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第2章 これからの国債管理 |
by飯田 耕平 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
§0 はじめに■ これからの国債管理のポイントは何であろうか。もちろん直近的な課題としては「2008年問題」であろう。1990年代後半から急激に発行された国債の償還期間が2008年に集中しており、国は大量の償還資金を用意しなければならない状況にある。もちろんその資金は借換債によって賄われることになるが、この借換債が順調に消化できなければ国債価格が下落してしまいかねない。そうなると国債を大量に保有する金融機関の財務状況が悪化する可能性もあり、再び金融不安が起こってしまう懸念すらある。しかし国債に関する課題はこれだけではない。従って本章では問題山積の国債管理を今後どのような方向性で捉えていくべきか考えていくことにしたい。
§1 国債保有者構造の是正■ 下図にある国債の保有者別内訳を見ると大きな特徴に気づくことができる。それは政府部門(郵便貯金、簡易生命保険、公的年金、財政融資資金など)と日本銀行を合わせた公的部門が、国債全体の55.4%を保有しているということである。民間部門では銀行や生命保険会社などの金融機関が33.7%を占め、海外部門(3.7%)や家計部門(2.6%)は低水準となっている。こうした国債保有者構造の偏りは諸外国と比較しても顕著であり、将来的な歪さの是正が求められる。 ■ なぜなら保有者構造のバランスの悪さは相場の安定性にとってマイナス要素であるからだ。そもそも政府部門の中で割合が多い郵便貯金や簡易保険は、郵便局が民営化した今、従来どおり安定的に国債を買い入れていくと決め付けるわけにはいかない。そうなると公的部門の拡大傾向は見込めず、民間部門がプレゼンスを高めていくと考えるべきである。しかし民間部門の金融機関への偏りは、そのまま相場観の偏りに繋がりかねない。経済情勢の捉え方や類似したポートフォリオを組む金融機関同士が国債保有の大半を占めている状況では、相場が一方向に流れやすく安定的な市場は形成されにくい。 ■ 従って国債保有者を多様化することがポイントとなってくる。様々なタイプの投資家が異なった行動原理で国債を保有するようになれば、市場の流れは分散され相場に安定感が出てくる。そこでこれからは海外投資家や個人投資家の割合を増やしていくことが重要なのである。特に個人投資家は比較的長期保有する傾向が確認されており、国債市場の安定に適しているとして近年注目度が高くなっている。 ■ 一方、日本の場合、個人の資金は郵便貯金や銀行預金を通じて実質的に国債購入に当てられているという指摘はあるだろう。しかしこのような間接保有では金融機関の投資方針に依存することになり、上述した投資家の多様性は確保されにくい。また外国部門の少なさは日本国債が健全に国内消化されていることの証左であり、海外部門に依存しないという意味では長所であるという批判も正しい。しかし外国部門の重視は国内需要を補完するという意味合いではなく、国債市場の安定性を高めることを目的とした施策であり、海外投資家に魅力的な商品やインフラを提供していくことはやはり重視されるべきことである。 ■ さて個人保有を促す制度としては、これまでマル優制度と特別マル優制度があった。しかしこれらの制度は2002年度の税制改正で廃止となり、代わって今度は財務省主導の「個人向け国債」の発売が決まった。この個人向け国債は文字通り個人を対象とした商品で、個人以外は購入できず、変動金利制と中途換金制が特徴である。この変動金利と中途換金制度により、金利変動に伴う実質価値の変動リスクが抑えられ、そしていつでも額面金額に近い価格で換金できる安心感を提供することができる。また個人向け国債は1万円から購入できるため、小額から投資を継続的に行うことができ、個人投資家の間口を広げるという意味ではメリットは大きい。 ■ 個人向け国債の販売状況は好調だ(下図参照)。金融機関が手数料収入を見込んで続々と参入したため、取扱民間金融機関数は順調に増えている。ペイオフが解禁され個人の資産設計が求められる中で、資産ポートフォリオの中に個人向け国債を組み込む動きは確実に拡がっている。新発国債の中では依然として小さな存在であるが、今後の注目度は最も大きい。 個人向け国債の年度別発行予定額と販売実績
(財務省理財局より参考) ■ 勿論課題はある。例えば金利が下降局面に陥った場合を想定すると、大量の中途換金が発生する可能性がある。また変動金利制度も金利下降局面には国債販売にとってむしろマイナスに働くと考えられる。今後の課題は新たな商品性を持った個人向け国債を開発し、商品の多様化を持って個人部門を開拓していくことにあるだろう。 ■ 次に海外部門の開拓策であるが、1999年度から外国法人や非居住者に対する税制優遇措置が採られている。国債利子等の非居住者等非課税制度は、一定の条件を満たせば利子支払い時に源泉徴収される20%(所得税15%、地方税5%)を免除するものである。その後こうした非課税措置は改善に改善を重ね、現在では当面の制度的枠組みとしては一定の成果を得られるまでになっている。しかし依然として海外投資家からの注文は存在し、そもそも肝心の海外分野における日本国債の売れ行きは芳しくない。 ■ その理由としては日本国債の利率が低く投資商品として魅力に欠けるということがある。もちろん格下げによる日本国債の信頼性の低下は大きく、格付けに即した投資ルールを定めている海外の機関投資家に買われにくいということも大きい。改善策としてはまずは税制など投資環境の一段の整備と商品の多様性を確保すること、そして早急に財政を立て直すことで格付けを上げていく他はないだろう。
§2 国債市場の育成■ 現在の国の財政事情は深刻で、公債や政府短期証券など政府が抱える国民への債務は巨大に膨れ上がっている。しかもこの深刻な財政事情を短期的に解決することはほぼ不可能である。勿論国民の側もこうした状況はよく知っており、そのため財政再建を切望する声は大きい。こうした状況の中で政府が果たすべき役割は、最大限に国民の不安や不信を払拭し安心感を与えることである。国債管理においても政府の肥大化による経済効率の低下イメージが拡がれば、投資に伴うリスクプレミアムは増大し、市場は安定性を欠いてしまうだろう。従って市場の効率性と流動性を高め、安定的な市場を構築することが政府の重要な国債管理政策となるのである。 ■ そもそも国債は信用力が極めて高く、発行規模が大きいため市場流動性が高い金融商品である。国債が市場の金利体系のベンチマークとなっているのもこのためで、金融資産は信用力が低い場合、ならびに流動性が低い場合において市場からリスクプレミアムを要求されてしまう。そういった意味ではベンチマークである国債が安定的に十分な流動性を確保していなければ、効率的な金融資本市場は成り立たないといえるだろう。 ■ それでは国債市場の流動性を高めるためにはどうすればよいのか。まずは多様な商品を揃えることで投資家のニーズに応え、それらを最適なバランスで発行することである。次にマーケットとの対話を進めること、例えば国債発行計画を事前に発表することで市場の予見可能性を高めることや2004年から始まった国債市場特別参加者制度などはすでに行われている。また平成18年度からのシ団廃止に象徴されるように、競争的な市場原理を導入する傾向は強まっているがこうした方向性はやはり重要である。加えて税制問題の煩雑さを改善していくことも必要だ。 ■ このようにマーケットの流動性や効率性を高めるあらゆる措置を積極的に行っていくことが重要で、当然このことは確実かつ低コストでの国債発行にも繋がっていく。ただし財務省の力だけではこうした改革を成功させることは難しい。日本銀行や関係省庁、民間金融機関などが一丸となって日本の金融資本市場をより良くしていくことは必要不可欠なことである。
§3 債務管理の必要性■ ここからは国の債務管理の整備について考えていく。財務省は2002年度から国債の買入消却を国債管理政策の一環として積極的に活用している。目的は主に国債市場の流動性の確保や国債残高の削減、そして国債の満期構成のコントロールにあり、買入消却は諸外国でも幅広く取り入れられている制度である。 ■ この制度は差し当たっての問題として「2008年問題」への対応策となる。上述したように2008年度には国債の満期が集中している。買入消却にはこうした年度間の国債償還を平準化し、ある年度に負担を集中させないように分散させることができる。発行額自体が削減できるわけではないが、国の債務を計画的に管理し、望ましい負債構成を達成することが可能となる。 ■ また金利スワップ取引の活用も2002年度から認められている。これも債務管理の手法として利用でき、国が支払うべき国債の利率構成の固定化や平準化が可能となる。諸外国ではこうしたスワップ取引が盛んで、国の負債構成の調整手段として積極的に活用されている。 ■ このようにして国の債務管理においても様々な手法が日本に導入されてきているが、こうした分野はやはり諸外国の方が先進的である。例えば欧州ではリスク分析やリスク管理の指標が充実している。債務の現在価値ベースでの平均満期を示すデュレーションは一般的な指標であるが、近年スウェーデンなどではコスト・アット・リスク(将来の金利変動リスクを分析する手法)といった手法が本格的に検討されている。勿論こうした手法が適しているかどうかは定かではないが、様々な角度から将来のリスクを分析し国債管理に役立てることは、遅れをとる日本においても今後積極的に行われるべきと考える。 ■ 以上のように国の債務管理を充実させる必要性を指摘してきたが、これは来るべき最大の山場となる金利上昇局面に備えてのことである。1月末に発表されたCPI(消費者物価指数)は2ヶ月連続のプラスとなり、脱デフレの動きがますます鮮明となってきている。今後も緩やかに拡大していく見通しで、今年中の量的緩和解除はいよいよ現実味を帯びてきている。ただ量的緩和が解除されてもすぐに金利が引き上げられることは考えにくい。そうなると実質金利がマイナスとなる状況が続く可能性があり、国の財政にとってはある意味で望ましい状況になる。 ■ しかしそれでも近い将来の利上げは避けられない。とすると経済がインフレ基調へ変化する中で国債をどうやって安定的に消化させるか、金利の上昇にどのように対応していくかが問題となってくるだろう。国債の消化に関しては、これまで通り商品の多様化やインフラを整備することで多様な層に魅力的な投資商品を提供し続けていくことが必要だ。問題は金利の上昇である。金利が上昇すればその分国の財政事情は悪化してしまうが、金利の上昇そのものを阻むことは不可能である。従って何とかして金利を実体経済に見合った上昇率の範囲内に抑えることが求められるだろう。 ■ ただしそのためには財政規律を適切に保つ以外に有効な対策はない。また実際に金利が急騰した場合の効果的な対処法も確立されているわけではない。従って事態を未然に防ぐことが重要となってくる。その意味ではマーケットの安定性を高めることや国債保有者の分散も十分な防御策となるだろう。つまり国債管理政策を適切に進めていくことが、金利上昇局面においても重要かつ有効な対策となるということである。
§4 おわりに■ 国債管理のひとつの目標は発行コストの最小化にある。そのためには市場の機能が効率的であり、従って市場のインフラ整備が急務であった。その中で個人向け国債の好調な売れ行きは当面の明るい材料といえるだろう。海外部門のプレゼンスも金利の上昇と日本経済の格付けが引き上げられれば、自ずと高まってくると思われる。今後もこの路線は継続されるべきであろう。 ■ 一方で公的部門である日本銀行のプレゼンスの高さが際立っている。これは量的緩和政策による買いオペが原因であるが、現在でも月間1.2兆円のペースで行われており(出所:週刊ダイヤモンド)、量的緩和後も政府・財務省への懐柔策として続けられる可能性は高い。勿論日銀も市場の参加者には違いないが、価格形成に与える影響度の大きさは圧倒的である。そんな中、これ以上の過度の影響力は市場機能を形骸化させてしまいかねないという批判も起こっている。郵政民営化後の公的部門、とりわけ日銀の動向に注目したい。
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