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私立中高一貫校の正念場
海陽中等教育学校と公立中高一貫校の圧力?

2006年1月18日
by 本間勇人(honma@netty.ne.jp)

◆ 読売新聞(1月15日23時37分更新)によると、「エリート養成を掲げ、トヨタ自動車、JR東海、中部電力など中部地方の企業が中心となって支援する私立中高一貫校『海陽中等教育学校(仮称)』(愛知県蒲郡市)が15日、初めての入学試験を行った」。

◆ 1回目15日の応募者は301名。2回目21日は407名。3回目2月2日は212名。定員120名なのだから、これは注目されたということだろう。決して安くはない授業料や寮費なのに、良い悪いは別にして、21世紀日本型資本主義の階層構造の二極化を象徴している≪出来事≫である。

◆ 一方公立中高一貫校も日本各地で開設され、今年は、東京都でも昨年の白鴎に続き、都立両国高等学校付属中、都立小石川中等教育学校、都立桜修館中、千代田区立九段中等教育学校の4校が開設。これも公立の中で二極化を進める政策ではないかと捉えられている≪出来事≫である。

◆ 昨年は、私立中高一貫校と海陽中等教育学校、私立中高一貫校と公立中高一貫校は互いに議論をしなければならないことがあり、それをマスコミは多少対立めいた≪出来事≫として取り上げ話題になった。その詳細については、ここで振り返る必要はないだろう。

◆ ただし、このような≪出来事≫の背景には日本の経済社会の問題があるのだということだけ、簡単に確認しておこう。気がはやいといわれるかもしれないが、来春の私立中高一貫校のベクトルを予想する準備のためである。

◆ さて、海陽中等教育学校は私立中高一貫校である。つまり学校法人で株式会社学校ではない。しかし、経営陣は日本の基幹産業のリーダーたち。経営手法の発想は20世紀型産業資本主義がベースである。これは圧倒的に強力である。21世紀の日本の経済社会は、決定的に20世紀型産業資本主義から抜けきれていない。

◆ それに対し東京の私立中高一貫校はある意味軽井沢で生まれた純粋な近代路線を継承する理念共同体型資本主義の経営手法がベースである。だから海陽中等教育学校とは、学校経営論的には互いに論戦する場面が今後もでてくるであろう。20世紀型産業資本主義の行き着く先は、階層構造の二極化であることは、今では誰も疑わない。ファンド資本主義という考え方もでてきてはいるが、現在の日本では、それ自体まだまだ20世紀型産業資本主義あってこそ成り立っているところがある。

◆ 公立中高一貫校は、教育社会学的には、公立学校というのは産業社会の労働力やリーダーの再生産装置であるから、今の日本社会のエリートを再生産する、つまり20世紀型産業資本主義を支えるエリートを輩出する機関である。どんなに教育の平等性を保つと設立趣意書で粉飾しても、そうなのである。それは「適性検査」という名前の公立中高一貫校の入試問題を見れば明らかだ。

◆ おそらく、徹底的に思考力を試す問題、論理力を見る問題、データ分析力を見る問題、リーダーとは何か(しかもそれはファシリテーター的リーダー資質ではなく、当然ながら官僚エリート的な資質)を考えさせる問題であろう。文部科学省や自治体が実施している学力テストと比較すれば一目瞭然、その質といい難しいさといいその差はまさに二極化。そして、独自入試問題を作成している都立日比谷高校などの進学重点校もある意味この公立中高一貫校と同じ仲間に分けられるだろう。

◆ 一方東京の私立中高一貫校の多くがその典型であるが、理念共同体型資本主義は、個人の選択の自由が、二極化を防ぐman for othersの精神=グローバル・ベーシスに基づいて市場を形成する社会を構築する市民意識の育成が目的である。

◆ したがって、2006年入試は、{A:私立中高一貫校}⇔{B:海陽中等教育学校≧公立中高一貫校,進学重点校}⇔{C:一般の公立学校}という複雑な学校構造が成立した歴史的文脈の中で行われようとしているわけである。しかし、これは私立中高一貫校のミッションがより明快になったということを示唆するものである。

◆ 従来はA⇔Cだけの構造で語られ、私立中高一貫校は二極化の元凶であるかのごとき批判を教育社会学者から浴びせられてきたが、A⇔B⇔Cという関係が明確になることによって、逆にその二極化を解決する教育的機能を有していることがはっきりしたのである。

◆ もちろん、私立中高一貫校すべてがAに与しているわけではない。だから上記のように関数関係で表したのである。Aという私立中高一貫校とBという私立中高一貫校+公立中高一貫校+進学重点校とCという公立学校というグルーピングが併存する社会が21世紀の日本なのであろう。

◆ 経済的にはAグループの私立中高一貫校は有利ではない。教育的にはどうだろう。十分耐えうるだろう。しかし入試問題の検討をした方がよい。すべての私学が御三家(この言葉は好きではないが便宜上使おう)クラスの入試問題をとはいわないが、難度的にではなく質的に御三家クラスの問題の発想を意識した方がよいだろう。なぜなら公立中高一貫校の小論文スタイルは、入学者の学びの準備を変えるからだ。すでに大量の読書経験と思考経験を積んだ生徒を誘うことになっている。

◆ また海陽中等教育学校も、国語、算数、社会、理科に小論文を加えた5科目を実施している。同校の入試問題はまだ見ていないが、情報通の知人から聞くところによると、相当伊豆山校長は、入試問題制作に入れ込んだらしい。プロジェクトチームを結成して、研究し尽くしたとも聞く。とにかく伊豆山校長は元開成の校長である。なんとなく入試問題のイメージがついてしまう。そして小論文。決定的だ。同校は20世紀型産業資本主義がベースだから、イートンを範としたとしても、教育理念と経営の論理はイートン風にはならないだろうから、今後、真にイートン的精神を有している伊豆山校長ご自身は、学内で大変ご苦労されるとは思うが、ともかく教育だけは相当良質なものになるだろう。

◆ このような社会的コンテキストの中で、理念共同体を重んじる私立中高一貫校は正念場を迎えている。多角的に戦略を練らなければならなく、多忙であることは重々承知しているのだが、それぞれの学校の教育の顔である入試問題の中身をより質の高いものにする検討は先送りされがちだ。こういう時だからこそ、誠の道で競って欲しい。



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