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■ 東京女学館では3本の柱の上に『高い品性を備え、人と社会に貢献する女性の育成』を掲げている。
■ 各種の体験学習によって人間性や心身を育てることを最重要視しているが、実際に社会で生きていくための実践的な能力も必要不可欠であるため、現代の女性が社会に巣立っていく上で重要な国際、環境、ITという3つのキーワードを見据えながらも、原点となる「他者を思いやる心の育成」「基礎・基本に根ざした個性の伸張」「自ら問題を発見し、解決する力の育成」という3本の柱を軸として学習を展開しているのだ。
■ その手始めとして中1のボランティア体験では「自己理解・他者理解」を学習目標に掲げて「他者を思いやる心の育成」に取り組む。被爆者との半日に及ぶ交流を通して今まで意識しなかった「他者」の存在を認め、共存するためにはどうしたらいいのかを考える作業を始める。このきっかけづくりはその後の環境、平和などの課題にもつながっていく重要な役割を担っている。
■ 身近な「他者」であるクラスメイトとの関係が深まっていくと、次には壁新聞を素材としてワークシェアリングが始まる。グループで共同作業を展開することによって課題に対する多様な切り口を見つけ、相互の意見交換で解決法を探り、協力して解決していく。最終的には学年ごとにプレゼンテーションを行い、充実したエンカウンター体験をここでいったん結ぶ。そして夏に行われる軽井沢での学習はエンカウンター復習の場となり、広く環境学習というカテゴリーでくくる多彩な学習の機会を再び与え、一段階ステップアップした物の見方につなげていく。
■ この1年間の体験学習を通じて、クラスや学年での友達づくりの中から効果的な自己開示方法やトラブルの解決法などの「どうやって他者と共存していくか」という基礎的な事柄をロールプレイも交えながら体感した結果、生徒達は飛躍的に人間的な成長をみせるのだ。
■ ところで、女学館では数々の行事に際して企画運営を担うのは生徒である。生徒会という固定された存在だけでなく行事の実行委員会として有志を集う場合が多く、その行事の企画立案に本気で関わっていく過程では教師との白熱の議論が展開されるという。
■ 修学旅行などの大きなイベントでは、スケジュールの草案から実行委員会と教師との激しい攻防戦となる。結果、苦労して運営してきた修学旅行が終了して解散式が行われても立ち去ろうとせず、いつまでもお互いを抱擁しあう姿が見られるそうだ。
■ この実行委員会方式でのメリットは、実行委員として選ばれた生徒だけでなく実際には周囲の生徒たちを自然に巻き込んでしまうところにある。不慣れであったり特別な思い入れがある生徒が行事運営に立ち、周囲の多くの生徒が支え、例えようもない充実感を共有できる。また学校全体にとっては学年ごとの知識の蓄積ができるという。昨年の先輩の経験を通して今年の委員が学び、新しい情報のもとで対応することができるのだ。こうして学年間での情報の共有や伝達も含め、濃度のあるエンカウンター学習が展開される。
■ この実行委員会活動に象徴されるように、伝統ある東京女学館といえども決して大人しい訳ではないのだ。中1のとき、大枠が設定された行事の中でエンジンを動かしていたのは最初は先生であっても、議論を重ねながら自分たちの力で動かしていくことを自然に覚えていくことができる。体験学習のみに留まらず学校生活における様々な問題に対しても自分たちでテーマを発掘し議論を重ね、グループ、クラス、学年、学校という各単位でのビオトープを形成していく力強さを持つのだ。
■ そのためにも先生方は、中1、2では生徒が自ら主役になれるような学校づくりを進めて、中3は見守る方針だという。生徒から溢れ出るパワーをいったんはその胸に受け止め、修学旅行などの行事を楽しく有意義なものにするためのアイディアと、ただ「やりたい」だけの思い付きを区別することなどで、間違った方向にベクトルが向かないように指導している。先生方の見守りのもとで修学旅行の意味を真剣に討論してきた実行委員会から、運営時に生徒同士でも相手の意見をしっかり聞いて、我がままをたしなめるような場面も見られるようになり、他者との深い係わり合いの中で自己の内的宇宙を広げる作業を推し進めていく。
■ 中1 ボランティア、中2 環境、中3 平和と、学年ごとにテーマを持つ体験学習を通して徐々にこの内的宇宙の存在を認めだした生徒は、平和に関する体験では対人哲学を発見することもできるようになるという。こうして学校側は、他者とのあるべき関係を築くために必要な知識や環境を段階的に生徒たちに提供している。
■ 例えば中3での広島修学旅行の後には平和講演会として、JAHDS(ジャズ)所属の女性活動家による地雷除去に関する講演を聞いてジェンダー問題にも関連付けた。そこには対象への興味や問題発見の糸口、より広いビジョンの形成へと続く総括的な流れがあり、時期をおかずに広く関連性のある知識を積み重ねることによって、情報に高い関心と感動を保つことができた。将来的に大学や省庁の仕事に就くことよりも国連関係の仕事に就きたいという進路希望が出てくるのも頷ける話だ。
■ 多彩な体験学習に導かれて中学の3年間で体系的に「問題を見つけ、つかみとって、発表する」能力を蓄積していくと、高1ではこれらの学習能力を用いて学習の集大成ともなる「小論文」に取り組む。
■ 高校1年生の1年間を通じて取り組むこの「小論文」は、総合的な学習の要素を濃く持っている。始めに研究テーマについて先生との面談を繰り返すことで問題を深く掘り下げることができ、論の立て方や参考文献などについてきめ細かく指導がなされる。じっくり1年間かけて取り組むことで、課題や問題の発見過程がより意味深いものとなり、関連知識の蓄積によってより具体的な解決方法を導き出すことができるようになる。
■ 先生とのコミュニケーションの中で問題の軌道を修正→発展させ、新たな情報を受け取って解決法に加える。それらの地道な作業が最終的なプレゼンテーションに掛ける情熱や独自の論説に確信を持つきっかけとなる。こうやって知識分野を広げて組み立てる作業が身につくと、将来的なコラボレーションの可能性を広げることにつながっていくのだ。
■ まだ実験的な学習だが女学館ではこの2年間、中3の2学期に保護者を巻き込んで職業に関するアンケートを実施している。親からのアンケート回答に対して生徒から質問を寄せてもらい、親子の対話を実現。職業意識の向上はもとより、親の価値観への認識を通して生徒が自分の「生き方」について考えるチャンスを提供しているところが重要である。
■ また前述したように、ボランティア活動では中1で被爆者と半日以上の関わりを持ち、中3になると重度の障害者や高齢者との関わりを通じて他者を思いやる心を育み接し方を考え、共存する上での問題を発見し解決法を探る。今まで知らなかった存在と対面し理解して受け入れ、世界の広がりを認識して価値観の設定→修正を繰り返する。中学3年間の数々の体験を通して、内的には「突き詰めること」、外的には視野や理解を「広げていくこと」を求めていると言える。
■中1の時点で生徒たちは他者という認識を知識として持っているだろうか?日常の経験の中で漠然としたものを持った生徒はいても、なかなか知識として体系的に認識しているものではないだろう。中学入学後、他者を認識し理解して思いやることから始まる良質の体験が折に触れ生徒たちの心を目覚めさせるきっかけとなり、自ら立ち上がる自主性や問題解決能力を育てていくのだ。
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