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■ 昨年創立130周年を迎えた開成。今年の国語の入試問題は、開成の伝統を呼び覚ますような問題であった。開成では学内の問題意識は、1私学の問題を越えた普遍的問題意識として捉え返される。したがって、そういう文脈が入試問題に反映するのは自然なことなのである。120周年のときも開成は、伝統を問い返す記念事業を行っていたが、130周年のときも同様だったに違いない。開成の伝統とは、自己の能力を開発すると同時に、社会の利益を創出していく学問にベースをおいた人間作りである。
■ しかもその学問とは、細分化され専門に偏ったものを意味するのではなく、知と倫理と芸術とそして理論と実践のすべてを融合させたものである。このコンセプトは初代校長高橋是清先生から流れ出ている。田辺元のように数学と物理、哲学を融合した世界思想を考え出した開成OBもその流れの中にいる。今日の校長伊豆山健夫先生も物理学者であり同時に漢学にも精通していると聞く。
■ 中学入試問題は「学校の顔」であるとよく言われるが、今年の開成の国語はその象徴的存在となるだろう。漢字の書き取りやことわざ・慣用句を問うような知識問題は出題していない。2つの長文読解問題を出題しているだけである。しかもその設問形式はすべて記述・論述式で、技巧みな選択式問題など出題しないという大胆さだ。
■ 大きな問題1つ目は、自然科学的な考え方を、論理的に理解できるか否かを2つの設問で問うている。いずれも80字以内で記述する問題である。1951年、上野動物園は、世界でも当時まだ飼育例が少ない南極付近にすむペンギンを寄贈された。その飼育の問題点を試行錯誤しながら1つひとつ解決し、「上野方式」というペンギンの飼育方法を確立していくという科学的エッセイの長文読解問題である。極地性のペンギンを飼育していくうちに、問題点が2つ出てきた、それぞれの問題点について、「原因」「内容」「解決策」を80字以内でまとめよという問いだ。近代科学の合理主義、もちろん自由や平等を市民に保障する思考という近代化の光の部分に関する問題である。
■ 一方、大きな問題2つ目は、近代化路線の闇(物語の中では、資本主義的家庭の父親像や学校制度、いじめ問題がその象徴として役割を演じている)の部分と葛藤する少年の物語。その闇を解消するために、少年は自らの利益を脱し、弱者(闇の中に潜んでいるなぜかキリンに出会う)を守る愛に気づくが、同時にそういう勇敢な自分の姿が、今まで汚いという先入観ゆえに気づかなかった都会の空に、美しい星々として投影されていることにも気づき二重に驚く。
■ この少年の気づきの過程が物語ではレトリックとして表現されていて、読み手もそのレトリック表現を介して、少年の気持ちを共有する想像力が試される。開成の問題でも、現代の社会的問題の事実性という文脈と物語の筋を照合させながら、想像力を発揮し、少年の気持ちや気づきを構想していくという力が4つの問題で問われている。最後の問題は、少年がたどりついた気づきに関して160字以内(他の問題はいずれも50字以内)で記述させる問題である。
■ 問いを全部解くと470字ほど書かなければならない。そして、1つ目は5000字程度の長文、2つ目は8500字程度であるから、受験生は50分間で、13500字ぐらいの文章を読んで、解答しなければならない。知識詰め込み型のトレーニングだけやっていたのでは歯が立たない問題だが、こういう思考訓練を、だれが否定的にとらえることができるのだろうか。
■ 今は、中学入試のみならず、高校入試や大学入試のシーズンである。マスコミは「受験は悪だ、暗記中心主義だ」というステロタイプな「常識」を相変わらず掲げて、市民を煽るであろう。そろそろ、近代の道の光と闇の両方を相対化できる学問的見識を養う伝統を大事にする開成の教育を少しは勉強してみてはどうだろうか。それは、開成自身が語るように、1私学の問題ではなく、21世紀をいかに生きるかという近代の歴史性の問題でもあるのだから。
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