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開成学園の基礎
2005年4月27日
by 本間勇人(honma@netty.ne.jp)

◆ CAL(最先端学習センター)という私立中高一貫校の先生方が集って「授業」について学びあう勉強会がある。京北学園の川合校長先生が会長で、共立女子の渡辺先生が所長である。当研究所のスタッフが事務局のお手伝いをさせて頂いているということもあって、多くの学校の先生方とお会いできる機会をいただける。まったく幸せである。

◆ そういう流れで、開成の地理学を研究されているI先生とお会いできた。I先生の授業は、その地理学の基礎の上に成り立っている。大学でも授業されているので、開成の授業のベースが学術的になっているのである。

◆ こう言うと、さすがは開成、高度な授業が展開されていると思われるだろう。たしかに高度なのだ。多くの知識を生徒たちは蓄積するだろうし、難しい内容の資料をたくさん読むという側面もあるはずだから、高度といえば高度である。しかし、そういう意味の高度さとはまた別の次元の高度さがあるのである。

◆ それは何か。私のような門外漢では到底理解は及ばないし、正確に伝えることはできず、核心の周囲をぐるぐる回るだけではあるが、1つだけはっきり言えることは、I先生の授業は国際標準に結びついているということだ。

◆ 一般に日本の授業は、教科書をなぞるように、教師が講義をしていく。まるで初めから生徒に考えさせないで、解答を並べていくようなスタイルだ。もちろん、聞く側の思考のカテゴリーができていれば、情報をインプットして、それを整理し、自分なりの考えを構築するという思考作用が、教師の講義を聞きながら同時に起きるだろう。

◆ ところが欧米の優れた授業の中には、知識を覚えるために学ぶ授業ではなく、学ぶために知識を活用するという授業スタイルがある。学習は何かきっかけがないと活動できない。そのきっかけとしてはじめは一定の知識は必要だが、その知識を多角的に複眼的に扱っていくことによって、学び方を学ぶ。この学び方が最適化されると、必要な知識はどんどんリンクされていく。

◆ I先生の授業は、そういう欧米型なのだ。そう思いながら、お話を伺っていると、I先生がフランス留学当時、ロンドン大学のある学者の地理学の影響やフランスのコミュニケーションによる学び方の影響を受けたという話題になった。それをさらにI先生流儀に熟成させているので、日本の(官僚エリートという意味ではなく)知識人を育成する授業システムがうまく機能しているのである。I先生独自のというのは国際標準をベースにしたうえでの独自性なのである。

◆ それにしても、学び方を学ぶということはどういうことなのか。それを研究するためにロンドン大学の地理学では、「認識論」というテーマを探究するそうである。そしてその学び方を学ぶ「学習活動」の「仕掛け」作りをシミュレーションするそうである。

◆ ここで大事なことは、このようなプログラムができると、その「仕掛け」作りという方法論だけが、世に広まり、「認識論」の部分である肝心のコンセプトが抜け落ちてしまい形骸化するというのが、どうも日本の一般的な教育事情のようだ。このコンセプトの部分、魂の部分、あるいは「哲学」とI先生は語られていたが、この部分を持続可能にしているのが開成学園なのだろう。

◆ この持続可能性はどこから来るのか。驚いたことに生徒たちとの問答というコミュニケーションの継続だということだ。これは開成のH先生の漢文の授業に通じる。やはり開成学園の授業は教科を超えて貫く何かがある。

◆ それはともかく、I先生が生徒に提示するコンセプト・マップは、言葉のリンクを幾重にも編み出すのだろう。言葉のリンクは生徒1人ひとりによって違う。それを結び付け1つのストーリーや論理を組み立てていけば、無限の対話が自ずから生まれるのはうなずける。実際に高3ぐらいになるとそのコミュニケーションは哲学的な対話さながらだというお話である。

◆ 思わず高橋是清時代の開成の授業風景が脳裏に広がった。あの長岡半太郎(彼は多くの外国のノーベル賞受賞者のための推薦状を依頼されるほど、発言とその頭脳が世界的に信頼されていた。湯川秀樹も彼に推薦状を書いてもらっている)の開成時代もきっとそうだったのだろう。正岡子規、南方熊楠、柳田国男、島崎藤村、斉藤茂吉の開成時代もそうだったのだろう。

◆ 彼らの時代をどうやって君は見たのと聞かれるだろうが、開成学園の今が歴史を反射し未来を映し出すのである。それが不易流行であり、「基礎」というものだ。文部科学省が騒いでいる学力の「基礎」とは格が、レベルがあまりにも違うのである。



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