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● 個人投資家の時代
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第1章 貯蓄から投資へ

by飯田 耕平

§0 はじめに

■ ペイオフ解禁や長引く低金利、そして経済のグローバル化が日本国民の資産運用スタイルを変えようとしている。具体的には郵便貯金や定期預金一辺倒であった個人の金融資産が、株式や投資信託といったリスクマネーに移されてきている。特にネット証券を中心としたオンライントレードの拡がりは顕著で、サラリーマンや主婦を中心に個人投資家が急増、ついには小学生投資家が出現するなど昨今の株式ブームを引き起こす一種の社会現象となりつつある。

■ 勿論こうした流れは日本経済にとって決して悪いものではない。市場参加者の裾野の拡大は株式市場の活性化に繋がり、また個人投資家の増加は国民のファイナンシャル・リテラシーの向上に大きく貢献するからだ。特にファイナンシャル・リテラシーは現代資本主義の要であり、それだけにこれからの日本経済の成長を考えれば必須の条件である。しかしながらOECDの「金融に関する市民教育」によれば、日本人の成人の約7割が株式・債券の知識がないとの調査結果が発表されてしまった。また下グラフの通り、日本の個人の金融資産1454兆円の内訳は依然として圧倒的に現金・預金が多く、投資信託や株式の比率が低い。これは米国の資産構成とは対照的である。

■ そこで今回は、個人を中心に現在最も注目されている金融商品である「投資信託」について考えていこうと思う。投資信託は多様な金融商品と関わり合いながら次々と進化を続ける性格を持っており、ファイナンシャル・リテラシーを磨くには格好の教材といえる。まずは投資信託の基本的な仕組みや拡がりを理解していき、そしてファンド資本主義の影響や最適ポートフォリオの実践など資産運用における基本的な姿勢を学んでいきたい。

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§1 投資信託の仕組み

§1-1 投資信託のリスクと安全性

■ 投資信託は多数の投資家から少しずつ資金を集めてファンドとし、それを運用のプロが様々な金融商品に分散投資して収益を投資家に分配する仕組みである。そのため利回りはあらかじめ確定しているわけではなく、場合によっては元本割れするリスクがある。ただ多様な商品群の中には公社債投信など元本割れのリスクが限りなくゼロに近いものもあり、投資家は自らの投資目的に合わせた投資信託を選ぶ事で各々のニーズを満たしやすいといえる。

■ リスクについてさらに言及すると、投資信託はペイオフの対象外であることは理解しておくべきである。万が一金融機関が破綻した場合に預金(元本1000万円とその利息)が保護されるという預金保険制度は、金融機関の競争が一段と激しくなっていくこれからの時代の資産運用において無視することはできない。やはり安全性という観点からは元本保証でペイオフ対象の預貯金が最も優れているといえる。

■ それでは投資信託は金融機関破綻時には何も保護されないのかといえばそうではない。実は投資信託の安全性は別のセーフティネットにより保護されており、その上保護される金額の上限もない。その意味では投資信託の安全性は預貯金に勝るとも劣らないのである。

■ その仕組みを理解するために、まずは投資信託の運営上の基本的なスキームを抑えておく必要がある。投資信託は多数の金融機関が役割分担しながら運営しており、その役割は大きく販売・運用・管理に分かれている。そして販売は証券会社や銀行、保険会社が担当し、運用は投資信託委託会社、管理は信託銀行というように投資家との間にはいくつもの会社が介在しているのである。以下に投資信託を扱うそれぞれの金融機関が破綻した場合の投資家への影響をまとめたので参照したい。

役割 担当金融機関 投資家への影響
販売 銀行・証券など 単なる販売窓口であるため影響なし
運用 投資信託委託会社 運用資金は信託銀行名義のため影響なし
管理 信託銀行 保護預り資産として別勘定で管理しているため影響なし

■ このように投資信託のリスクはゼロではないもののリスクは最小限に抑えられることがわかった。また安全性の面で比較優位性のある預貯金(元本割れリスクなし)についても次項のリターンを考えれば話は変わってくる。資産運用にはリスクとリターンを総合した上で、投資行動を決定していくことが求められるからだ。

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§1-2 投資信託のリターン

■ まず預貯金のおおよその利率は次のようになっている。三菱東京UFJ銀行の普通預金の利率が年間0.001%(2006年2月28日現在)、通常郵便貯金の利率は年間0.005%(同日現在)である。定期預金や定期貯金であっても預かり金額や期間によって変動するが概ね0.01%〜0.2%の範囲に留まり、これでは十分な資産形成を行うことは難しいだろう。さらにインフレリスクや為替リスクを考慮すれば、実質的にはマイナスとなる可能性すらある。もはや資産を超低金利で運用することの方が逆にリスクが高いとすら言えてしまいかねないのが現状である。

■ それでもやはりリスク商品に抵抗があるような人にとっては、まずは公社債投信が受け入れやすいと思われる。とりわけ多様な投資信託の中でも最も代表的な公社債投信であるMMF(マネー・マネジメント・ファンド)は投資信託初心者からの人気が高い。MMFが人気を集める理由は購入単位が1円単位という気軽さと、いつでも無料で解約することができる利便性にある。さらに過去に元本割れのケースがなく、それでいて利回りは概ね1年以内の定期預金より大きいこともあるだろう。要するにMMFは普通預金並みの利便性と定期預金以上の貯蓄性を兼ね備えた商品であり、その点投資信託初心者や安全性を重視する投資家にとっては非常に魅力的な商品になっているのである。

■ 一方、株高に沸いた2005年の日経平均株価は年頭より約40%も上昇した。同様に投資信託のパフォーマンスも極めて良好で、それを受けて個人マネーの受け皿となり昨年は純資産残高を大きく伸ばした(下グラフ参照)。特に株式投信の比率が高まっている事が最近の特徴である。勿論株式投信は株式というリスクの高い金融商品を中心に投資していくため、公社債投信より相対的にリスクは高い。ただし投資信託の基本は分散投資にあるため、個別銘柄の株価にとらわれることなく安定して収益を確保していくことができ、また得られる期待収益率も大きいというメリットがある。

注:下棒は株式投資信託、上棒は公社債投資信託+MMF。2006年は1月末時点
(出所:社団法人 投資信託協会)

■ 最もわかりやすい株式投信はETF(株価指数連動型上場投資信託)であろう。例えば日興のETF「上場インデックスファンド225」を見てみる。この投資信託は日経平均株価連動型であるためそのパフォーマンスは日経平均株価と同じように推移する(下表参照)。日本経済の先行き見通しの明るさから順調に純資産を増やしており、2006年1月末時点では4321億5400万円となっている。ちなみに仮にこうしたETFに頼らず、個人で日経平均株価に連動するポートフォリオを構築しようとすれば、どうしても多額の資金が必要となってしまう。その点、小口資金で高度な運用が可能となる投資信託のメリットは非常に大きいと言えるだろう。

  日経平均株価(円) 上場インデックスファンド
225基準価額(円)
純資産(百万円)
2005年7月末 11,899 11,967 290,788
2005年8月末 12,413 12,489 250,152
2005年9月末 13,574 13,702 248,365
2005年10月末 13,606 13,733 271,274
2005年11月末 14,872 15,009 292,536
2005年12月末 16,111 16,269 356,792
2006年1月末 16,649 16,809 432,154

(出所:日経平均プロフィール、日興アセットマネジメント株式会社)

■ さらに積極的に大きなリターンを得たいという投資家にはアクティブ運用がある。アクティブ運用は一定の運用目標(ベンチマーク)を定め、それを上回るパフォーマンスをあげるようにファンドマネージャーが独自に投資行動を決定していく。従って代表的な指数との連動を目指すインデックス運用より高い収益を上げる可能性は大きいが、同時に逆のケースもありうることも忘れてはならない。

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§3 多様な商品群

■ 投資信託の商品は多岐に渡っている。大きくは株式投信と公社債投信に分類でき、それぞれ単位型(ユニット型)と追加型(オープン型)がある。株式投信であればそこからさらにパッシブ運用やアクティブ運用、バランス型、成長株型、国内型、海外型‥というように分けられる。最近では不動産投資信託(REIT)やETF、さらにはワインファンドにゲームファンド、アイドルファンドに至るまで非常にユニークな投資信託が誕生している。今後も証券化の技術の向上によっては様々な商品が投資対象となりそうだ。投資家はこうした多様な商品の中から各々のリスク許容度に合わせてファンドを選択することが可能なのである。

■ 大半の投資信託は主に国内外の有価証券を中心に運用されるわけだが、投資信託を利用する最大の魅力の一つは海外の債券や株式に無理なく分散投資できるところにある。対象国も先進諸国のみならずBRIC sなどの新興諸国や中東、ラテンアメリカと世界中の国々が投資対象となる。さらに運用する通貨も円に限らず、米ドル、ユーロ、カナダドル、豪ドルといったように分散させることが可能だ。最近ではインド株や中国株が人気を集めているが、こうした株は個人で買うことは難しく、また情報面でもまだまだカントリーリスクが大きい。こうした時こそファンドマネージャーに任せる投資信託の真価が発揮される時といえる。

■ 投資信託の基本は分散投資にあることは既に述べたが、このように分散させるものは運用対象だけにとどまらない。地域、通貨、時期、期間、運用先、債券、株式、不動産‥など、これらを上手に組み合わせながら最適なポートフォリオを構成させることが重要なのである。最近ではこの分散投資のリスクヘッジをさらに追求したファンド・オブ・ファンズが人気を集めている。投資対象や運用スタイルなどが異なる投資信託を複数組み合わせることでリスク分散機能を高め、より安定的な収益を確保しようという商品である。

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§3 まとめ

■ 米国のG.ブリンソンに依れば、資産運用のトータル・パフォーマンスに占めるアセットアロケーション(資産運用における投資配分)の寄与率は実に9割以上とも言われている。またアクティブ運用もパッシブ運用も長期的な観点に立てば、リターンにそれほど差はでないとされている。そうなるとやはり資産運用における最大のポイントはポートフォリオの構築にあると考えられる。

■ 3月1日付けの日本経済新聞によると、投資信託や個人年金など個人向け投資商品の販売がますます好調だという。「貯蓄から投資へ」という国の政策上の後押しもあるのだろうが、一連の販売残高の伸びは個人の分散投資に対する関心の高さを反映していると考えられる。

■ ところで個人がリスクマネーを資産に組み込むようになるとどのような変化がおこるだろうか。おそらくこれまでリスク回避的な投資行動をとってきた日本人の国民性から推測すれば、自然と保有ファンドの基準価額や諸々の経済指数など、経済に関するニュースを少なからずチェックするようになるだろう。当然、証券会社や銀行といった販売サイドもこうした投資家の潜在的なニーズを汲み取り、各地で投資に関するセミナーを開くなど投資家を育成・教育することに益々力を入れていくはずである。さらに社会人の一般的素養としてファイナンシャル・リテラシーが重視されるようになれば、国や学校において金融教育が積極的に行われるようになるかもしれない。そうして個人が投資家としての自信と自覚を持つようになれば、今度は投資信託から株式や債券、外貨や不動産というように資産運用における視野は確実に拡がっていくだろう。つまり投資信託は国民のファイナンシャル・リテラシーを向上させるための大きな第一歩となりうるのである。

■ 一方、個人が投資信託や株式を積極的に買うような時代になってくると、変化は個人のファイナンシャル・リテラシーに止まらない。実は日本経済や企業経営に大きな影響を及ぼす可能性があるのだ。そこで次章では投資信託の販売の伸びが日本経済や企業経営にどのような変化をもたらすのかを中心に探っていきたい。

 

参考文献 「投資信託入門」(2004年 日本経済新聞社) 著 稲葉精三
「これ以上やさしく書けない投資信託入門」
(2000年 実業之日本社) 著 吉田明弘
日本経済新聞 2006年3月1日号
参考サイト

日本銀行 (http://www.boj.or.jp/
投資信託協会 (http://www.toushin.or.jp/)
日経平均プロフィール (http://www.nikkei.co.jp/nkave/)
日興アセットマネジメント株式会社 (http://www.nikko-am.co.jp/)

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