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■ 黒板の前にある「発言台」をわくわくしながら見つめる生徒達の熱気に迎えられた。
今日の授業は、総合教育の取り組みの1つである、ディベートの授業。賛否の分かれる命題に対して、肯定または否定の立場に立って、意見を主張する。自分がこれまで考えてきた立場以外に、さまざまな立場や視点があり得ることを学び、実際の問題に直面した時に、自分の考えをまとめ、主張できるようになることを期待して行われる授業である。
今回は、『クローン(複製)人間を作ってよいか』という事前にリサーチしたクローン人間についての情報や、世間での議論などを調べてまとめた紙をお互いに見せ合いながら、自分のチームの順番が来るのを緊張した面持ちで待つ。「あの発言台に立つのか。緊張する〜。」と、下書きの紙で顔を隠す子。「勝てるかな?」と不安そうに友だちと相談する子。どの生徒も下書きの紙を何度も読み返しては、発言台に立つチームの議論に耳を傾けている。
■ 生徒達はA〜Eの5つのチーム(各4人前後)にあらかじめ分かれ、『賛成』2チームと『反対』3チームずつ左右に分かれて座っている。公開の場でのディベートは初めての生徒達。対戦は、3回戦に渡って行われ、B対D、A対C、そして最後にAB合併チーム対Eチームという最終戦が行われ、勝敗は発言台に立つチーム以外の生徒全員と、先生、そして後ろで見学している来客の先生方の投票で決められる。
1回戦ごとに、「立論」→「反論」→「質問」と、両チームがこの3段階に分け、交互に発言する。
■ 「最愛の人が死んだらどうしますか?」大きなくっきりした声が教室に響き渡った。それまで下を向いていた生徒達の顔が、一斉に上がり発言者に集中した。「大好きなペットがいなくなってしまったら、クローンにしたいと思いませんか?」と、聞いている人々に呼びかけるまっすぐな発言者のまなざしに、うんうんとうなずく生徒達。「皆に聞こえるように話そう。」という先生のアドバイスも受けて、生徒達はどうしたら聞いている人々の注意をひいて、話を聞いてもらえるのか、授業が進む中で工夫してきている様子。「双子は、見た目もDNAも一緒じゃないか。だからクローンだって一緒だ。」という賛成派に対して、「でも、指紋は双子でも違う。みんな同じじゃないから、いいんだ。」と、いうするどい反対派のつっこみも。これまで勉強してきた理系の知識も、こうした議論の中に生きてきているところが、総合学習の醍醐味と言えるだろう。「不妊夫婦に子どもを」「難病の子どもに適合する臓器の提供に使えるのではないか」と、世界中の専門家の議論が、この教室にも広がっていく。時事問題への関心の高さが見てうかがえる発言ばかりで、投票役の私たちも両方の主張に「うんうん。」とうなずいたり、考えさせられたり。
■ 立論→反論と進み、窮地に立たされた時、「人としてのアイデンティティはどうなるの?」という反対派の意見に、教室中考え込んでしまった。「その人らしさは、クローン人間にはないんじゃないかな。」「人なのかな?」とつぶやく生徒。まだまだ未知の分野が多いクローン技術に、生徒たちも疑問がいっぱいであり、答えもまた未知の分野。これに対抗しなくてはいけない賛成チームは、3人で頭をつき合わせて相談をした後、「クローン人間にも、法律を整備して、人としての等しい権利を与えればいい!」と、搾り出すような声で回答した。しかし判定役の聴衆の生徒は、顔を見合わせながら「アイデンティーかぁ。」と、反対派が放ったキーワードにかなり影響されている様子。それを見た賛成チームは苦し紛れか、「クローン技術の発達は時代の流れだからしかたないんだよ!」と相手を納得させると言うより自分に言い聞かせるように言った。この対戦では投票の結局、反対派の勝利。賛成派が2戦勝利した後の反対派の1勝に、クラスではくやしさとうれしさの叫び声が上がった。
■ 今回のこの授業は、高校2年生の理系の生徒が対象で、生徒の中から「社会問題の中で理科に関係ある問題を考察したい」という希望が多く出た為、『クローン人間』を題材にしたという。「今日は初めての公開ディベートだったけど、これで興味を持ってさらに深く調べ、考えてみるきっかけにして下さい。」という先生の最後の言葉に、激論を終え、満足した表情でうなずく生徒達。 生物学、社会問題、生命倫理などたくさんの要素と視点が求められるこの問題、まだまだ生徒達のアンテナはさまざまな方向に伸びていきそうだ。
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