へと入って行きます。エントランスにある柱は、ケヤキの木をイメージして作られました。校舎の中に入っても、自然を感じられるように、中庭の延長として一体感があるように作りました。

Question3 大きなオブジェ〜時のかけら〜>
門を入ってすぐにあるオブジェは日時計です。生徒の多くは、日時計であることを知りません。文字盤を表わす鉄板の上に寝転がって空をみたり、座って日向ぼっこしている生徒を見かけます。

Question4 オープンスペース〜屋外ステージ〜>
中庭にはオープンスペースがあります。クラブ棟もあり、部室のほか、茶室や生徒会室など生徒たちの自治活動の場となっています。屋外ステージでは、生徒たちが自由にプログラムを作成し活用しています。

Question5 コミュニケーションスペース〜カフェテリアの工夫〜>
生徒たちに大人気のカフェテリアでは、テーブルを囲み友達同士、お互いの顔を見ながらおしゃべりに夢中になっている生徒をよく見かけます。ベンチでは、お互いの顔が見えないため、利用する生徒は少ないようです。Face to Faceという思春期特有の友達付き合いではないでしょうか。

Question6 Macルームのメリット>
図書館の一角にMacのパソコンが置いてあります。ここはMacルームと名付けました。PCルームとは違い、カジュアルでおしゃれな雰囲気のため、生徒たちも利用しやすいようです。1人で使用するのではなく、2〜3人でパソコンを囲み、ネットを使った調べ学習などをしています。おしゃべりしながら、楽しんでいるようです。

Question7 狭い廊下の効果>
教室を広くしたため、廊下は狭くなりました。さらにパソコン用の配線のために壁が出ぱっている部分があります。意外なメリットもあり、生徒同士がぶつかってしまうため、走る生徒がいなくなりました。また教員とすれ違う際に、質問する生徒が増えました。生徒と教員の距離も狭くなったようです。

このテーマを通じて、校舎はただの建物ではなく、校舎自体が教材・教育機器であると強く感じました。休み時間や放課後など、生徒の実態を観察することができました。そしてオブジェや設備について、多くの生徒と話し合いを行うことができました。これは大きな財産であり、学校経営の大きなヒントを得ることができたと思います。

《質疑応答》

Q: 人工的に感じましたが、自然環境についてはどのように考えているのでしょうか?
A: 学園内にはケヤキをはじめ、サクラの木などがたくさんあります。校舎の中にも自然の光を充分取り込めるように工夫してあり、自然とのふれあいができるようになっています。

Q: 音響環境については、どのように対応しているのでしょうか?
A: 音楽科の教室は、防音対策してあります。また2重窓が多く、電車の音が入らないようにしています。

Q: グローバルな国際社会に役立つことを目標に、校内の英語表示を心掛けていることは分かりました。もっと大きな理念から見た場合はどうでしょうか?
A: 敬愛の心を具現化することは、難しいでしょう。授業や総合学習など、この施設を使って間接的に表わしていると思います。思春期真っ最中の生徒たちは、他の学年との交流を持てる空間や、低学年とのふれあいを通して感じることもできると思います。


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