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【基調講演】 「私立だからこそ可能な中高一貫教育の魅力と展望」

京北学園(京北中・高等学校、京北学園白山高等学校)校長 川合 正氏

■ 「私立だからこそ可能な中高一貫教育の魅力と展望」ということでかなり大きなテーマになってしまいましたが、これからの教育について考えていきたいと思います。

 

 


■ 戦後アメリカによって日本の教育制度の基盤はできていったわけですが、1958年頃になって「経験主義による学力低下」が問題にされ、学力を上げようという動きが出てきました。その頃から日本はちょうど高度経済成長期で、高校や大学に進学する人が増え、受験戦争が始まりました。その後、東大に合格することのみが価値があるといったような風潮が流れ、落ちこぼれが続出してしまいました。そんな教育は良くないということで、平等に勉強することの重要性を見直す動きが出てきた77年頃からまた学力が下がりはじめたと言われ、89年には「平等主義批判」が起こります。98年には、教育審議会の会長の「100人に1人のエリートをしっかり育てていけばよい」という発言まで飛び出し、私立だけでなく公立までも、エリート教育(東大志向)に弾みがつきました。本当にこの流れでいいのでしょうか。99人の人生も教育に携わるものとして見過ごしてはいけないのではないでしょうか。

■ そこで、いま我々に求められているのは何なのかということが問題になってきますが、その答えを導き出すための参考として以下のようなアンケートがあります。これはベネッセ文教総研が各大学学部長にアンケートをとったものです。
「大学人が大学で学ぶために絶対に必要だと指摘するものは?」との問いには
(1) 論理的思考力
(2) 文章構成力
(3) 自己表現力

といった回答が、さらに、財団法人中央教育研究所の調べで
「社会に出てから必要な力は?」
  (1) 人の信頼を得ること
  (2) 自己学習できること
  (3) 他人を理解し、自己を主張できる能力(コミュニケーション能力)

という結果が出ました。二つの調査は非常に共通することも多く、自ら主体的にコミュニケーションをとれるかということが重要となっているようです。

■ さらに、OECD(経済協力開発機構)30ヶ国がスキルとして重要視しているものは
  T リテラシー・スキル
情報にアクセスし、情報を処理したり、情報を結びつけたり、情報を評価したり、そして情報に基づいて熟考するといった能力
  U 問題解決能力
パターンを認識して類似性を見出し、発展させたり、問題を意識して解決の戦略を展開したり、その戦略を評価するという能力
  V 対人関係能力
コミュニケーションだけではなく、グループに参加する能力やグループで何らかの機能を果たす能力、そして一緒に作業する能力など、他人の役割を果たすための全ての能力、基本的には他人と一緒に暮らし、働く能力が含まれる。
  W 個人内のスキル
学習戦略など生徒の学習への取り組み方。学習方法や自己へ配慮や関与の仕方。
があります。

■ 以上のすべてがこれからの子どもたちにとって重要であるということです。簡潔に言えば、情報化社会の中で情報を取捨選択する能力、自分から問題発見し、主体的に行動する能力、他人と共に社会で働く能力、自分自身を高める能力といったように、どれもグローバルに活躍することを願う私立学校の教育には必要不可欠な視点ではないでしょうか。

■ ここで、いったいどのように生徒が成長しているのかということを以下の生徒の短歌から考えてみましょう。
  1  本を読め勉強をしろ母が言うああうるさいなこの夏休み (中一)
2  今年こそ期待してると母の声終わりも同じどうするつもり (中一)
3  宿題の仕上がり気にするわが母の声によく似るつくつくぼうし (中二)
4  夏の夜宿題せよと母の声わかっているよ背を向けて言う (中二)
5  亡き祖父の思い出語り食卓で母の作ったレンコン料理 (中三)
6  夏休み遊び過ごして始業式宿題終わらず徹夜の日々だ (中三)
7  男泣きタケシの母の死でわかる家族の意味と母の偉大さ (中三)
8  秋の夜ウクレレを弾く父のそば歌を合わせる妹もいて (高一)
9  今日もまた弁当作る母の背に言葉にごらせ「・・・とう」 (高一)

1の段階では「うるさい」と思いながらも母の声は聞こえていることがわかりますね。2になってもそこまで変わらないがこの二つの段階までは、母と子の関係はそこまで悪くない。しかし、3や4の短歌では母の声に対して明らかに嫌気が差しており、4のほうでは「うるさい」と言って部屋に逃げ込む反抗期の子供の姿が目に浮かぶ。こういった具合の時に思春期というのは一歩間違えれば大きなことになりかねないのだから、我々は保護者会で思春期の始まりを保護者に教えていかなければならないでしょう。
 この時期を乗り越えてしまえば、5・6・7の段階になり、もう家族との距離はだんだんと近づき、8・9の時には家族への思いやりすら感じられるようになる。このように生徒の成長が短歌だけからも見て取れるのです。

■ それでは本校ではどんな教育をしているのかということを説明したいと思います。本校は107年前の1898年に井上円了によって創設、「諸学の基礎は哲学にあり」の理念のもと、自分自身で判断し、主体的に問題意識をもって行動できる人材を育成することを目指して開校されました。この当時から彼は「日本は大衆教育をしていかなければ滅びてしまう。一人のエリートを育てるのではなく、多くの大衆(エリートでない99人)も育てなければならない」という意味のことを言っていたのです。

■ 私自身、こういった教育ができるのは独自の教育理念を持った私学だけではないかと考え、
  1. 生徒のモチベーションを高めるための学習
2. 地域との連携
3. 家庭との関係づくり

を中心に21世紀を迎えてから教職員と一体となって取り組んできました。
『生徒のモチベーションを高めるための授業の構築』のためには、
  (1) 高大連携での授業(出張授業・大学生の卒論発表会・大学訪問など)
  (2) プロジェクト・ベース学習の導入(千葉大学上杉賢士教授の指導による)
  (3) 東大21世紀COEによる授業観察と教員とのカンファレンス等
  (4) 千葉大学「教育実践総合センター」教授との連携による中学教員会への参加、助言と教員へのスーパーバイズ等
  (5) その他 カリキュラム改変、土曜講座、公開講座、教員研修などを実施しています。

■ また、「学校」において非常に重要なことは、地域との連携ではないかということも考えています。地域に期待される学校のありかたの模索ということで、地域との勉強会や公開講演会やスポーツ大会などその交流は盛んに行っていますし、私自身が講師を務めさせていただくこともあります。先日は「自分の子をニートにしないために」ということで立ち上がったお母様を中心に講演会を開いて、子どもたちの「自信」と「可能性」を育てることを共に考えました。こうした活動をとおして、地域に期待されるような学校になることができるであろうし、さらに学校が良くなることへの大きな一歩に繋がると考えています。

■ こうした活動を通して京北学園が目指す教育というのは、横軸に学力、縦軸に社会力を取り、まずは、生徒に「できるんだ」という自信をつけさせ、それによってやれば何にでもなれるという『可能性』を見出し、夢や希望をもたせ、自分から主体的に勉強する環境を整えること。そこから学力の向上が見込めるというわけです。その後、大学に進学し、専門教育を受け、自分の頭で判断する能力を身につけた社会人へとステップアップしていくのが、本校の目指す教育像です。

■ 東京大学大学院教育研究科の21世紀CEOプログラムでは、学校において「学ぶ習慣」や「学習スタイル」を生徒がどのように習得していくのかという、社会文化的な形成プロセスに焦点を当てたフィールドワークが行われています。そのプログラムに30校が参加しており、29校が公立関係、そして唯一私学からは京北学園が参加しています。

■ その研究結果の一つに、学力と授業の関係という視点で、授業中における教師と生徒の談話の比率と学力との相関関係について調べたものがあります。一方は、教師が85%程度話し、生徒は15%しか話さない授業。他方は先生が55%で、生徒が45%と、生徒が質問を多くする授業。結果として後者のほうが学期末試験の平均点が高かったという結果が出ました。一方的な講義形式の授業で淡々と進むよりは、質問をして時間が取られるものの結果として双方向的な授業の方が生徒のモチベーションも上がり成績に反映されるというわけでしょう。

■ また、学業成績の高い生徒と低い生徒の学習に関わる相違点として、成績の高い生徒はポイントを押さえた部分しか試験前に勉強しないのに対し、成績の低い生徒はポイントを押さえられた勉強ができていないということが分かりました。さらに、成績の高い生徒は「必ず宿題はする」という意識がとても強いが、宿題勉強時間のもっとも長い生徒は成績の低い生徒の方であった。さらに、成績の高い生徒はそうでない生徒に比べ広い友人のネットワークを形成しているそうです。まとめると、
  1. 学習のポイントを早く理解する
2. 宿題は必ずする
3. 勉強時間の長さは関係しない
4. 教師や家庭のサポートがあり友人も早いうちにできる、つまりネットワーク形成が良好

ということが言えそうです。この結果は学校の授業展開を考えるときに、なんらかのヒントになるのではないかと思います。

■ 今回は私が自校のことを中心に報告したのですが、これからはもっと様々な私学と取り組みについての意見交換をしたいと考えています。その一つの場としてCAL(Center for the Advanced Learning)というネットワークを作って活動を行っています。このようにいろいろな立場からの意見交換や連携をとおしてこれからの私学について考えていくことが、未来の子供たちを育てることに大きく寄与していくと思っています。


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