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● 憲法改正
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第3章 自衛隊問題

by小松原 瞳

§0 はじめに

■ 憲法改正問題の中でも、最も注目されているのが憲法9条と自衛隊の問題であろう。日本国憲法において、平和主義を原則とし戦力の不保持を定めているにもかかわらず、自衛隊を保持している。この憲法と現実とがあまりに大きく乖離してことは広く認識されており、改憲すべきとの流れが今高まっているのは事実だ。

■ 2004年に日本世論調査会が行った自衛隊関連世論調査によると、憲法9条と自衛隊の関係において「憲法を改正し、自衛隊の存在を明記すべきだ」とする人が49%、「自衛隊は憲法違反ではなく、改正の必要はない」とする人が31%、「自衛隊は憲法違反であり、認められない」とする人が11%だった。また、憲法9条に基づく「専守防衛」という自衛隊方針について「不明確になったと思う」との回答が38%、「どちらかといえばそう思う」が36%で合計75%が「不明確」との認識を持っていることがわかった。

[日本世論調査会より参照]

■ 国民の関心が高まる中で、現状に疑問をもつ人も増えてきている。なし崩し的に自衛隊の活動範囲が広がっている今、憲法9条の改正論議に簡単にのってしまうのではなく、もう一度原点に戻って考えていきたい。

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§1 憲法9条

■ まず、参考までに憲法9条の条文を参照する。

第九条 @日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
  A前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

■ 憲法9条は、日本国憲法の三大原則の一つである平和主義を具体的に規定した文章である。この条文は、「戦争の放棄」「戦力の不保持」「交戦権の否認」の3つの要素によって構成されている。この規定について、その趣旨や「戦争」「戦力」「交戦権」の定義などさまざまな点で解釈上の問題が浮かび上がっている。

■ 特に問題とされているのは、「自衛戦争」が放棄されているかどうかという点、「自衛権」が否定されているかどうかという点の2点である。憲法制定当時の政府は、自衛戦争は放棄されており、自衛権も否定されているという見解を示していた。しかし、朝鮮戦争に伴い再軍備を行い、憲法で禁止されたのは自衛戦争ではなく侵略戦争であるとの立場をとるようになった。また、自衛隊は必要最小限度の「実力」であり、憲法で禁止された「戦力」にはあたらないとした。

■ 現在、同じように戦争放棄を憲法で規定している国としては、フィリピンがある。また侵略戦争のみを放棄した平和憲法を持つ国は、124ヶ国にのぼるという。コスタリカ憲法も戦争放棄を謳っていると誤解されることがあるが、実際には軍隊の常設を禁止しているだけであり、自衛権を明らかに認めているだけでなく非常時には徴兵制を敷く事も可能としている。

■ 憲法9条が押し付けであるとか、非現実的な理想にすぎないなどの批判がある。しかし、非現実的であるという点については、戦前・戦中の他国への侵略・加害行為、戦争による自国への多大な被害、特に原爆投下や沖縄戦の悲惨な経験などを経て、国民がどれほど非武装平和主義を求めていたかという点を忘れてはならないだろう。また、非戦や軍事力廃止の考え方が戦後日本に与えてきた影響を無視してはならない。

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§2 国際環境の影響

■ 憲法施行前後において、すでに改憲論は主張されていた。しかし、当時の改憲論の基本的立場は、「憲法の基本原理を支持し、さらにそれを明確化し強化するための改正」を主張するものだった。政治家も知識人も絶対平和主義を宣言することで、戦後日本は出発していたのである。しかし、環境に翻弄された平和主義はその後違った展開を繰り広げることとなった。

■ まず、占領期に大きな二つの変化があった。第一の変化が、日本の再軍備である。冷戦が始まり、資本主義と共産主義の対立が顕在化した。これを受け、アメリカの対日政策が転換され、日本を資本主義陣営に取り込み、再軍備することを求めるようになった。そして、1950年6月の朝鮮戦争の勃発を契機に「警察予備隊」が創設された。さらに2年後、「海上警備隊」が発足し、警察予備隊は「保安隊」に改組された。

■ 第二の変化が、早期講和の実現と米軍による日本駐留の継続である。冷戦が激化する中、アメリカは日本を資本主義陣営に引きつける必要性と、日本国内の基地を継続して使用する必要性があった。一方、日本は憲法による制約のため本格的な再軍備は避けたいので、日本の安全を米軍に委ねる方針を選択した。そして、1951年9月にサンフランシスコ平和条約が調印され、同時に日米安全保障条約が結ばれた。

■ こうした流れを受け、1954年にはMSA協定(日米相互防衛援助協定)が結ばれたが、これは日本が独自に軍事力を強化することを意味していた。また自衛隊法・保安庁設置法が制定され、これらをもとに自衛隊が成立した。そして、東西対立の緊張緩和に関係なく、80年代まで日本の軍事力増強の政治傾向は変わらず、憲法9条の平和主義実現は非現実的なままであった。

■ やがて冷戦は終結を迎えたが、それとともに自衛隊の海外派遣要求が強まった。冷戦の終結により自衛隊に求められる役割が変化したのである。冷戦期には、自衛隊は北海道を中心に日本に張り付いてソ連を牽制するのが役割であり、「専守防衛」という日本の建前にも一致していた。しかし、冷戦が終結し米軍は世界中に機動展開するようになったため、米軍の補完兵力としてうまれた自衛隊に期待される役割も変わったのである。これが、「国際貢献論」と「安保再定義」に結びつくと考えられる。

■ 「国際貢献論」とは、自衛隊の海外派兵を可能にするための国連平和維持活動(PKO)や国連軍への参加を積極的に認めようとする議論であり、湾岸戦争を機に論じられた。そして、結果的に自衛隊の海外派兵ルート開拓に最大限の努力がはらわれ、在外邦人救助やPKOなどを理由とする海外派兵が行われるようになった。

■ 「安保再定義」は現安保体制の枠組みの見直し・強化を意味しており、それは従来の日米安保体制の枠組みを越えた「アジア・太平洋地域の平和と安定」を目指すものであった。こうして、新「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」策定が結ばれていき、新ガイドライン中の「X.日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合(周辺事態)の協力」に基づき、これを具体化するため1999年周辺事態法が制定された。

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§3 現実との乖離

■ 自衛隊の存在や海外におけるその活動と、憲法9条に定める戦争の放棄、戦力の不保持および交戦権の否認との関係において、憲法と現実との乖離が著しくなってきている。その過程で、憲法解釈は3つの手法によって行われる傾向がある。一つ目は、憲法にも「禁止されていない事柄」があるとする手法、二つ目が、憲法で「禁止されている事柄」を漸次的に縮小するという手法、そして三つ目が、憲法上「禁止されている事柄」と「認められている事柄」との「隙間」を主張し、その「隙間」を拡大するという手法である。

■ 憲法9条下で自衛隊の合憲性を説明するために、自衛戦争も放棄されているが自衛権は否定されていない、という解釈が編み出された。憲法は自衛戦争をも含むすべての戦争を放棄しているとの解釈を維持しつつ、それとは区別される「自衛のための抗争」には自衛権の行使が正当化されうると考えられた。ただし、自衛権を行使するには一定の要件を満たすことが必要とされた。

■ また、政府は「戦力」の概念を縮小化することで自衛隊を正当化するように試みた。憲法制定当初は、戦力とは「一切の対外的実力を含むもの」と解釈され、警察力を超える実力であるとの説がとられていた。しかし、1952年には「近代戦争遂行に役立つ程度の装備、編成を備えるもの」を戦力とするという立場がとられ、さらに1954年政府の「戦力」の解釈が変化し、それ以来「自衛のために必要な最小限度の実力をこえるもの」を戦力ととらえるようになった。

■ さらに具体的なものとして、たとえば、軍事行動を目的とする「国連軍」への「参加」は違憲だが、一方、当該「国連軍」の目的・任務が武力行使を伴うものであったとしても、その武力行使と一体化しない限り当該「国連軍」への「協力」は違憲ではないと解釈されている。こうして、当該国連軍の目的・任務、国連軍の武力行使との一体性の有無などを判断し、PKO法の合憲性を説明することを可能としてきた。こうした政府の解釈は、憲法上許容しうる場合と禁止される場合との隙間を作り出し、その隙間を漸次的に拡張することで、自衛隊の新しい任務の合憲性を主張している。

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§4 経済界の改憲論

■ 財界の総本山・日本経団連の「国の基本問題検討委員会」は、今年1月集団的自衛権行使の明確化を求める改憲案を発表した。経済界では、「平和の配当」を受けて成長してきたという認識から今まで憲法改正問題をタブーとしてきた。しかし、「平和国家」の看板を背負いながら海外でビジネスを展開していくのは非常に困難であるとの考えから、戦後派経済人による「普通の国」志向が強まった。

■ この「普通の国」志向というのは、アジアのリーダーになるには、軍事行動を含めて国際平和へ貢献し経済大国としての役割を果たさなければならないという思いである。日米安保体制下において米国に安全保障を一任しながら、一方でビジネス面では熾烈な競争を行っており、いつまでこの状況が続けられるのかわからない。だからこそ、憲法を改正し「普通の国」として相当の負担を負うことで初めて、対等の競争ができると考える経営者も多い。

■ このように経済界では改憲容認・推進派が大多数を占めており、護憲派はほとんど発言していない。しかし、中には改憲派に疑問を投げかける経済人もおり、「平和憲法があるからこそ、世界の多くの国から尊敬されていることを再認識すべきだ」と主張する。しかし、トヨタ自動車や東京三菱銀行などのトップが改憲を推進すれば、通常の上場企業の社長は異論を唱えにくいのが事実であろう。

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§5 まとめ

■ 憲法と現実との乖離とされる事項を憲法解釈によって説明付けることは、憲法の空洞化・形骸化を招き、ひいては憲法の軽視や憲法の安定性を毀損する恐れがあるとの懸念がある。そこで、このような乖離をいかなる方法で解消すべきかについては意見が分かれており、一方は現実に合わせて憲法を改正すべきであるとし、他方では現実を憲法に合わせて是正していくべきであるとしている。いずれにせよ、現状を打開する解決策を考えていかなければならない。

■ しかし、歴史教科書の検定や小泉首相の靖国神社参拝問題などで、近年中国や韓国では大規模な反日デモが繰り返されている。日本の憲法改正を、近隣諸国がどのように受け止めるか、そもそも憲法9条がどのような背景の中で定められたのかということは、憲法改正論議をすすめる上で決して忘れてはならない。

 

参考文献 「論座6月号」(2005年 朝日新聞社)
「改憲論を診る」(2005年 法律文化社 編著水島朝穂)
「デイリー六法」(2005年 三省堂)
参考サイト

ウィキペディア(http://ja.wikipedia.org/wiki
日本世論調査会(http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col437.html

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