|
■ 2月1日、東京・神奈川で中学入試が始まった。少子高齢化がますます進み、大学では志望者が全大学の定員を下回る「大学全入時代」に突入したこともあり、各私立中学校は、創造力に富んだ生徒を確保しようとその問題作りにも工夫が感じられる。その中で、例えば武蔵中学の社会・理科のある問題を考えてみよう。
■ 問題は簡潔に書くと、実際にネットが配られ、そのネットをいろんな方向に引っ張った時の網目の形で、気づいたことを書きなさいというものであった。まず、明らかに通常の入試問題と異なる点は、「ネット」が試験問題の用紙と共に配られる点だ。従来の「入試問題=ペーパーテスト」という概念を、ある意味超越した独特な問題と言える。
■ またさらに興味深いのは、実際に「ネット」を引っ張った時の網目の形から「気づいた」ことを書きなさい、ということで特にこれといって問題文から一つの限られた『正解』が見えてこないという点である。よくあるような、空欄補充の問題や記号選択の問題などとは違い、正解が一つではないという点も、一般的な問題と比べて大きく異なる。
■ 当研究所が編集しているプログラムで設定するとすれば、「引っ張った」時の網目の形とまで指定するのではなく、ただネットを配布し、そこから「ネットを見て何か気づくことを書きなさい」というような出題の仕方をするだろう。だが、今回は入試と言うこともあり、採点をしなければならないということも考慮すれば、この武蔵中学の入試問題はその制約の中で創造的な資質を見る問題と言えるかもしれないだろう。
■ それにしても、こういったある意味で四角い頭を丸くするような問題を出す意図はどこにあるのだろうか。ネットを実際に配るのと、問題用紙にネットの絵を載せるのとではどう違うのか。もちろん、ある程度のメリット・デメリットは両方の状況においてあるのかもしれないが、純粋に生徒の創造的才能を計るという点に着目すれば、この武蔵中学の方法は優れている。
■ 生徒がネットを配られたときに、どう思うのか。この問題を読んだ時にどう感じるのか非常に興味深い。とにかく合格するために、試行錯誤しながらネットを引っ張りながら、網目の形から何がわかるのか必死で考える。ネット自体の素材について気づくのか、網目の形の変化から何かを見つけるのか。いずれにせよ、そこには先述した通り、「想像力/創造力」が不可欠なはずだ。
■ 「ネット」という物から、どこまで創造できるか。知識偏重型の勉強法だけでは回答できず、その発想力や先入観に囚われない「ものの見方」が重要になってくるというわけだ。武蔵中学は世間で長らく『御三家』と言われ、世にエリートを送り出していると思われてきた。しかし、入試問題を見ると、21世紀に必要とされる創造的な人材を育成していると言えるかもしれない。
■ 社会に出る就職前の大学生にもよく言われることだが、大学入試の知識偏重型の問題は解けるけれども、コミュニケーションの能力や創造力が乏しい学生が多い。やはり、創造力というものは、大学においても、社会においても必要不可欠なことのようだ。
■ 当研究所では、中・高生を対象に以前からHonda「発見・体験学習」( http://eri.netty.ne.jp/hesp_repo/index.htm )を行っている。その中で、特徴的な仕掛けがTQ(トリガー・クエスチョン)である。TQとは、生徒が物事にたいして、多様なものの見方や議論の促進ができるようになるための引き金となるような問題のことで、それによって生徒の発想力を誘発し、その考える領域に制限を求めない開放的な創造力を養うことを目的にしている。
■ 今回の武蔵中学の、ひとつの物を見ることでそこから気づくことを書かせる問題は、ある意味で当研究所が以前から取り組んでいたTQの考え方と重なるところがあるのかもしれない。
|