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■「積極的に学び、学習意欲を高める授業の構築」と詠ってあるとおり、様々な授業のスタイルを取り入れている京北学園。今回はその一環として、東京大学大学院教育学研究科教授の亀口憲治先生を迎えて、高等学校3年生全員の190人を対象とした授業が展開された。
■授業のタイトルは、『志』を共に創る授業。「みんなはもうすぐ卒業だね。そのみんなの今後のことを考えるためにも、忙しい亀口先生に今日はきてもらいました」…川合校長先生のご紹介をうけて、亀口先生が教壇に立たれた。
■「私がみなさんの年には、(福岡から)東京に出てくることになるとは思ってもいませんでした。まったく自分のプランになかったんです。そして、今は東京大学にいて、みなさんと同じ高校3年生の授業も持っています。これも想像もしていませんでした。…人生というのはそういうことが起こりうるんです。」…生徒の前に立たれるや否や、ご自身のキャリアについて話し始める亀口先生。大きな視聴覚室がしんと静まり返っている。
■ここで配られた一枚の紙には、辞書から抜き出された【志】の文字に関する説明が書いてあった。志、という文字は「足」と「心臓(心)」の2つの要素を持つ字であることが図式化されていた。「社会に出たときに培った“知識”や“自分自身”をどう使うか。足をどう使ってどこに向かっていくのか。これらを考えなくてはいけない。そのときに自分の“心”がとても重要になってきます。

ホワイトボードにも図を書いて説明して下さった亀口先生。
■「そして自分の未来をどう創造していくのか、切り開いていくのかということは、教科書には書いていないんですね。独学しかない。今の時代は、これがきちんとできる人が人生の勝者になります。まさに生涯学習の時代なんです。」「今日はこのことをこの短い授業の時間の中で、共に創っていき、みなさんの長い人生をを考えるヒントをみつけてもらいたいと思います。」亀口先生がなぜ『志』という文字を選び、授業のタイトルとしたのかが解き明かされていく。
■ここでもう一枚紙が配られる。そこには、私の人生プラン、20代のプラン、30代のプラン…というように数行でプランを書き込むスペースが、なんと80代まで用意してあった。締めくくりには「最後の言葉」まで記入するスペースもある。はじめに「私の人生プラン」を埋めてみよう、という指示が与えられた。
■書き終わった頃に、今度は、近くの6人でそれを見せ合ってみて、という指示があり、ざわついた会場が一層にぎわう。生徒たちは、これを見せ合うことになるとは予想していなかったようだ。さらに最後には、グループの代表者から全員にむかって発表をするところまで「私の人生プラン」がオープンになっていく。しかも、この作業はこれから何回も続いていくことになる。亀口先生の進め方では、こうして自分の考えに集中する時間と、それを仲間で、そして190人全員で分かち合う時間が組み合わされているのである。
■ここで、生徒たちからどのような「人生プラン」が発表されたか、ご紹介しよう。将来のイメージを持っている生徒からは工学士、プログラマー、公務員など、具体的な名称が出てきたが、多くは「のんびり暮らしたい」「平和な人生をおくりたい」など、まだまだ“未定”であることが伺える内容であった。
■漠然とした発表が多かったせいか、どことなくとまどっている会場の生徒や見守る先生たちに対し、亀口先生からこのようなコメントがあった。「今、突然人生のプランをたてて、しかも発表するというようなことをやってもらいました。突然のことというのはこれから先も起こります。それをどう乗りこえるか、ということが課題となります。そのとき、それがちょっとしたことであっても“勇気”を振り絞ることが大事になってきます。能力の差は大したことではありません。こうした“勇気”“志”を貫くことが人生を決めていくことなのです。」
■まるで、謎解きをしているような感覚。紙が配られ、数行のスペースを「埋めなくてはいけない」と思った生徒もいただろう。しかし、亀口先生の意図は「埋めること」でなく、その状況に「どう対応するか」というところにあったのだ。
■ここから会場を包む空気が変わってくる。考え、記入し、話し合い、発表する。このプロセスは、時間いっぱいまで続きそうだ。生徒たちもこれから先は適当に“埋めていけばいい”ということでもなさそうだという状況を察し、明らかに取り組みに対する表情が変わってきた。真摯な、とてもいい表情になってきた。ここで休み時間に入るものの、殆どの生徒が席を立たないで、まるで授業が続いているかのように仲間と話し合っている。
■チャイムがなり、次の時間がはじまる。今度はさらに目前に迫った「20代のプラン」を書きこんでいく。今度は、まず「プランの立て方」の説明をうけるところからはじまった。生徒たちの目は真剣だ。
■「それでは、プランの立て方を説明します。目を閉じてひざの上に手を置き、自分の呼吸に注目してください。息を吸って、丁寧に吐きだします。この“息を吐く”のがとても大事です。…そして、イメージをしてみましょう。20歳、21歳、22歳…27、28歳の自分を…。成人式を迎え、やがて社会人となり…伴侶がいるのかな? あるいは子どもがいるかもしれません。さぁ、今浮かんだイメージを、「20代のプラン」のところに記入してみてください。」
■亀口先生のもう一つの顔でもある臨床心理やカウンセリングの手法を用いながら、生徒が将来のプランを考えることが“苦痛”にならないように、リラックスしながらイメージできるように優しく誘導してくれたのだ。この方法も意外ではあったが、生徒たちはすでにすんなりそれを受け入れる体勢に入っており、見ていてまったく違和感を感じない。亀口先生もこのことには大変感心をされていた。
■記入後、今度は6人の中で“最もユニークなプラン”を発表してもらうことになった。
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登山をしているイメージが浮かんできた。 |
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遊んでいてつかまってしまった。(笑) |
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オレは大物になりたい! |
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リングの上でたたかっていて、結婚していて子どもが2人いた。その先はヒミツ。 |
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光ファイバー事業をして、高速インターネットを体験していた。 |
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すし職人になっていた。 |
■具体的で、まさにユニークなプランが公開された。生徒たちも楽しそうだ。さらに次は「30代のプラン」へと進む。ここでは、20代の経験を踏まえた30代を語る生徒もでてきて、彼らがプランというものに連続性や関連性があることを感覚としてつかみはじめていることが伺えた。
■残り時間がわずかとなり、まとめの講義となった。先生は、ここでもやはり“プランは思うとおりにならない”ことを強調された。この先自分の「志」を持ちつづけることができるかどうかは非常に難しいが、要はそのときに“どう対処するか”が重要と話された。
■「特に男性は40代には“厄年”がおとずれ、能力があっても、向上心があっても、困難な状態にぶつかったりします。むしろそういう人ほどなってしまいます。ですからがんばってもダメなときにはどう対応するか、その構えを教えましょう。それは、さきほどと同じようにイメージをしながらリラックスして気持ちを落ち着かせることなんです。」とアドバイスを下さった。
■「40代以降の残りの人生のプランについては、今書くのは難しいかもしれませんが、時がきたときに自分で作ってみてください。そして歩んでいってみてください。自分の人生は、自分で設計して周囲の助力を得ながら実現していくものです。高校生活残りの3ヶ月間、そういうことを自分に問いかけながら、実りのある人生を切り開いてみてください。そのための“資源”はこの学校で十分学んでいるはずです。」
■こうして亀口先生と「共に創る授業」は終了した。自分の足で人生を切り拓くことの重要性を強く強調されて教壇を降りられた先生の姿を見送っている生徒たちからは、授業のはじめに見せていたような子どもっぽい表情が消えていたように感じられた。
■その表情の奥で彼らは、この6年近くで培ってきたであろう“資源”を振返っていたのだろうか。
それとも、これからの長い人生のことを見つめているのだろうか。
NTS
教育研究所 渡部 亜希子
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