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東京女学館中学校 <伝統の継承と、未来への扉>

2002年4月26日
by 前田恭子

■ 「私って何?学校、女学館って何?」と書かれた黒板を前に、教頭先生が講義を行っている。4月、東京女学館中学、新1年生の各教室では、学校の歴史や卒業生について知るためのオリエンテーションが開かれた。




■ ザラ半紙にコピーされた創立史のプリントが配布される。長い女学館の歴史を分かりやすく時代ごとに追いかけた文章で、それ自身が戦前戦後の女性史とも言える奥深いものだ。

■ 新1年生はグループに分かれて託されたパートを要約する。プリントを読んだり罫線を引きながら話し合ったりして協働作業で要点をまとめていくと、まだ入学して間もない新入生たちの間にリーダーシップやサポーターシップの役割が芽生えてくる。各グループの代表は、グループでまとめた要約とポイントとなる単語や文を、理由も添えて発表していった。

■ 女子教育の必要性を痛感した時の総理大臣伊藤博文、澁澤栄一、岩崎彌之助、外山正一らによって「女子教育奨励会創立委員会」が設立されたこと。会の経営で英国から7名の女性教師を迎え、麹町永田町にあった宮内省所管の建物(雲州屋敷)を貸与されて明治21年9月に東京女学館が開校されたことなどが、この4月に東京女学館に足を踏み入れたばかりの新1年生の口から語られる。

■ 開校2年後の明治23年には旧工部大学校生徒館の貸与を受けて虎ノ門に移転する。この校舎が大正12年の関東大震災で焼失すると、渋谷羽澤の御料地、(現在の広尾校舎所在地)に移転し、昭和3年に旧本館を竣工した。

■ 「女子教育奨励会」は時代の進展とともに昭和5年に改組して、澁澤栄一第5代館長のもと、財団法人となる。設立の当初から「知性豊かな気品ある女性の養成」を建学の精神として設立され、以来校是として連綿と受け継いできた女学館の現在の教育目標は「高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成」だったが、一時「やがて人の妻となり母となる女性の育成」を掲げた時期があった。

■ 新1年生がグループごとにプリントから発掘したポイントは「女性の扱い」にまつわるものが多く、この「良妻賢母」への指針転換もそのひとつだった。創設にあたっては「日本の貴婦人への教育の遅れ」から女学館が創られたこと、明治27年には小学校も建てられたが「女子教育への無理解」から5年で廃止となったこと、「欧米に負けない女子教育」という指針(ミッションステイトメント)がいつしか「良妻賢母の教育」へと変っていったことなどがポイントとして発表され、教頭先生はそれぞれに時代的な背景があったことを生徒へと語る。生徒の手による要約には、数多くのポイントを漏らさないよう配慮したものが多く、また教頭先生の説明もそれにつれて多くなり、早々と予定の1時限が終わってしまった。

■ 教頭先生は2時限目には他のクラスへ回ってしまうため、クラス担任の先生がオリエンテーションを引き継ぐ。戦後、社会の変化に対応して女性の能力開発や、次世代の女性の自己実現が叫ばれ始め、新しい教育が台頭する。この流れの中で最後のグループが「ポイントは、性別差別をなくし、英語教育、最先端教育、海外交流に力を入れて『女性のリーダーシップを育成』することが女学館の目標だということです。」と発表を終えると、担任の先生は「館長先生が良く使われる言葉です」といって「責任」という言葉をあげた。「『女性の自立』とひとことで言いますが、それは『失敗したときにはその責任を負う』ということでもあるのです。」

■ 「駆け足で女学館の歴史を追ってきましたが、今は女学館だけではなく、日本の多くの学校では同じように男女平等や新しい教育のあり方を唱えています。今では当たり前のことだけれど、女学館のすごいところは明治のまだ誰も女子教育が必要だなんて考えなかった頃から女子教育の重要性をずっと唱えていたことにあると思います。このプリントにはみんながポイントを拾ってくれたように、重要な日本の女性の歴史が書かれていますから、後からじっくり読み直してみてください。」

■ プリントの内容を終えると、国語を専任とする担任の先生は鹿児島の出身ということで、幼少の頃はまだまだ男尊女卑の傾向が強かった土地で苦労したことを生徒に語った。生徒たちは今までそういった情景を身近に感じたことはなかったのかもしれない。女子であるために「議を言うな」(口ごたえするな)と退かれながらも奮闘して生徒会長となったという先生の話を一心に聞いていた。

■ ここで先生の話は「良妻賢母」に戻る。「私は『男尊女卑』はひどい言葉だと思うけれど、この『良妻賢母』という言葉は考えようによってはそんなにひどい言葉ではないと思います。良き妻であり賢い母であること自体は、理想として掲げてもおかしくはない。ただ、『男女平等』や『女性の自立』とは対極の意味に取られてしまいます。それはどうしてだと思いますか?」先生は問い、妻として母としての理想を背負わせることが結局、社会に出て働く女性像を否定するものとなり、長い間女性の足かせとなってきたことを教えた。

■ 同じ女性として頑張ってきた先生は、「女性であるということ、それ以前に人間としてどうあるべきかということを、これからの女学館での生活を通して先輩方の姿に学んで欲しいと思います。」とまとめるとオリエンテーションを終えた。

■ この日、1年生の全クラスで同様のオリエンテーションが行われた。明治21年創立という古い歴史を持つ東京女学館で、新1年生は創立史をこれからの学校生活や学習に役立て、時代の女性たちの姿に習い自ら考えて、女性として人間としての新しい第一歩をあゆみ始めていく。

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