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§3 ENAの完全移転にみるフランスの現状と日本の関係

by 岡部憲治
2005/06/22

■ フランスの教育システムでは、小学校(エコール プリメール)を5年間で修了したあと、中学校(コレージュ)に進学しそこで4年間過ごす。卒業時にはBEPC(ブルヴェ デテュード デュ プルミエ シクル)という前期中等教育修了の証となる卒業試験があり、その後の中等教育で
「見習い技能者養成センター」・「職業リセ」・「リセ」の3つの選択肢に別れていく。
そのうち、「職業リセ」に進んだ者は「職業バカロレア 取得過程」へ、
「リセ」に進んだ者は「大学」 or 「グランド・ゼコール準備級→グランド・ゼコール」 or 「中級技術者養成過程」を選択していくことになる。
 つまり、10代の学生時代に将来への分岐点が早々と迫られるシステムだ。

◇ ◇ ◇

■ なかでも、グランド・ゼコールは厳しい選抜試験があり入学者の数が限られている。入学するのも一苦労だ。グランド・ゼコールと言えば、「ENA」がすぐに頭に浮かぶのだが、実際には国立と私立があり、理系の「理工科学校」、文系の「高等師範学校」、そして「ENA(国立のみ)」となっているようだ。フランス政府留学局エデュ・フランス日本支局のHPでは

「官僚のみに限らず、高いレベルの技術者や経営者など産業界を担う人材や、芸術、文学、人文科学の専門家を養成」

と記載されている。
なるほど、あらゆるジャンルでのトップランナー・フロントランナーを育てていこうということか。

◇ ◇ ◇

■ ENAと言えば「高級官僚養成」としての機能を担い、大学とは別の高等教育機関として他国に比べその独自性が目立っていた。そのENAが創立60周年を機に、EU 評議会のあるストラスブールに完全移転することになった。それに伴い教育方針も変えるようだ。つまり創立当初からの「フランス再建を担う人材育成」という目標が、昨今の国際化あるいはEUとの関係のなかで大きなズレを生んできてしまっているからだ。

◇ ◇ ◇

■ 確かに、最近のEUにおけるフランスは主要国の1つであるにもかかわらず言語では英語におされ、EU憲法の批准では先頭きって「Non」を打ち出した。EUの設立当初から柱として参加しているのにこの結論は何を示すのだろうか。もしかしたら中央集権体制が国としての結束力を強くしそれが連合体縛りに対するカウンターな姿勢となって表れたのかもしれない。

◇ ◇ ◇

■ ストラスブールはアルフォンス・ドーデの「最後の授業」の舞台となるアルザス・ロレーヌ地方に位置しドイツとの国境だ。歴史を紐解けば「振り子のアルザス・ロレーヌ」と言われるくらいで、フランスになったりドイツになったりとその歴史は「戦争」そのものを物語っている。その過程でこの地方特有のアルザス語が形成されたわけだが、基本的には家の中で使われている言葉のようだ。つまり、学校ではフランス語で授業が行われ、第二言語としてドイツ語を学びさらにその後に英語を学ぶのだ。

◇ ◇ ◇

■ そういう歴史的背景やEU機関の中心地ということもあり、国内外のモビリティー度は高い。そんなストラスブールにENAが完全移転するのは将来の何かを見据えてのことだろう。実際のENAの授業でも

EU関係機関を授業や研修に取り入れ、EU問題や欧米の貿易問題などの理解を進める。
研修先には今後、世界の多国籍企業も含めるという。 (読売新聞記事より)

 ということだ。

◇ ◇ ◇

■ つまり、今回のEU憲法批准の「Non」には国と密接に関わりのあるENAの教育改革の遅れが要因として含まれていたわけだ。実際、投票結果でストラスブールは地域別で「賛成」だったのだ。
 ENAの解体論まであるということだがまずは様子見だろう。何事もはじめてみなければわからない。そこからまた検討して、結果として解体ということになればそれはそれで一つの選択だ。

◇ ◇ ◇

■ フランスは国の変革という意味でのENA移転以外にも、科学技術の面、特にナノテクノロジー分野で日米に追いつき追い越せと4地域を研究拠点としている。なかでも、文豪スタンダールの生地として知られるグルノーブルは国際拠点として急速に発展しているそうだ。先端科学技術都市としての役割は

20カ国以上、約280の国外企業の進出、高等教育機関に在籍する10%が外国人、高校では4カ国語、中学校では6カ国語の教育を提供している

ことからも伺える。参考記事中でグルーノーブル理工科大のA・R・ヤバリ教授が

「地理的な差が大きい。欧州では今や、国境を越えて仕事をするのも当たり前だから」

と言っている。
 ENAが完全移転するストラスブールやナノテク国際都市グルノーブルに住む人々の意識は今後フランス全土になんらかの影響を与えていくのではないだろうか。

◇ ◇ ◇

■ 今年の11月にフランス留学フェアが日本で開催され、フランスの高等教育機関(大学、グランド・ゼコール)が紹介される。アメリカに次ぐ第2位の対日投資国であるフランスは文化交流がその経済関係を深化させたと駐日フランス大使のベルナール・ド・モンフェランさんは述べている。ということは、文化交流の要である教育において日本とフランスが交流をもつことは意義が深いだろう。実際、大学間協定は300を超えているそうだ。では、初等教育、中等教育のレベルではどうなのだろう? 個人的にはあまり聞いたことがない。

◇ ◇ ◇

■ 昔から日本の文化に親しみを持ち、マンガ・アニメにも早くから興味を抱きコスプレ大会まで開催されるほどの人気があるフランスに対して、日本からフランスへの興味はどこにあるのだろう? ブランド? 絵画? 音楽? ワイン? パリ? リュックベッソン? エッフェル塔? ベルバラ? イヤミ? その程度のキーワードしか浮かばないとは我ながらお粗末。J-POPに対するF-POPを見つけてみるのも草の根レベルの文化交流としていつかは役に立つかもしれない。 
 歴史や芸術ももちろんだが、今の流行文化を知ることでファーイーストな国「日本」と芸術とワインの国「フランス」の物理的な空間は縮まると個人的には考えている。

◇ ◇ ◇

■ フランス政府は、2050年には人口が7500万人に達しドイツを抜きEUで最大になるとの見通しを発表した。特に、出生率が1.9と「EUの平均1.5」を大きく上回る結果が貢献している。「育児」への政策が功を奏したようだ。対照的に日本は1.28と低下を更新している。フランスの政策だけでなく文化交流という活動のなかに出生率に関する何かを見出すことができれば、駐日フランス大使の言う「文化交流の重要性」はさらに深まり日仏関係の発展が期待できるだろう。
 なにはともあれ、「変化」と「つながり」は新たなフェーズを生み出すに違いない。

 

[参考記事・参考放送・参照URL]

読売新聞「日仏のきずな 経済関係支える文化交流」より

読売新聞「仏・エリート養成学校ENA パリ去って変われる?」より

読売新聞「仏 ナノテク都市グルノーブル 分野も国境も超え欧州最大の国際拠点に」より

朝日新聞「フランスの人口、2050年に欧州最大に 仏政府見通し」より


フランス政府留学局エデュ・フランス日本支局  http://www.edufrance-japan.com/index.html
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