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■ 子どもたちの学力低下がとかく騒がれるようになった昨今。これからの社会に、子どもたちの未来に、求められる学力はなにかを根幹から問い直す動きも見られている。麻布の理科の入試問題から、同校の掲げる学力像を探りたいと思う。
■ 大問1では、草食動物の消化に関する問題が出題されている。草食動物にとって食事の中心となる草には、セルロ−スが多く含まれる。しかし動物には、セルロースを分解する消化液がない。草食動物はどのようにセルロースを分解しているのだろうか。問題文はウシとウマのセルロース分解のしくみの違いを、やや長めの文章で説明している。文章を読み解き、理解する力がまず、試される。
■ 同じ草食動物でも、ウシとウマでは消化のしくみが異なることを知った受験生。彼らには、「ウマよりウシのほうが、同じ量のエサからずっとたくさんの栄養をとることができるのはなぜか」、また、「フン食(こう門から出てきたフンをもう一度食べなおす習性)をする動物の消化のしくみは、ウシとウマのどちらに近いか」など、得られた知識をもとに、自分の頭で考えることを求める問いが用意されている。特に後者の問いでは、まず、自分のなかでどちらが近いと思うのか納得がいくまで考える過程が必要となる。さらに、そう判断した理由を他者に文章で伝えるために、仮説を組み立て、検証し、それを報告するという、総合的な力が求められている。
■ この問いを目の前にした受験生は、どのように思考を巡らせるだろうか。「得られた知識をもとに自分の頭で考える」という問題設定の仕方は、たった今獲得した、消化に関する『知識』と、自分の既存の『知識』との融合を促すことになる。そして重要なのは、『知識』の獲得は、知識を獲得したという『体験』に基づいている、ということではないだろうか。
■ 『体験』は、今回のように文章から読み説くという形に限定されない。自分自身の五感を使ったり、人から聞いたり、誰かと言葉を交わす中で思いつくこともあるだろう。『体験』は、そのままでは「○○だった」「○○をした」という「事実」でしかないが、そこから「○○だった、つまり・・・」「△△ならば、どうなる?」と思考を巡らせることで、『経験』へと変換され、『知識』として自らの内に蓄えられていくのではないだろうか。
■ つまりここには、この長文には出てこなかった、自らのウマ、ウシに関するあらゆる『知識』=「知識を得るきっかけになった体験と、その時に思考したこと」を呼び起こす仕掛けがある。また、ウマ、ウシに限らず、「フン」「フン食をする動物」という部分に注目するかもしれない。どちらにしろ、自分が持っている「知識」や体験の中で感じたこと、気づいたこと、そして考えたこと…これらすべてを、瞬間的に結合したり練り上げたりするチャンスが、受験生には用意されているのであろう。
■ 説明文の読解力、独自性・創造性にあふれる思考力、そして、自分の意見を人につたえるための論理的構成力。ひとつの問題をみるだけでも、麻布中学が求める力は多方面におよんでいることがわかる。そしてこれらの問いかけは、思考の範囲を広く取って、自由な発想力や知的好奇心を刺激する効果も期待できるといえるのではないか。
■ 学力のタネとなるものは、生徒ひとりひとりの内にある。自主・自立を重んずる麻布中学校の校風のなかで、そのタネは健やかに育まれ、いつの日か美しく花開くのだろう。
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