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| ≪未来を創る学校≫セミナー vs.「小宮山宏東大総長」特別講演会 |
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2005年5月30日 |
| ◆ 5月28日、東京コンファレンスセンター飯田橋で、第1回≪未来を創る学校≫セミナー開催。そして29日は、東大本郷キャンパスで、「第78回五月祭東京大学総長特別講演会」が開催された。≪未来を創る学校≫セミナーのテーマは、21世紀型の学習とそれを実施していく私立中高一貫校の魅力について。小宮山宏東大総長は、東大を世界一の総合大学として再構築するビジョンを語った。
◆ どちらのイベントも共通していたのは、知のとらえ方である。それぞれ表現は違うが、知識というものが単独で存在しているのではなく、知識の背景にある関係総体を見出し、活用し、そして創造するという点において同根の思想があった。東大の方向性も私立中高一貫校の方向性も、知識や情報というものを関係総体として統合できるリテラシーや能力が最重要であるというビジョンで進んでいることがよくわかった。これはある意味国際世界の動きとも一致している。OECD/PISAの方向性と共通しているのだが、このことが明らかになればなるほど、文部科学省の方向性は反動的だなと講演を聞きながら感じた。 ◆ ≪未来を創る学校セミナー≫では、東京私学教育研究所堀一郎先生が、私立学校の先生方と協働研究している「第3次基礎学力調査研究会」の報告書に基づいて「未来を創る私学教育」について語られた。地上3階地下2階の学力構造論という仮説は大変興味深かった。地下2階=学びへの安心感(信頼感、情緒、感性、徳性の基礎)、地下1階=学びへの意欲(学ぶ喜び、知的好奇心、本質追究志向)、地上1階=安定した基礎学力の確立(読み書きそろばん、学び方を学ぶ)、地上2階=基礎知識、教養の獲得(思考と判断と表現の基盤)、地上3階=総合的、創造的知性(「育てたい生徒像」を具現化する学力の最高レベル)という構造論である。 ◆ この構造論を前提にして各私立学校の先生方と議論・探究をすすめていくうちに、この構造を活きた構造としているのが、つまりこの構造を基礎とした生徒像を形成する重要なポイントは「ことば力」ではないかというところに到達したというのもおもしろい。この「ことば力」とは狭い意味での言語力ではなく、文化的文脈をもつ日本語力と異文化コミュニケーション力のエンジンである論理構成力という2つのベクトルの合力というイメージのようである。これは近代以降知識や情報のビッグバンがおきて、全体を把握することがなかなかできない現在にあって、それを把握する総合的な言語の力を指しているのだと思う。 ◆ 堀先生は、総合的な学習は必要だが、特設する必要はない。すべての教科の中で「ことば力」を広げていけばよいのであると語る。これはまったくフィンランドの総合制学習の考え方と一致している。開成の生田先生が、「総合的な学習」は「合科」ではいけないんですよねと語っていたのを思い出した。私立中高一貫校の魅力は知の構造が国際標準だと確信を抱いた。 ◆ 続く京北学園校長川合正先生の講演は、そのような関係総体を把握する「ことば力」や「学ぶ力」をどのような学習活動で育てていくのかという京北学園の教育実践を通して証明した。京北学園の教育実践といっても決して閉じられた自慢話ではない。21世紀COEプログラム東京大学大学院教育学研究科の教授陣と共同研究した成果を披露した。私立学校の校長としての裁量を活かしたグローバルな活動の話だ。その中で、授業の中の教師と生徒の談話状況と成績の相関のデータの話はこれまた興味深かった。座学の授業よりも、問答型やチーム学習を導入した授業の方が、同じテストをやった場合、後者の方が成績がよいという結果がでたというのである。 ◆ 丁寧なコミュニケーションというカウンセリング・マインドをすべての教科に導入しつつある京北学園の授業改革の成功が裏付けられたのである。また、川合校長先生はCAL(Center for the Advanced Learning)という座学ではなく、新しい授業実践をしている他の私学の先生方との勉強会を紹介した。川合先生自体がその会の会長である。私学の魅力は授業であるという信念と良いものは共有しようという活動だ。小宮山東大総長は、知識は分散している。これは実は良いことなのだ。一部の権威が知識を独占するなど考えられない時代である。ただ、分散した知識を統合する仕掛けは必要だという旨の話をしていたが、まさにCALの活動は、授業の知識を集積し、シェアする機能を果たそうとしている。 ◆ 一方小宮山東大総長の講演では、「情報を知識とし、知識を構造化することで、知識に価値を与え、そしてその主体は確信を持った個人」という点が強調された。知識を構造化し、知識に価値を与えるということはどういうことなのか。各国のGDPシェア率の円グラフと各国の二酸化炭素排出シェア率の円グラフを重ね合わせて、そこから日本のすぐれた技術力が見えてくるという簡易モデルを使って証明して見せた。今や誰でもインターネットでアクセスできる情報。しかしそれをどう読むか、つまり知識の構造化が重要だということをなんて分かりやすくプレゼンするのだろうと感じ入った。 ◆ ただ、この手法は私もHonda「発見・体験学習」プログラムのトリガークエスチョン(TQ)でよくやる手法だし、なんと言っても≪未来を創る学校≫セミナーにおける第3番目の講演者国際教育情報室の岡部憲治室長のプレゼンそのものであった。実は岡部室長は2050年を想定して、私立中高一貫校のあり方を模索しているのだが、小宮山東大総長も2050年ビジョンを提唱している。また岡部室長はUCLA卒業、小宮山東大総長はUCDでポストドクトラルフェローとして研究に従事していたことがある。実はアメリカの大学の講義の導入の手法と未来学の視点を両者は体得しているのではないだろうか。 ◆ さて、小宮山総長の話に戻ろう。総長はこういう知識の構造化とその価値を創ることができる大学組織と人材を創り上げていきたいということに意欲を燃やしていた。そしてこういう組織や人材を「自律分散協調系」と表し、バイオ的な比喩で説明していた。人間の臓器はそれぞれ自律し分散して機能しているが、全体としてはそれぞれの細胞や臓器が協調して1人の人間を形作っていると。 ◆ 1900年以降の知識の爆発はすさまじい。1人の人間が全体を見渡せる能力など持つことはできない。しかし、知識の構造化の協働は可能だということなのだろう。さてしかし、この「自律分散協調系」は「知」のめぐりだけではだめである、「血」のめぐりもよくし、他者の気持も受け入れなければならないという話である。「金」のめぐりもとさりげなく語られていたが。リチャード・フロリダはこれからの社会を表現するキーワードは、3Tだと言っている。Technology、Talent、Toleranceがそれである。2050年ビジョンを持っている小宮山東大総長だけあって、その視点はさすがに未来をしっかりと射程にいれている。 ◆ ただしかし、そこまで広い視野をお持ちなのに、東大を世界一の大学にしよう、日本を世界のフロントランナーにしよう、アメリカに追随ばかりしていてはいけないんだ、だから「自律分散協調系」でいくんだという意気軒昂たるプレゼンには、少し複雑な気持になった。何度も自分は国粋主義者ではないけれどもと挿入フレーズを入れるぐらい高揚していらっしゃったのである。もっとも、そこらへんを質問しようとしたら、時間切れでできなかったため、その代わりにと小宮山総長のサイン入りのご自身の著書を頂いたので、今年総長に就任された気概として受けとめることにしたい。 ◆ そして≪未来を創る学校≫セミナーに話は戻るが、このセミナーは「未来の学校を考える会」の会長であり、(株)エヌ・ティ・エス代表取締役の横田政則社長が率いるNTSチームが主催している。横田会長は、私立学校や公立学校とグローバル企業Hondaとを結びつけてHonda「発見・体験学習」プログラムデザインのサポートチームをNTSとHondaと協働して作った。この活動は今年5年目を迎える。その活動例は、いろいろなものを合わせると50を越える。学校の人材作りのコンセプトとHondaのグローバルでクリエイティブな人材養成のコンセプトをつなぐという新しい知の創造・構造化を実践しているのである。 ◆ さらに、国際教育情報室を設け、世界の動きをリサーチし、グローバルでクリエイティブな人材を養成するには、アメリカやイギリスなどの英語圏だけでは偏りがあるという認識をもち、EUに続いて新しく生まれているグローバル経済文化圏にも目を向けている。これが今回このセミナーが日・EU市民交流年という外務省の活動と結びついたきっかけである。経済と戦争、貧困は切っても切り離せない世界的でかつ日常的に重要な問題である。この問題を自分の問題として受け入れ、解決するために知恵を出せる人材作りは教育にこそ使命があるという信念が横田会長にはある。ちょうど小宮山東大総長が爆発的に増え続ける知識の中で、本質を捉える知恵、他者を感じる力、先頭に立つ勇気を持った人材を作りたいという意志を持っているのと同じようなところがある。 ◆ ただ、横田会長は、別に日本や東大を世界一にしよう、フロントランナーにしようとは思っていない。結果的になるのは構わないが、ゴールはそこにはない。知識や情報が爆発的に増えているからこそ、それらを俯瞰するには、多次元のものさし、多様な選択肢、新しい切り口の創造が必要であり、それは「構造化」ではなくむしろ「脱構造化」なのではないか、そういう教育や学習活動を先行的に行っている私立中高一貫校と協力し合って情報公開して、社会を変えていくきっかけ作りをしていきたいというビジョンを≪未来を創る学校≫セミナー開会の挨拶で打ち出した。世界に通用する教育を実践する学校を、「進学校」とか「受験校」とか「難関校」とか「進学重点校」とかネーミングしていていても始まらない。≪未来を創る学校≫という新しい概念を創っていきましょうということである。 |
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