NTS教育研究所NTS教育研究所
ホーム学校リサーチ:学校レポート私立中高一貫校レポート:湘南白百合学園中学・高等学校 第52回 音楽コンクール


湘南白百合学園中学・高等学校
第52回 音楽コンクール

2002年7月8日
by 前田恭子

■ 「お約束ですよ。中学高校生はもう大人です。私の声が途中で消えてしまわないように皆さん協力してください。」

■ 藤沢市民会館で行われた湘南白百合学園中学・高等学校の音楽コンクール、成績発表の最中である。深堀校長先生は生徒に注意を促すが、第1位を発表した次の瞬間、信じられないような歓声がホールにこだました。


■ その日、開場となる10時15分には会館前に保護者の列ができていた。全校生徒で席がほぼ埋まってしまうので保護者への発券は少ないそうだ。「パパも楽しみにしていたんだけれど、チケットは1枚しかないからね。」と嘆きつつ満面笑みのお母さんの姿があった。

■ 10時30分を期に朝礼が始まる。生徒の指揮に合わせて校歌を歌うと、既に声がひとつに揃っている。ピアノと4人のコーラスがマイクを通して主旋律をカバーし、これから始まる音楽コンクールのレベルの高さをうかがわせた。

■ お祈りを合唱して、深堀校長先生より挨拶、中学1年生が開会の言葉を務めた後、審査員紹介。カトリック典礼音楽に精通する白百合女子大教授の新垣壬敏先生、お茶の水大学助教授で聖歌隊の指導もしている永原惠三先生、オペラ歌手で卒業生でもある宇佐美瑠璃先生を、拍手で迎える。


■ 午前中は中学生の部が行われた。中学1年桜組は『夢に向かって』を合唱する。整列したまま舞台に流れ込み、曲紹介に合わせて指揮者と伴奏者がお辞儀をすると、すぐに位置について合唱を始める。「明日に向かって決して諦めないで」と高音の伸びに初々しさを感じる歌声で、演奏後も整列を崩さず舞台から退場する。

■ 変わって1年菊組は、テンポの良い『もしも、もしもし』を歌った。歌詞の面白さと、右から「もしもし」左から「もしもし」と聞こえるステレオのコーラスが楽しい。梅組は『芭蕉布』。流れるような柔らかい指揮とピアノが、コーラスを上手くリードしていた。百合組の『美しい季節』は、「こんなに近くに幸せが見える」と、日常の何気ない幸せへの感謝と旅立ちの決意を歌った。どのクラスも4週間の練習とは思えないほど歌いこんでいる様子。それだけ思いが入っていることに感動を覚えた。

■ 中学2年桜組は、映画「サウンド・オブ・ミュージック」から『私のお気に入り(My Favorite Things)』。自分たちで英語の詞を日本語に訳して、チャーミングに歌いあげる。菊組は「魔女の宅急便」から『めぐる季節』。久石譲作曲の切ないメロディーを表現すると、次の梅組は運動会で定番の『クシコスの郵便馬車』を日本語詞で小気味良く歌った。百合組は『Zip-A-Dee-Doo-Dha』で無伴奏の部分を設けるなど、高い技術を披露する。

■ 中学3年桜組は、夏木邑介が編んだ『通りゃんせ』。無伴奏の部分を終えて伴奏が戻ったときの違和感が全くないのはすごい。菊組は合唱組曲「海の風景」の4曲目、『寒ブリのうた』を「生きてるはねてる寒ブリ」に負けず抑揚たっぷりに歌い上げる。梅組の『天使と羊飼い』はコダーイ(Zoltan Kodaly)の名曲。途中に天使のソロが入ってなかなか格好が良い。百合組は沖縄の「島こども歌」から、夢のように流れる『てィんさぐぬ花』と複雑なハーモニーが絡み合う『雨どーい』を。さすが3年生と思わせる聴き応え充分な合唱だ。


中3梅組 自由曲 『天使と羊飼い』

■ ここでは駆け足での紹介だが、どのクラスも落ち着いて聞ける優雅な雰囲気を持っている。お昼休みを挟んでさらにレベルアップした高等学校の部が行われるのだが、お弁当を早々とお腹に収めて、クラスで集まって最後の練習をしている姿に並々ならぬ闘志を感じた。短い期間中みんな今日のために必死になって練習を重ねてきたのだ。


■ 高校1年桜組は『マンモスの墓』を全くの無伴奏で聴かせた。悲しいマンモスの絶滅理由は、どんなに悩んでいても「ボク食べよ♪」と食べてしまうことが原因だったというユニークな歌詞。間宮芳生の作品で、ユニークな中にも技術が要求される。菊組は「天使にラブ・ソングを・・・」から『I will follow him 'Chariot'』を手拍子と振り付きで。指揮者もまるで踊っているような躍動を披露した。梅組は「マザーグース・メロディ」から『こまどりをころしたのだれ?』。間奏中には、深く悲しみ俯く演技を見せる。百合組は「キャロルの祭典」から『Procession This Little Babe』を無伴奏で始める。途中から伴奏が入っても全くぶれないコーラスの声量で圧倒する。高校生になって、合唱以外の演出を入れる余裕が出てきた様子。

■ 高校2年桜組はシューマン(Robert Schumann)の『流浪の民』。ピアノも指揮もサポートに専念してコーラスを盛り上げる。菊組は中村透の「四つの沖縄の歌」より『別れの歌』と『舞の歌』を、沖縄独特の音階で気持良く歌い上げる。梅組は「海は見てきた」から『岸辺にて』で、抑揚のあるドラマチックな展開を表現し、百合組は霊歌『ジェリコの戦い』で、ソプラノの伸びと安定したアルトを聴かせた。

■ 高校3年桜組は『Ave Maria』をゆったりと聴かせる。高く伸びる高音も危なげなく重厚なハーモニーを創り上げる。菊組の歌う『エトピリカ』とは、アイヌ語でくちばしの美しい鳥のこと。迫力のあるコーラスに負けないぐらいピアノも頑張っていた。梅組はヘンデルのオラトリオ、「メサイア」から『わがためみとりごを神は与えたもう』を見事に披露し、百合組は無伴奏で、「聖母マリアへの讃歌」を意味する『Salve Regina』を、不協和音の難しいハーモニーや旋律の難しさを物ともせずに歌い上げた。


高3百合組 自由曲 『Salve Regina』

■ 各学年の課題曲も、それぞれ1年ずつの成長を追いかけるように楽しく拝聴した。みんながこの日のために協力し合った結果はどうなるのだろう。4月にクラス編成したばかりの新しいクラスメートと一緒に頑張ってきた4週間の練習。どのクラスも短い期間ながらずいぶん歌いこんでおり、どのクラスもみんながひとつになっている感が溢れていた。どのクラスにも賞をあげたい。審査時間をしばらく置くと、成績が発表される。


■ 成績発表を前にして、まずは審査員の先生方からの講評を聞く。

宇佐美瑠璃先生より
私は混声のコンクールに呼ばれることが多く、女声は初めてで楽しく聴きました。どのクラスも実力があります。逆に差がありませんね。発表前だから言えませんが、私が◎を付けたクラスが賞から漏れてしまったので僅差だったのだと痛感しました。だから自分のクラスが賞から漏れていても落ち込まないでいてください。それぞれの心に響いた歌声が、それぞれの皆さんのNo.1だったことは間違いないと思います。
永原惠三先生より
昨年は参加できませんでしたが毎年楽しみにしています。このコンクールに参加するたびに日本の合唱の層が厚いことを実感します。どのクラスも素晴らしい。ただ少しだけ物足りないなと思うのは「言葉の追求」です。国語でも文字面だけを読む場合と、文章の意味を考えながら読む場合では聞く人の心への響き方が違ってきます。心より大きい魂で表現することができるように言葉というものをもっともっと追求して、さらに良い合唱を追求してください。
新垣壬敏先生より
今年はドラマの影響でしょうか、沖縄の曲が多かったですね。ノッてるコーラスとノッていないコーラスがあったようですが、沖縄独特の↑ドミファソシド、↓ドシソファミレドという音階はノリが良くて楽しいものですね。宗教音楽が多いことも嬉しい縁を感じます。アヴェマリアを高校3年生が歌いましたが、ザガリアというユダヤのラビは「望んでいた男の子が産まれますよ。」という言葉を信じなかったせいで口がきけなくなってしまう。人は素直に聞くことをやめてしまった時から成長が止まるということですね。アヴェマリアの中にも、マリアがとても良く聴く人であったことが語られています。みなさんも歌い手である自分が第一の聞き手となれるように、これからも頑張ってください。

■ 先生方の講評を頂くと、深堀校長先生が演壇に立ち「これから成績を発表しますが、節度ある態度できちんと最後まで発表を聞きましょう。」と注意を促した。

■ 「中学の部、努力賞は、『寒ブリのうた』を歌った3年菊組です。」
うわぁっと声があがるがしばらくして収まると、次は3位の発表に移る。3位は2クラスあり、『てィんさぐぬ花』『雨どーい』を歌った3年百合組と、『クシコスの郵便馬車』を歌った2年梅組が受賞した。2位は『通りゃんせ』の3年桜組。そして1位は『天使と羊飼い』の3年梅組、課題曲の優勝は3年生の『Benedictus』となった。会場から沸き起こる歓声をいったん静めると、高校の部の発表へと続く。

■ 高校の部、努力賞は2クラスで、『エトピリカ』を歌った3年菊組と『別れの歌』『舞の歌』を歌った2年菊組。3位はなんと1年生からの受賞で、『マンモスの墓』を歌った1年桜組。2位は『Ave Maria』の3年桜組で、1位を飾ったのは『Salve Regina』の3年百合組、課題曲の優勝は3年生の『Amen』となった。

■ 信じられないような歓声がホールにこだまする。2位と3位のせめぎ合いもさることながら、1年生が受賞した快挙にも感動させられる。今度の歓声はなかなか収まらず、ホールのあちこちでみんなの嬉しさが湧き上がっている。表彰ではクラスの代表が校長先生から賞状やトロフィーを受け取り、審査員の先生方に一礼をして、会場のクラスメートにトロフィーを掲げて一礼。涙を拭いながらの姿も見られた。

■ 全ての表彰が終わると、興奮冷め遣らぬままの高校3年生は舞台に上がって、『御空は語る神の栄誉』を歌った。俯いてしまったり、顔を手で覆い隠して歌えなくなってしまう生徒もいる。合唱が終わると自ら盛大な拍手で称え合う高校3年生に、会場の高校1、2年生や中学生、先生や保護者からも惜しみない拍手が寄せられた。閉会の言葉は高校3年生から。奇しくも高校の部で優勝を果たした高校3年百合組の代表が、涙で声を詰まらせながら思いを語った。会場から「頑張って!」と声援が飛ぶ。

■ 「音楽コンクールに向けてみんながひとつの目標に向かって過ごしてきました。この4週間は決して楽なものではなく、時にはチームワークが乱れて涙したり。放課後も遅くまで残って頑張り、身体的にも精神的にもギリギリまで頑張り通しました。こうしてコンクールを終え、今は何とも言い表し難い気持でいます。毎日毎日一緒に頑張り通した仲間達には、強い絆を感じずにはいられません。私達の音楽コンクールを陰で支えてくれた先生方に感謝します。」

■ 最後に音楽コンクールの最後を飾る『御母マリア』を全校生徒が歌う間も、会場のいたるところから涙の色が溢れていた。

■ 保護者席にも感涙に咽ぶ父母の姿。多感なこの時期に娘が大切な宝物をまたひとつ手に入れたことを喜んでいる姿があった。

「ではみなさん気を付けて、ごきげんよう。」
「ごきげんよう。」

■ 会場の外に出ると、クラスで円陣をつくり栄光を分かち合う生徒たち。どの顔もキラキラと明るい陽射しに照らされて、とびきりの笑顔が輝いていた。


このページのトップへ▲
ホーム学校リサーチ:学校レポート私立中高一貫校レポート:湘南白百合学園中学・高等学校 第52回 音楽コンクール