Seminar Report
21世紀を拓く新しい「授業」を考える


講演1 21世紀を拓く新しい「授業」を考える
東京大学大学院 亀口憲治 教授
-システムとしての家族
 実践紹介 OHP(1)
 実践紹介 OHP(2)
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「今日のテーマは『21世紀を拓く新しい授業』ですが、まだ21世紀は1年しか経っていないので、とりあえず20世紀を振り返る中でしかそのヒントが出てこないと思います。20世紀後半の50年、日本は世界的に見ても大変動の時代を経験してきました。これからもまさにそれは続いていくわけですし、これから少子高齢社会を運営していくためには、従来の欧米にモデルを見つけ真似をするキャッチアップは意味がありません。今の日本がかかえている構造的な問題や子どもたちの問題も家族の問題も、欧米社会に範とする似たような社会がないため、我々が自ら模索して作っていかなければならないのです。誰か教えてくれと言っても、どこにも教えてくれる先進諸国といわれるものはないのです。」

亀口先生は、これからの授業を我々自らが作っていかなければならないということを強調され、これまでの30数年に渡るの臨床心理学、カウンセリングの研究・実践の経験から後半20年を振り返り、ヒューマンコミュニケーションシステムについて、また現在教鞭をとられている東京大学教育学部附属中等教育学校での取り組みについてOHPを使って解説してくださいました。以下は講演内容の要約です。






■ まず、なぜ20年を振り返るのかといえば、1980年から2年間、フルブライト研究員としてニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で学んだことが現在の自分の仕事に大きな影響を与えた転換期となったからです。

■ そこで「家族療法」という新しいカウンセリングの手法・考え方を学びました。通常カウンセリングとは、カウンセラーとクライアントが1対1で人に言えないような話をし、聞き、心的に支える仕事をするというイメージではないかと思います。いっぽう「家族療法」とは、問題や悩みをかかえている子どもさんや母親だけでなく、父親や兄弟、同居をしている祖父母の方など家族全員を対象にしてカウンセリングを進めるというものなのです。

■ この「家族療法」はまだ日本ではそれほど知られていません。耳にしたことがある方は手を挙げてみてください。何人かおられるので意を強くしました(参加者の1割程が挙手)。実は、この「家族療法」はアメリカでは40年以上の歴史がありますが、日本では15年程度。専門家の数は、人口比でいうと数十分の1ということになります。

■ 日本が遅れているという言い方もできますが、つい最近までは家族療法的な支援がなくても学校の運営、授業の推進、生徒指導がどうにかやってこれたということです。それは日本の子どもたちや家族や学校の先生方の力だと思います。それだけの力を持っているため家族療法などというものは必要なかったのです。

■ 1965年から1975年の10年間にアメリカで大きな社会変動とそれに伴う家族の変動が起きました。この家族の質的な変化、崩壊といってもいいような現象が起きたのは、ベトナム戦争が最も激しかった時期です。象徴的なものは、離婚の増加でした。大都市では50%を越す離婚率となったのです。

■ 日本もそれに急速に近づいており、非常に似た状況になっています。アメリカではこの離婚率の増加に連動して学校での問題が発生しました。荒れた学校は日本の80年代の話だけでなく、70年代アメリカで既に起きていた変化なのです。少し余裕のある家庭はほとんどが公立学校から私立学校へと転入させたり、水準の整った公立学校へ通わせるためにわざわざ高い家賃をかけて移住するという状況が起きました。

■ こうしたアメリカの社会、家族の変化の中から、子ども一人一人の心的な問題を個別のカウンセリングで援助するという発想には限界があるということがでてきました。つまり、子どもたちのかかえている問題は子どもの心の中だけにあって、その性格のゆがみや能力の欠落した部分を手当てすればよいという発想や、母親がちゃんと子育てをできるようにカウンセリングで指導すればよいという発想(日本は未だにこの段階)には限界があるということです。子どものもう一人の親である父親を協力者として無視することはできません。そして、兄弟や祖父母を含めた家族全員で問題の解決をしていこうという発想へと変わっていったのです。

■ 今日はこの家族療法の話を詳しくするつもりはありません。ただ、先生たちが保護者と協力して生徒たちをどうするかという時に、ターゲットを子どもにだけ焦点化したのではすでに日本の場合にも追いつかない状況にきていることを個別には理解なさっていることと思います。それは個別の事例の問題ではなく、日本の社会全体、学校全体を考えた時に、一人一人の生徒だけではなく親兄弟を含む家族という単位、「家族システム」の問題であるといえるのです。

■ 「システムとしての家族」というのは、皆さんにとってピンとこないかもしれません。システムというと何か機械設備のようなもので、親子関係や夫婦関係、家族関係をシステムというのは馴染まないのではないか、人間の心の問題は機械的なシステムとは別だろうと思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。

■ 従来のカウンセリングの1対1の関係から、人間が作り上げるヒューマンシステムへ。感情のもつれ合いも含めたヒューマンシステム、しかもコミュニケーションのシステム、ヒューマンコミュニケーションシステムとしての親子、夫婦、家族全体であるということです。よく「家庭に対話を」という言い方をしますが、それは家族コミュニケーションシステムをどういうふうにバックアップするかということなのです。

■ 皆さんにとって、教育の問題、生徒指導の問題、具体的な人間関係の問題にシステムというような言葉はおそらく入っていなかったことと思いますが、結論的に言うと、このシステムという言葉を従来の生徒指導、学級運営、あるいは学年の集団をどう運営していくかというなかで使うようになってくると思います。

■ 中2、中3ではもうすでに5月のこの時点でぼつぼつ問題が出てきているのではないでしょうか。やや乱暴になったり、学校にしばらく来てない子がいたり、具合が悪くて保健室に入りびたりの子がいたり、物がなくなっている話とか、新しい学年での心配事が何件か起こっていると思います。これは私自身が附属学校でスクールカウンセラーの仕事を毎週していますので、同じ立場で感じていることです。どういうふうに対策をするか。

■ ここ1ヶ月が勝負だと思います。臨床心理学をやっていて一番忙しいのは、6月中下旬から7月にかけてです。先生方がだんだんもてあまし始めた生徒についての相談がいろんなところから舞い込んでくるピークが6月下旬なのです。その経験則から今この時期が非常に重要だと思います。

■ 今日は総合学習や新しい授業作りということで、カウンセリングの話ではなかったはずだと思われるかもしれませんが、これはまえおきで本論は授業の話にしたいと思います。少し違った観点から授業の問題、生徒の学習支援ということを考えていただきたいのです。今のところは期待したことと違う話がされていて、「どうしよう帰ろうかな」と思っている方もいるかもしれませんが、ちょっと待ってください。なぜ、こういう話をしているのかというと、実は、このことを教えたいという時に生徒がその気になっていないということが今の学校の問題だからなのです。

■ 私も今授業をしています。臨床心理学入門という全国どこにもない科目を学校設定科目として東京大学教育学部附属中等教育学校にて高3生に教えています。通常は心理療法やカウンセリングをやっている人間がなぜそんな授業をやっているのか、越権行為ではないかと思われる方もいるかもしれないので、それを理解していただくためにまえおきが長くなってしまいました。

■ 生徒の問題は家族の問題、先生方の家族の問題でもあります。問題をかかえた子どもたちのあの家庭の問題は我々の家族の問題なのです。保護者の家庭と教育者の家庭は同じで区別はないのです。よく誤解されるのは、子どもの問題を扱う時に「家庭」と言うと、即「差別」と言われますがそうではないのです。最初に申し上げたように、先進諸国がかかえていない日本独自の少子高齢という問題を我々自身が解決しなければならないのです。生徒たちがかかえている問題と我々がかかえている問題は実は同じ構造をもっているということです。その前提でお聞きいただきたいと思います。

■ では、具体的に附属学校での取り組みを紹介したいと思います。この学校は特異な性格は持っていますが、けっしていわゆる受験進学校ではなく、基本的には抽選でくじ運の強い子どもたちが入って来る学校です。また、双生児研究を戦後50数年行っている世界で唯一の実験学校でもあります。一貫して実験学校としての構造を日本の学校の中では唯一取り続けているという意味で、普通の公立学校がかかえる幾多の問題を同じようにかかえ込んでいます。ですから、一般の公立学校ではとてもできないようなことをやっているに違いないという発想はぜひ捨てていただきたいと思います。

■ 4年前から東大大学院に転任し、同時にこの附属学校でのカウンセリングシステムを立ち上げる仕事を担ってきました。その経験をもとに今日のテーマである新しい授業をどう作っていくかをお話したいと思います。しかし、これは我々臨床心理学の専門が勝手にやるということではなく、附属学校、そして今日集まっておられる私立公立の小中高、さらには幼稚園、保育所、あるいは専門学校や大学を含めた高等教育に関わっている関係者といっしょに工夫して作らなければけっしてできない課題であると思います。コラボレーションという観点で今お見せしようと思います。
 










































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取材:NTS教育研究所


 


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