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学びを考える

仮想的有能感を乗り越えるCILOコミュニケーション行為

2006年4月11日
by 本間勇人(honma@netty.ne.jp)


◆ 速水敏彦さんの著作「他人を見下す若者たち」(講談社現代新書2006年2月)は、深刻な書だ。他者のことをたいして理解してもいないのに、バカにしたり蔑視したりして、自分が有能であると思い込む仮想的有能感を持った若者が増えているというのだ。

◆ いわゆる逆敬語。自分を低めて相手を高めるとか、相手を高めて尊重するとか、親しき中にも礼儀ありで丁寧な関係を保つという従来の人間関係にはない新しい負の人間関係が社会の二極化現象の中で悪さをする。相手をバッシングして自分の能力を自負するという人間関係がそれだ。

◆ 二極化現象の中で、試行錯誤しながら成功体験を積んで、自尊感情を獲得していく有能感とは違い、体験を積まずに、仮想的に空虚な有能感を持ってしまうという幻想だ。ただその幻想が他者を軽視するレッテルを貼り、たたいていく。単なる自信過剰ならば、周りからおまえどうかしているぞと笑いをとれそうなのだが、仮想的有能感は暴力的権力を持つからタチが悪い。だから社会の問題などには興味がなく、社会の痛みを共有し、ともに正義の怒りを感じるなどということは全くないのである。個人的な好き嫌いで怒り、キレる。

◆ 速水さんは仮想的有能感という概念の提唱によって、来るべき社会への警鐘を鳴らそうとしている。「今後予想される社会は、個々ばらばらの社会である。誰もが競争に勝ち抜くために、先手をうつかたちで、周りの相手を軽蔑したり軽視したりするのである。それは人間同士の温かみが伝わらない冷え切った社会である。学校でも会社でも、人は自分の幸せだけに関心を持ち、みんなで支えあう農耕社会的な要素をすっかり忘れてしまうだろう」と。

◆ 農耕社会的な要素が幸せにつながるかどうかは、極めて疑問ではある。というのも原始的資本の蓄積は、農耕社会が基盤だし、農耕社会は決して自然を保護してきたわけでもないからである。しかしともかく冷え切った社会になりそうなのは確かだ。

◆ 速水さんは、有能感を図のように4タイプに分ける。このうち仮想型が若者には多いとする。「仮想型の人は本人が上手にできず、現実には有能とは認められないにもかかわらず、その失敗の原因を自分以外の要因に帰しやすい」ということだ。この部分から仮想型の人間のコミュニケーションのスタイルが判明する。まったくクリエイティブなコミュニケーションを他者ととろうとしないし、責任転嫁という論理的ではないコミュニケーションの仕方をとり、学ぶこともなく、ただただ抑圧的に相手に責任を押し付けるというスタイルだ。私はコミュニケーションを4つのタイプの複合として捉えている。創造型(Creative)コミュニケーション、双方向型(Interactive)コミュニケーション、学習型(Learning)コミュニケーション、抑圧型(Oppressive)コミュニケーションの4つである。それぞれ英語の頭文字をとってCILOコミュニケーション行為と呼んでいる。CILOのバランスが重要で、どの要素が良いということはない。それぞれのタイプが強みとしてでていたら大文字で、弱みとして出ていたら小文字で表すとすると、仮想型有能感の持ち主のコミュニケーションは、cilOタイプ。

◆ 全能型は、CiLOタイプ。自尊型は、CILoタイプ。萎縮型はciloタイプとなるだろうか。いずれにしても速水さんが仮想的有能感から脱出するには、しつけの回復、自尊感情の強化、感情交流の場の設定の必要性を説いているが、その具体的なスキルは述べられていない。仮想的有能感から脱出しなければならない、しつけを回復しなければならない、自尊感情を強化しなければならない、感情交流の場を設けなければならないと道徳論で終わっている。これでは脱出しようという意識はあってもどうしてよいかわからない。

◆ CILOコミュニケーション行為を身につける学習プログラムが必要である。このプログラムは実際に稼動している。すでにHonda「発見・体験学習」の中で活用されているのである。中央教育審議会・初等中等教育分科会・教育課程部会の審議経過報告(2006年2月13日)で、人間力向上を図る基本的な考え方としても「言葉や体験などの学習」が強調されている。しかしそれを実現する学習プログラムや学びの理論は公表されていない。欧米の審議会報告書はこういうところはきちんとしているが・・・。とにかく、大事なことは仮想的有能感を乗り越える現実的な方法論=学習プログラムのデザインとその実施である。

※ 参考→「≪学習支援学」8 〜コミュニケーション行為が育てる能力」



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