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【基調講演】 「ことば力」と「学ぶ力」
東京私学教育研究所 所長 堀 一郎氏
■ 基礎学力をどう捉えるか。そもそも学力とは何か。という事を中心に持論を展開していきたいと思います。まず、私立学校が育てたいと思っている生徒像はどんなものなのだろうという事から考えましょう。その一つの答えとして、「自国の文化を深く理解した上で、さらに異文化についても理解をしようと試みる生徒」が挙げられるのではないでしょうか。仮にそのように我々が育てたい生徒を想定するならば、その生徒において身に付けるべき『学力』とは何なのでしょうか。
■ 従来、学力というのは『学ばせた力』=知識のようなものではなかったでしょうか。一方的に生徒に与える知識を生徒が覚え、それによって偏差値が決まってくる。しかし、本当の学力というのはそのようなものだけで良いのかという疑問が生まれます。もちろん、そういった学力が大切なことは言うまでもありませんが、さらに検討すべきものとして『学ばせた力』をベースにした『学ぼうとする力』や『周りを活用する力』、もっと言えば『学び方を学ぶ力』が必要なのではないでしょうか。
■ さらに最近注目しているキーワードとして「ことば力」というものがあります。ことば力というのは図で言えば、縦軸に日本人としてのアイデンティティー確立の寄与する文化的教養力(日本語力)を置き、横軸に共生のための異文化コミュニケーション力を置いたものです。前者を「独自性」に向かう垂直軸、後者を「共通性」に開かれている水平軸とみなすこともできます。この縦軸の日本語力のというのは、例えば数学においても問題文が理解できなければ解けないように全ての教科に共通しているし、全ての教科の根幹にあると考えられます。
■ しかし、それだけではグローバルな視点では考えられない。グローバルな中で発揮するためには全ての教科、全ての国に共通する論理構成力が必要となってくるのではないでしょうか。その日本語力と論理構成力があって初めて、「ことば力」というものが意味を持ってくると考えられます。
■ 英語に関して考えてみると、英語というのは「Listening」「Speaking」「Reading」「Writing」の四つの基礎・基本領域に分けられますが、今回はそれらに共通するものとして「Thinking」を加えたいと思います。その「Thinking」を大きくすることがことば力を養うことに大きく寄与していると考えられます。
■ では、各私学では実際にどんな風に教育展開されているのでしょうか。その一例として大森工業高等学校があります。同校の入学試験には英語がありません。入学してくる生徒のほとんどは中学時代の英語の成績が1〜2(5段階)だといいます。英語に関してはアルファベットも書けない子や「勉強してもどうせ無駄」と訴える生徒ばかりで、やる気がないそうです。そんな生徒達に対し、学校側は「やればできる体験」や「やってよかった体験」を根気よくやらせることで、意識改革の二年計画をし、全員に英検を受験させ、最終的には英検一級に挑戦する生徒まで出るそうです。
■ また、小学校の例では数学を「数楽(スウガク)」として捉え、「スマイルテスト」として、できるテスト・やればできるテストを実施し、数学が楽しくなることで成績をあげるという方針をとっています。どちらの例にも共通していることは、「動機付け」が非常に重要であるということです。生徒たちに本当に教えなければいけないことは、一方的に教えることだけではなく生徒自らが「学ぼうとする力」や「学び方」ではないでしょうか。
■ 最近、文部科学省で総合的な学習の時間を廃止するまたは授業時間数を減らすという議論が起こっています。私は総合的な学習そのものにはむしろ反対の立場です。ただし、文部科学省とは意味合いが違い、総合的な学習の時間を特設するということに反対なのです。教科自身はむしろ、もっともっと総合化していかないと、今申し上げたような「ことば力」とか発展的な学びは期待できません。特設授業を設けることによって通常教科の授業時間が減り、尚且つ各教科は総合化しなくてもいいのだ、ということになっては本末転倒です。そういう意味では、総合的な学習の時間という特別な活動ではなく、各教科の総合化のほうを積極的に行っていただきたいと私たちは考えています。
■ 教科の総合化をはかる、学力を上げる際に生徒にとって重要なことは、実は『生徒指導』ではないかと考えています。生徒指導は家庭のしつけのような生活指導や校則指導といったものとして捉えられていますが、実はそうではありません。先述している通り、生徒自身の学力をつけ、どうやって学ぶかを教えることで、それが生徒がどう学校で過ごすかに繋がってくるし、生徒の学力の向上にも貢献すると考えられます。そして、そういった教育が可能なのが、私立学校であると考えています。
■ 今の新聞等の報道は、どちらかというと公立に関するものばかりです。そういった情報の偏りも、実は「ことば力」の不足から起こっているのでしょう。相手の言うことをきちんと理解し、判断して書く。こういう時だからこそ、私たちの言う「ことば力」をマスコミなどにも分かって欲しいなということを申し上げて、本日のお話を終わりたいと思います。
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