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  ≪未来を創る学習≫セミナー

パネルディスカッション 
これからの学び方〜私立中学の学びを知るために〜

パネリスト(氏名50音順)
生田 清人 開成中学校・高等学校 教諭
川合 正 京北中学校・高等学校 学校長
鈴木 邦夫 東京女子学院中学校高等学校 教諭
横山 孝治 八雲学園中学校・高等学校 教諭
吉野 明 鴎友学園女子中学校・高等学校 教頭

コーディネーター:横田 朗


≪第1セッション≫ 『各学校が大切にしている中高における『学び』とは』

横田:まず自己紹介を兼ねて、先生方がそれぞれの学校の中で、どのような授業をして、その中でどのような学びを大切にしているかということをお話しください。

吉野明氏(以下吉野):私どもの学校では「慈愛と誠実と創造」の3つを校訓に掲げております。「慈愛(あい)」というのは、社会の中で、人とのかかわりを大切にしながら、人のために生きていこうという事を学んでいく軸になります。先ほど實吉先生からご紹介がありました志水先生の「学力を育てる」という本の言葉でいいますと、この「慈愛」が「つなぐ力」となると思います。それに対して「誠実(まこと)」、つまり与えられた才能を放っておかずに、それを一人ひとりが自分で発見して誠実に伸ばしていこう、という事が「わける力」ということになると思います。私どもの学校では「わける力」だけでなく「つなぐ力」の両方を合わせてトータルにバランスよく伸ばし、社会の中で創造的に生きる事ができる子どもたちを育てていきたいと考えております。6年一貫という時間がありますので、その中で一人ひとりが自分をしっかり見つめて、単に受験のための学力ではなくて、社会に出て生きていく力をきちんとつけることができるように、そして、それが結果として一人ひとりの大きな意味での学力に繋がっていくだろうという風に考えて努力をしております。

生田清人氏(以下生田):先ほど「東大・御三家・いい学校」というように言われましたが、それだけではなくて、私どもの学校は1871年、学校制度が出来た年に創立された学校で、初代の校長の高橋是清先生は25歳の若さの時に「学問は思考力を用いるのが最も貴い」という理念を基に学校の基礎を築きました。そのような学校で、私は社会科の地理の授業を中心に学校活動に励んでおります。しかし、私は中学・高校の教員の他に、大学で教員養成の授業を持っておりますし、家に帰れば9歳と13歳の子供もおりますので、9歳から21歳の幅の中の「思春期の学び」という立場でお話をしたいと思います。そういった冷静な目で、一人の教師としてお話に参加しようと思います。

川合正氏(以下川合):京北中学・高等学校、京北白山高校の3校の校長をやっております川合と申します。文京区白山の東洋大学と同じ敷地内にある男子校です。東洋大学は今から118年前、創立者の井上円了が「エリートを作るよりも大衆をしっかり作らなければならないのではないか」という思想のもと、東大から袂をわかって本郷の地に東洋大学の前身となる哲学館大学を作りました。この学校が更に高等学校・中学校を作るとき「大衆に本物の教育をする」という考えのもとで作られたのが京北中学・高等学校です。「諸学の基礎は哲学にあり」の精神を基に、しっかり物を考えて、判断し、行動できる人間を作る事が基本ではないかという実践をしています。最近、第16次の教育課程審議会で会長が「100人に一人のエリートを作ればいいじゃないか。その一人が日本を引っ張っていく」という言い方をしたのですが、我々はそうではない、99人もしっかりと育てなければならないのではないかという発想をして、現在教育に当たっているわけです。その中心は「子どもたちには可能性がある。それを信じるところからはじめよう」と、子どもの持つ可能性をつぶす事がないように、という事をまず基本にして、能力をしっかりと伸ばしていこうという発想で現在3校を運営している次第です。そういう思いで「21世紀の教育は白山から」ということを合い言葉にしています。

鈴木邦夫氏(以下鈴木):東京女子学院中学高等学校の鈴木と申します。学校は練馬区の武蔵関というところにございます。創立者は、「どんな時代でもどんな国家でも、その基礎になるのは家庭だ」と考えました。理想の女子教育を求めて昭和11年に学校を創立し、現在その精神を受け継ぎつつ、まず学ぶための基礎の力になる「感性をみがく教育」や、もう一点は英語で英語を教えるなどの新しい授業を取り入れて、それをきっかけとして物事を論理的に考えていく「論理的思考力を育てる」という事、こういった二つを軸として、生徒の夢を実現させようという教育を行っております。

横山孝治氏(以下横山):八雲学園の横山と申します。学校の場所は目黒区の都立大の駅から7、8分のところにございます。昭和13年に創立されまして、教育方針に「生命主義、健康主義」を掲げた、「生命を大事にしよう」という女子高です。また、女子教育をやっていますので、マナーの行き届いた女性を育てるという教育も行っています。将来、女性というのは旦那さんの仕事の都合によって例えばアメリカに行かなければならなかったりと、生活環境を左右される場合がございますので、学校の勉強以外におこなっている芸術鑑賞やチューター制などの中で、幅の広い人間に育って欲しい、どんな環境にも対応していく事が出来る女性に育って欲しいという方針の下、教育を行っております。

 

≪第2セッション≫ 『小学生時代をとおしてどんな『学び』が必要なのか』

横田:では次に、中学に進学する前の、小学校の段階ではどのような学びがあればいいかという点についてお話いただければと思います。

生田:「思春期の学びのイメージ」という事についてお話ししていこうと思います。これは開成スタンダードではなく、私が今までの経験で考えてきたもの、調べていることの結果としての提言・提案であります。つまり、中学入試ということ一点ではなくて、思春期全体の学びの中で、中学入試や、中学校や高校に通うということを考えて欲しいということです。

私は思春期の学びというのは四つあると思っています。「学ぶための力」、「教科の学び」、「心の学び」、「からだの学び」の四つです。

まず、「学ぶための力」ですが、これは学習の方法、つまり教科学習をつなぐ力ということになります。この、「学ぶための力」を「教科の学び」につなげていくという事が、中高における一番大事な我々の仕事ではないかと思います。

次に、「教科の学び」に関してですが、普通、教科の学習が達成されますと、親御さんは皆さん「うちの子はわかった、できた」とおっしゃいます。しかし、わかることとできることはまったく別のことです。ですから、それが一つになるように、学校で考えてくれているかどうかという事を、学校選びの基本にしたいなと思うのです。塾の学習というのは、「これができれば開成に受かるよ」ということでやりますけども、これは、塾で習った事を開成の答案用紙に書いているだけの、一対一対応の学習で、それ以上の発展性がありません。そのままの勢いで、生徒がしめたと思って中2、中3までくると、必ず成績が落ちてきます。逆に、中1、中2の時にノートを取ったり作文を書くことで、書くことに慣れていく生徒は成績が中3くらいでポーンと伸びます。ここで成績が交差するんですね。ある心理学者によると、この時期は「学びの確立の時期」なんですね。ですから私が小学生のお母さん方に是非考えていただきたいのは、15歳の時に学びを確立させるためにはどうすればいいのかという事なんです。

また、中学校へ入っていきますと、例えばうちの学校に入ってきた親御さんなんかは、長い塾生活を終えて「やった、わが子には手ごたえがあった」と思うんですけども、すぐさま男の子というのは反抗期に入りますので、手ごたえがあったと思ったら、今度は口ごたえされると思うんですね。で、口ごたえが終わって反抗期が終わったかなと思うと、今度は名前を呼んでも「うん」とも「すん」とも言ってくれなくなりまして、歯ごたえがなくなってくるんですね。成績にも歯ごたえがなくなってくる可能性もありますけども。「手ごたえ、口ごたえ、歯ごたえと」いう順番で、子供たちは成長していきます。

思春期で一番大事なことは、社会とか集団に対して興味を持つ事なんですね。将来の夢などの「興味を持つ事」が学習に影響するんだと思います。積極的に社会に参加するという事は、その前に批判することです。反抗期とは、自分たちが大人になろうと思っている時に親の世代が邪魔で、そこに批判的に参加することによって、自分の行き場、居場所を見つけようとしている行為だと思うんです。そういう意味で、取っ組み合いをしなければいけないんです。ですから、そういうことをきちんとやれるということも大事かなぁと思います。

その結果、大学で、これらの学びを総括するような形で、卒業論文など学習スキルと教科の学習が一体化しないとできないようなものを書けるようになる。そういうような意味で言えば小学校の時に、ノートをとる習慣をつける、塗り絵をする、本を読む、子どもと親で読み聞かせ、向き合う・・・といった事がとても大事だなぁと思うんです。小学校の時は、漢字をいくつ覚えるかではなくて、親と子どもが本当に向き合っていくことをきちんとやってきて欲しいなと思います。

川合:15歳で学習習慣を確立していくということがポイントになっていくとすれば、5歳半の集団生活になじむ期間、「9歳の壁」と言われる具体的な勉強が抽象的になる段階、そして「14歳問題」と言われる反抗期の時期。これを上手く乗り越えた子達が、15歳で自問自答形式の学習習慣に入っていくのだろうな、と思います。

5歳半というのは、集団生活になじむための壁ですね。そして「9歳の壁」に関してですが、例えば小学校3〜4年生になると、漢字学習も、「山」や「川」というイメージできるものから「勇気」などの形の無いものになり、算数も、理論的な部分に踏み込んでいくわけです。ここで子供たちは、抽象的・論理的な問題にぶつかります。ここで必要なのは、学習習慣の習得だと思うんです。そこをいかに我々が提供できるか。例えば、「勇気」という字を教える時には、勇気を持って何かをやったという体験が必要です。その体験があれば漢字は覚えられると思うんです。漢字を100回書いて覚えましたという学習は、たぶん中学2年生の14歳頃のところまできたら、厳しいものになってきて、体験や経験があった子達と成績が交差するということが起こるんじゃないかと思います。

また、その後に控える「14歳問題」つまり反抗期ですが、中1まではお母さんと子どもの関係は相補的で、お母さんが喜べば子供も喜んで勉強するし、子どもがいい成績なのでお母さんもますます喜ぶという形なんです。ただ中2くらいになって「勉強よく出来たね」というと、「別に」と言ってしまう思春期の難しさ。『夏の夜 勉強せよと母の声 分かっているよ 背を向けて言う』というところでしょうか。分かっているけれども背中を向けてお母さんに反抗してしまうわけですね。ここに入り込んでしまうと、子供が「うるせえんだよ、うざったいんだよ」とくる。うちの学校なんかでつまずいてしまう子を見ていると、暗記や結果主義で育ってきてしまった子がどうも中学校に入ってからうまくいかない。やはり、子どもたちの発達段階に合わせて、しっかり見ていかなければならないんじゃないかと思います。小学校時代で必要な事は、豊かで多様な環境・経験、例えばお母さんが本を読み、一緒にいい音楽を聴くなどの経験をしていく事なんじゃないかと思います。

吉野:今、海外帰国生の面接をたくさんやっているんですけれども、海外に行って二つ良い事があった、と皆さんが共通しておっしゃる事があるんです。それは、「海外にいると、家族の絆が非常に強くなった」「海外に行って体と心を通して、様々な経験ができた」ということなんです。つまり、色々な体験のベースには「家族」があるんですね。家族というのは一番最初に向き合う「人」であり、疲れて帰って来て癒してくれる「場所」であり、ただそこに居られる、という一番基本的な「居場所」であるんです。

そして子どもたちが一番敏感に感じるのは両親の関係性なんです。子どもたちは両親の関係性を非常に敏感に感じ取ります。両親の関係性が良いと子どもは安心するし、関係が悪いと「あの二人は私が何とかしなければ」と必死になるんですね。勉強どころではなくなります。ですから、家族の関係性を、まず子どもに対するよりも、夫婦間できちんと作ることが大事なんじゃないかと思います。そうすると子どもが安心します。そして家族一緒に体験をする事が必要なんですね。自然の中で遊んだ、色々な人と触れ合った等の様々な体験をする事と、それが出来る人間関係のもとがあるということが重要なんです。

そして、その体験を単に体験に留めていくのではなくて、一緒にあとから言語化して振り返るということ。話し合うことで、一回きりの体験ではなくて、しっかりした経験になるんだと思います。そしてその「体験から経験へ」という事は、「具体的なものを抽象化する」ということになるんです。例えば先ほど国語の漢字学習のお話で抽象化のお話が出ましたが、算数でもそうなんですね。今までは文章題などに「一枚」「一本」といったように具体的な単位がついていたのが、比例や割合の話になると、数そのものを扱うようになる。こういったこと小学校5年生ぐらいから入っていくわけです。この抽象化能力だけを伸ばすのは無理だと思います。抽象化の前提には、具体化能力、つまり具体的な体験が絶対必要になってくるわけです。単に受験のための学力を伸ばそうとしてもそれだけでは伸びません。本当に学力を伸ばしたいならば、その前に本当に豊かな体験つまり、具体的な体験を一般化して経験にしていく事が、絶対に必要なんではないかと思います。

鈴木:小学校時代というのは具体的な勉強が中心になると思います。つまり学習が個々の知識なんですね。それが中学校になると抽象化の段階に入ると共に、更に描写も細かくなっていく。例えば小学校の時の「松の木」という知識は、次の段階では「松の木の枝」となり、更には「葉はどうやって付いているのだろうか」という風になっていくわけです。こうやって学問を体系化していくわけなんですが、その前段階として存在するのが小学校時代ということで、やはり小学校時代とは学ぶための下地作りの時期なんですね。

さまざまな文化体験・・・本物を見る、本物に触れる、本物を作るといった経験が必要なんだと思います。また、最近はだんだんと遊びが画一化されている気がしますが、子どもの遊びの中には後の思考力に繋がるものもたくさんあると思います。例えばジャングルジムと木登りを考えますと、ジャングルジムでは色々な遊び方は出来ますが、「等しい太さ、長さ、強度」という限られた条件の中での遊びなんですね。ところが木登りは、木の枝の高さや太さも違うし、天候によって木の状態も変わるなど、状況によって様々なことがあると思うんです。これはほんの一例なんですけれど、大人が大人の都合によって子どもの学ぶ場を少なくしてしまっているんじゃないかという気もします。また、読み聞かせも経験の中に組み込まれてくるんですね。こういった毎日の経験が学びの下地作りになるんではないかと思います。

横山:小学校時代には「人の話を聞く力」が大切になってくると思います。連絡帳などで、連絡事項をメモではなく手に書く生徒が居ますけれども、そうではなく、人の話をきちんと聞いて、それをちゃんと頭に入れて、そして行動が出来る、という事が大事になるのではないかと思います。今、中学1年生を教えていますが、まず聞く姿勢が出来ていない子どもが多いです。そういう子は勉強の面でも伸びていきません。また、中学に入ると反抗期に入りますが、「素直さ」が大事なんじゃないかと思います。反抗期ですから、もちろん反抗はするんですけども、ある時点で人の話を聞き入れることが出来る力ですね。これが大切なんではないかと思います。ですから、小学校時代には体験と共に人の話を聞く力を育ててきて欲しいと思います。

生田:コミュニケーションをとる力というのも非常に重要です。今の子供たちはコミュニケーションスキルが貧しいと思います。要するに、コミュニケーションのとり方がわからず、自分の名前を名乗って友達になろうと自ら手をさしのべるという事が難しくなってきている現状があるんですね。年代間や男女の違いがある集団、例えば一族そろって集まる機会が減っている事にも通じると思うんですが・・・。ですから、小学校時代には、動物園に行くなどの様々な体験と共に、ぜひ色々な人とコミュニケーションをとる機会を作って欲しいと思います。また、小学校時代の子どもにとっては、塾の中で過ごす時間というのが非常に大きいんですね。ですから、塾にもその自覚をもってもらう、つまり、言葉づかいなど基本的なことも含めて子どもへの接し方などを教えてもらわなければならないと思います。コミュニケーションのスキルはとても大事な学びだということを理解していただきたいと思います。

 

≪第三セッション≫ 『小学校での学びを中学でどのように伸ばしているのか』

横田:今までのキーワードを受けて、小学校での学びを、中学校に入ってからはどのように先生方に伸ばしていただけるかということについてお話をうかがいたいと思います。

吉野:コミュニケーション力のお話がありましたが、私も、まず学びの力を付けていくためにはそれが一番大切な力ではないかと思っています。生田先生のお話にもありましたが、教科学習、つまり受験のための勉強の比重というのは、思春期の最初の時期には大きくないんですね。一番最後、おそらく高校を卒業して大学受験にはいるところでそれがしっかりと身に付いていれば良い、という事だと思います。その前提になるのは中学校、高校の6年間の時間を生かしながら、内向きの自分の世界を外に向けて開放し、色々な所に興味を持って、自分がこの社会の中でどのような存在かという事を理解し、外とのコミュニケーションをとりながら自分自身を見つめ、ふくらましていく事になると思うんです。

それが公立の中学校3年、高校3年に区切る形ですと、教科学習をなんとか3年の期間でまとめきらなければならないという事で、「心の学び」の部分が十分出来ていないままになってしまうんではないかと思っているんです。そして心の学びの一連の流れとは、「自分とは何か、社会の中で自分はどういう存在で、どう生きていけばいいのか」といったことを考えたり悩んだりする時期なんですね。いわゆるアイデンティティーの確立です。ですから私たちが、単に受験学力を伸ばすためだけではなくて、「本当の自分は何なのか、社会とどうコミュニケーションをとるか」と悩み苦しむ時期に対応する事が、中学校高校の6年間の、この時期の学びになるんだと思います。

この「学ぶための力」をつけることが、結果として教科学習の力も伸ばしていくんではないかと思います。そのために、まずは入学の時にお互いの目を見て話し合う「エンカウンター」という集団の中での動きをおこなったり、中学2年生以上は40人クラスのところを、中学1年生のクラスは30人クラスにしてコミュニケーションがとれるようにし、「ここが私の居場所なんだ」と思えるような学校づくりをしています。居場所は、家庭という内向きの所から、社会という所へとだんだんと外向きに広がっていきます。その中で学校という「みんなと一緒に頑張ろうと思える居場所」を作る事が中学での出発点になると思います。

川合:やはりうちの学校でも、二月に入学試験が終わって一週間後くらいの非常に早い時期に、親と子を両方呼んで「出会い」という場所を作るんですね。そして、人が話をしている時にどうやって話を聞くのかという演習を、親と共にやってもらおうという仕掛けをしています。また、親の意見を聞く機会を2月中にもう一度持つなど、非常に丁寧なスタートをするんです。ただ、本校に来る生徒たちの中には自尊感情が無かったり、自信が無い子というのもいますので、そこに関する仕掛けにも力を入れております。人の話を聞くと共に、今度はプレゼンテーションなどで発信するという作業も必要になってくるんです。本校もこういったコミュニケーションに関することを6ヵ年のスタンスの一番最初に行います。

また、「自尊感情を高める」という事と共に、「自信を持つ」つまり、やって成功した経験を得るために、様々な体験や行事を行っております。さらに、「可能性の拡大」つまりなりたい軸を広げるためのキャリアガイダンスですね。そして「基礎学力の充実」のために少人数教育やチューターを導入するなどしております。そして最後が「親との勉強会」ですね。子供に勉強しろといってお母さんがTVを見て笑っているんではしょうがないので、そのときはお母さんも一緒に本を読む時間が必要だ、というように、保護者との勉強会をしています。

鈴木:中学校に入って、自分の気持ちをどうやって伝えるかということが大切になってくると思いますので、例えば中1で、山梨にある学校の寮で6泊7日の体験学習を行います。6泊7日は長いと感じるかもしれませんが、2泊3日では、期間がやはり短くて、何かが起こりにくいんですね。でも、何も起きないことがいいわけじゃないと思っていますので、6泊7日で行います。その中で、上手くいかないことに対して友達と教えあったり、教員とのかかわりが生まれたり、逆にトラブルが生まれたりもします。しかしそこに向き合い、解決するという体験が、経験になるんですね。一週間あればこそだと思っています。

また、そういった行事的なものだけではなく、この時期の生徒たちの中には、さまざまな興味や関心というものが深まってきます。そこで、中学終了の時点で論集を作る活動も行います。これは論理的な思考力を伸ばすという点においても、描写が細かくなる学習段階の中で、必ず必要な力になります。そして、これを一人の世界でやってしまうのではなく、コミュニケーションの中で行います。つまり、論理的な力を伸ばすと共に、他者の目の中で行う定期的な中間報告などを経ることで、他者の目の中で立体的に自分というものを見ることで何かに気付くことができるんじゃないかと思っています。さらにそれをどうやって人に表現したら最も伝わりやすいかというところまでつなげていけるようにしています。

横山:入学式からどういうところまで伸ばしていくかという事なんですが、最終的には「自分の目標を持ち、それを自分の力で実現する」という事を目指しています。大事なのは、自分の力で実現するという事です。例えばうちはチューター制を導入していまして、各クラスに担任が一人いるのに加えて、お子さん一人ひとりに専任の先生がついて、「なにかあったらこの先生に相談しましょう」という事で、携帯番号から自宅の番号まで教えるというシステムをおこなっています。常に声をかけるのではなく、本当に入らなければいけない時には介入するという事です。子どもには、自分で解決する力をつけて欲しいと考えております。

あとは芸術鑑賞などの様々な行事も行い、幅の広い人間になって欲しいと思っています。そしてその中で、自分の目標を見つけ、それを実現していって欲しいと思います。

吉野:先ほど鈴木先生から「何も無い事が良い事とは限らない、いろいろな事があって当たり前だ」というお話がありましたが、失敗があって、初めて学ぶ事が出来るということもあると思います。まっすぐな線路をただただ安全に歩かせるのではなくて、脱線して、そこからいかに元に戻るかという体験を具体的な場でさせていくことで、子どもたちはいろんな学びをしていくんですね。そこで重要になるのが、失敗したときの声のかけ方です。家庭や学校で、子どもの自尊感情を傷つけるんじゃなくて、自己肯定感を感じられるような形で行うことが大切なんじゃないかと思います。「失敗したあなたも認めていますよ」というように、親として子どもを受け止められているかということが大事だと思います。これは親と子の関係だけではなく、夫婦の関係にも当てはまるんですが、夫婦の間でお互いにお互いのやっている事を認め合うという関係を築く事で、子どもにも自分自身に自己肯定感、つまり自分で何かをやっていこうという力が生まれてくるんですね。私は、否定され続けてきた子どもからは大きなパワーは生まれないと思います。

生田:開成の中でのキーワードは二つあるんですが、一つは運動会、もう一つは作文です。運動会は生徒たちが作り上げる活動で、その中で互いをぶつけ合うコミュニケーションを作り上げるという事がおこなわれています。それからもう一つは、学びということで、うちの学校は中1の時から作文をまさに「書かせまくる」んですね。運動会が終わって疲れていても、遠足のバスの中でも原稿用紙を配るんです。書かせるということは何を意味しているかと申しますと、「自分の中の体験を、きちんと言葉でまとめなさい」ということなんですね。社会科などでは特にそうなんですが、授業で本物を見ることは出来ません。「今から江戸時代に行きますから」ということは出来ないわけです。こういったことからも、教科の多くは、色々なことを読み、書くということが中心になるわけです。

そして、読み書きを真剣にやると言うことは、人間そのものや、人の作りだしたものと真剣に向き合うという事になるのです。これをやらなければ学力は伸びていかないと思います。この二つが、開成の人間力に関わるキーワードではないかと思います。

但し、今のエリートと言われる生徒の学力構造は非常に危険になっています。基礎が分からず応用しか知らないという状態になって、いわば基礎と応用が分離しているんですね。この基礎と応用をつなげるためには、読み、書き、ノートを取るという事が必要になるのではないかと思います。そして、学校以外では、親が子どもと向き合って考える事が大事なんではないかと思います。



≪おわりに≫ 『保護者の皆様へのメッセージ』

横田:では終わりに、保護者の皆様へ先生方からメッセージをお願いいたします。

生田:私も9歳と13歳の子供がいますので、最後は保護者の目ということで話していこうと思います。特にお父さん方に、自分が13歳の息子の受験のときに実際にやったことの中からメッセージを三つ挙げたいと思います。

まず一つ目が、子どもにとって何が今必要かということを考えることです。親にとって何が必要かではなく、子どもに何を足してあげればよいのかを考えるという事ですね。そして二つ目が、受験期にはお弁当作りや送り迎えなどで母親は色々と子どもに密接に付き合いますので、ついガミガミいってしまうこともあると思うんですね。そこで父親が、「お母さんはこういうつもりで言ったんだよ」と必ず解説をしてあげる。これは父親の役目だと思います。つまり父親は、きちんとしたルールや成り行きを解説してやるような、一歩引いたところで子どもの受験を迎えるべきだと思います。そして三つ目は、背中を押すということです。うちの息子は電車が大好きだったので、彼が行きたいと言っていた学校に行くために乗らなければいけない電車の模型を買ってきまして、トンと置いて「これに乗りたかったら頑張らなきゃな」と最後の最後で背中を押しました。この三つをぜひ、お考えいただきたいなと思います。

川合:昨年262本のヒットを打ったイチロー選手の言葉に、「大きさや強さに対するあこがれが大きすぎて、自分自身の可能性をつぶさないで欲しい。自分の持っている能力を生かせば可能性はすごく広がる」というのがあります。つまり、それぞれの能力を生かせればいくらでも可能性があるんだということです。それぞれの能力に気付いて彼らの後押しをして欲しいなと思います。親が子供たちに期待すれば、子どもたちはその期待に必ず応えようと努力するんですね・・・邪魔さえしなければ。だから、彼らの無限の可能性を信じれば、彼らはそれぞれ、それなりに伸びていくんだという事で、ぜひ素晴らしい親をやって頂きたいなと思います。そしてそれぞれの希望の中学校に入って欲しいなと思います。

鈴木:「体験を経験に」という事には、非常に私もこだわっています。なぜかと申しますと、やはり知識に結びつきやすくなるんです。「なるほど」という感動は知識につながりやすくなるんですね。ですから、特にお父様方、忙しいと思いますが感動を一緒に味わう時間を作って欲しいと思います。子供は色々な好奇心を持っていますから、新たな発見を次々にします。しかしそれを大人が流してしまうのではなく、一緒に立ち止まって「なんだろう」と考える機会を作って頂けたらいいんじゃないかと思います。

横山:私も子供がおりますので、自分が父親にやってもらって良かったことを自分もしようと思っています。子どもはがんばればできるんだなあと思いますので、子どもにはあきらめないで最後まで色んな事をやって欲しいなと思っています。

吉野:お父さんの立場からのお話が多かったので、学校の教員の立場からお話したいと思います。今日は私たちの話を聞いていただいてありがとうございました。それぞれの学校がいろいろな試みをしているという事や、色々な事を考えながら、単に知識や理解という学力だけではない学校づくりをしているという事がお分かりいただけたのではないかと思います。学校選びの際に、具体的に、現実に足を運び、体験として学校選びを考えていただければと思います。その中から、自分の子どもにはどのような体験をさせるか、ということで選んでいただければと思います。単に偏差値や大学進学実績だけではない学校選びを、これから是非して頂きたいと思います。


セミナーに参加された保護者の方から、質問をいただきました。パネリストの方々からの回答はこちらに掲載しております。

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