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● 平和学
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第2章 平和と戦争 〜『チャーリーとチョコレート工場』を通じて

by小松原 瞳

§0 はじめに

■ 平和とは、戦争・貧困・災害・飢餓・疾病・教育格差・情報格差などと対極にある状態をあらわし、人間が秩序・平安を実現していることをいう。決して戦争がない状態のみを意味しているわけではないが、戦争が平和を考える上で切っても切り離せない関係であることは間違いない。戦争は平和を破壊する重大な行為なのである。

■ 「戦争」という言葉はニュースでもよく耳にするように、思いのほか私たちの身近にひそんでいる。日本では憲法によって平和主義が定められており、本来戦争とは一線を引いた立場をとっているのだが、グローバル化が進み、国際社会から求められる日本の役割も変化してきた。それゆえ自衛隊問題が生じたイラク戦争の記憶は、まだ新しいだろう。

■ ファンタジー映画『チャーリーとチョコレート工場』が今年話題となったが、この映画の原作である「チョコレート工場の秘密」という一冊の本がある。40年にわたるロングセラーを記録する本だが、作者ロアルド・ダールが生み出す奇抜な発想やブラック・ユーモアから世界中で愛されている。第2章ではこの本をもとに、平和および戦争について考察していきたい。

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§1 「チョコレート工場の秘密」

■ 「チョコレート工場の秘密」のあらすじについて、ここで簡単に説明しておく。チャーリーの住む町には、世界一広大で有名なワンカ氏のチョコレート工場がある。誰も働く人を見たことがなく、謎に包まれる工場だが、ある日その工場に5人の子供たちが招待されることとなる。工場への招待と一生分のチョコレートが約束される黄金切符。その黄金切符の入ったチョコレートは世界にたった五枚しかない。

■ 世界中の子供たちが、なんとかしてその黄金切符を手に入れようと大騒ぎになる。チャーリーも黄金切符に期待をふくらませるが、彼の家はとても貧しく、日々の生活に困るほどである。そんなチャーリーがチョコレートを口にできるのは、一年に一度、誕生日に一枚だけであり、望みがない。そんな中、次々と黄金切符を手にする子供たちがあらわれ、ついに残り一枚となる。そして、その時奇跡は起こり、なんとチャーリーが最後の黄金切符を手に入れたのだ。

■ 黄金切符を手にした5人の子供とその保護者たちはチョコレート工場に招かれ、ワンカ氏の案内によって見学をする。その工場内は、奇想天外で魅力的な世界が広がっていた。例えば一行が最初に入った部屋ではチョコレートの滝が流れていた。さまざまな光景に子供たちは興奮を抑えきれず、ワンカ氏の忠告を無視して自分勝手な行動をとる。その結果、チャーリー以外の4人はそれぞれひどい目にあって帰ることとなる。そして、ワンカ氏の言うことをきいて最後まで残ったチャーリーには、とっておきのご褒美が与えられるというわけだ。

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§2 経済格差

■ チョコレート工場に招待された5人の子供たちにはそれぞれ特徴がある。食い意地のはったオーガスタス。何でも買い与えられわがままに育ったイボダラーケ。常にガムを食べているバイオレット。テレビばかりみているマイク。そして貧乏だが温かい家庭で育つチャーリー。みんな強烈な個性の持ち主だが、ある意味現代の子供を象徴しているのではないだろうか。ここに、作者の隠された意図が見える。

■ 5人の子供たちの中で明らかなのは、経済格差である。前者4人はそれぞれの個性は異なるにしろ、家庭の生活水準は世界の中でも高い方に含まれるであろう。一方チャーリーは、寝たきりの老人4人と両親と暮らすが、父親がリストラで失業。とても家族7人がまともに生活できる環境ではなく、常に飢えや寒さに苦しみながら暮らしていた。

■ 現実の世界でも、地域による経済格差は大きな問題となっている。国の経済規模を表す指標として、GDP(国内総生産)がよく用いられるが、これを比較しても顕著なように、豊かな国もあれば貧しい国もある。貧困がもたらす弊害は多岐にわたり、決して軽視できる問題ではない。

■ まず、ここで考えられるのが、機会の平等性の問題である。本の内容で言うならば、いくらでもチョコレートを買える子供もいれば、チャーリーのようにチョコレートをめったに買えない子供もいる。そこには貧困問題が存在しており、それゆえに黄金切符が当たるチャンスに差がある。つまり、経済格差があることで、機会の平等性が失われているのだ。チャーリーの場合は例外的な奇跡が起こったが、現実には解決されないまま月日が過ぎている。この他にも、経済格差が生み出す様々な弊害が存在し、今も多くの人々が苦しんでいるのが現状だ。

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§3 貧困と戦争

■ 現在、世界の約12億人もの人が、一日1ドル以下の極貧生活を送っているという。貧困は多くの弊害をもたらす。例えば、今年米国南部をハリケーンが直撃し、多大な被害を与えたが、最も被害を受けたのは間違いなく貧困層の人々であった。彼らはテレビやネット環境もないため、情報を得る手段もなければ、車など移動手段も持っていなかった。ゆえにハリケーン被害を真っ向から受けてしまった。

■ こうした貧困層の中でも、若年の人々にとっては「軍隊」へ入ることも生き抜くための大きな選択肢となってくる。実際、雇用の不安定な社会では、そうした雇用対策として軍隊が存在している。米国がイラクへの志願兵を募集した時、多くの失業者が押しかけたという。特に若年層にとっては、軍隊に入るほかまともに生活する手段がないのだ。

■ 以前ブラジルのルラ大統領が「今日の世界で最悪の大量破壊兵器は貧困だ」と指摘した。必ずしも貧困が原因で戦争が起こっているわけではないが、上記の事実からも主要な原因の一つであることは確かであろう。

■ 逆に、戦争から貧困が生まれることもある。戦争が起こることで、自分たちの家など生活基盤を失い、路頭に迷う人々がいる。さらには、自国を追いやられ難民となることもある。また、兵力として一家の大黒柱が駆り出されることもしばしばであろう。こうした結果、さらなる貧困層が生まれることとなるのだ。

■ こうして考えると、貧困問題と戦争は密接に関係しており、悪循環を生み出していることが明らかとなる。貧困ゆえに戦争が起こり、戦争の結果貧困が生まれる。なんとかしてこの負のスパイラルに終止符を打つ必要があるのではないか。そこで、平和の実現について考えてみたい。

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§4 平和の実現

■ 平和を実現する方法はいくつか考えられる。歴史的事実から判断すると、次の三つがあげられるだろう。一つ目は、強力な支配者が強圧的な権力を行使して秩序を保とうという考え方。例えば、ローマ帝国が地中海世界で実現しようとした「パックス・ロマーナ(ローマによる平和)」があげられる。二つ目は、各人・各国がお互いの独立と権利と自由を最大限に尊重・保障しながら協調しようという考え方。これは、基本的人権や生存権などの権利を認め、各々の法律を尊重することにつながる。三つ目は、複数の国家や共同体が連合した国際機関を介して実現しようという考え方。国際連合や欧州連合のさまざまな活動が、その実例である。

■ また、憲法学において平和の実現を考える上であげられるのが、「武力による平和」と「武力なき平和」である。「武力による平和」の考えでは、武力を国防、自衛、狭義の安全保障と解釈し、認めている。「武力なき平和」の考えでは、武力があるから戦いが起こると解釈し、すべての人々が一斉に武力を放棄することで平和を実現しようとする。

■ 「武力による平和」の例として、近年ではイラク戦争があげられるだろう。アメリカ陣営は「武装解除を目的とした武力行使」と主張し、イラクへ侵攻した。しかし、開戦正当事由も不明確なままに爆撃が開始されたため、この戦争は侵略であると批判する声も各国からあがった。イラクでは、今もなお紛争が続いており、アメリカの掲げる「平和の実現」は先のことになりそうだ。

■ 一方、「武力なき平和」でまず頭に浮かぶのは、ガンジーによる独立運動だろう。大英帝国に植民地化されたインドで、彼は非暴力の理念を貫き通し、最後には独立を成し遂げた。これがきっかけとなり、アメリカの黒人差別問題やミャンマーの軍事独裁政権に対する抵抗の場でも非暴力が実践されることとなったのである。

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§5 まとめ

■ 「チョコレート工場の秘密」は、児童小説としての純粋な面白さを持ち合わせると同時に、世界中に経済格差の存在を示した本と言えるのではないか。もちろん、この本を読んで貧困問題を重く受け止める読者がそれほど多いとは思わないが、子供たちが自然にグローバルな視野を持ち、自身の経済的環境を振り返ることで、世界中の貧困問題について考える機会が与えられている。

■ 貧困問題は、グローバル化の波にもまれる中で、様々な要素が複雑にからみあっており、簡単に解決できるものではない。ゆえに、貧困と密接な関係にある戦争も然り、ひいては平和の実現も難しいものとなってくる。しかし、物語の結末がチャーリーのハッピーエンドで終わるように、現実の世界でも貧困に苦しむ人々に少しでも「夢や希望」を持ってもらいたい。その第一歩として作者は、これからの未来を担う子供に向けて、貧困問題の現状を知らせることから作者は始めたのかもしれない。

 

参考文献 「チョコレート工場の秘密」(2005年 評論社)著ロアルド・ダール
参考サイト

ウィキペディア(http://ja.wikipedia.org/wiki
総務省(http://www.stat.go.jp/data/sekai/03.htm

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