§0 はじめに
■ 日本経済新聞社が出している「業界地図」という本がある。表紙には「『いま』と『これから』がわかる信頼度ナンバーワンの本」と書かれているが、こういった類の本はカラーで図式化されている点でも、業界を調べたりする上では確かに非常に有効だ。特に、就職活動を行う学生において、再編や統合を繰り返す業界を一目で理解し、整理するのには打って付けのツールだろう。
■ しかしながら今回は、単に各業界のランキングを調べたいわけでもなく、企業の売上高を知りたいわけでもない。先述した通り、ここ数年様々な企業間のM&Aや提携や統合、それに伴う外資系企業の台頭が目立っている。バブル崩壊後に大打撃を受けた日本企業がリストラや再編を繰り返しながら、欧米流のノウハウを取り入れつつ、ようやく新たな方向へ向かおうとしているようだ。その今までの経緯を調べ、現在の状況を認識し、さらにはこれからの「業界地図」まで描ければと思い、ここではこの本をツールとして使おうと思う。

§1 コングロマリット
■ バブル崩壊後に大きく変わってしまったのは、銀行だろう。多数あった都市銀行も今では東京三菱UFJ銀行とみずほ銀行と三井住友銀行とりそな銀行になってしまった。小さな銀行がたくさんあったのを全て集約し、メガバンクへと成長している。それらのメガバンク化と同じような現象は、同じ金融業界の生命保険や損害保険業界でも行われている。
■ また、金融業界では「金融コングロマリット」と呼ばれるくらいの再編が行われようとしている。「金融コングロマリット」とは銀行や保険・証券など業態の異なる複数の金融機関で形成する複合企業体のことで、一般に、持株会社が傘下企業を束ねる形態をとり、広範な金融サービスを提供することである。特に近年問題になっているのは、保険を銀行で売れるようになった銀行窓販や、生保と損保が共に進出し始めている医療保険や介護保険といった第三分野においてである。
■ こういった、様々な複合企業体は金融だけではない。例えば、本来メーカーでモノを作ることを行ってきたソニーやトヨタが金融業界に進出したり、部品や物流まで自社の関連会社を作って行わせたりするなどといったことも顕著に見受けられる。これらの現象は明らかにバブル崩壊の影響で、様々な取引企業によって生産していたものを、コスト削減を図るために、自社で原料の調達から販売まで行えるようにしたことが主な原因だと考えられる。
■ またバブル崩壊後に業界再編が繰り返されるようになるにつれて、外資系企業が台頭してきている。本誌を見ても明らかに以前より外資系の企業名が増えたように思える。その理由としては、様々な規制緩和はもちろんのこと、日系企業がよりグローバル化したことにより成果主義などの欧米流企業体質にも抵抗感がなくなり、外資系企業が日本に参入し易くなったからだろう。世界的に名高い北欧やアジア企業の日本市場進出は、IT部門では顕著に見られ、これからさらに拡大する恐れがある。そんな外資系企業と日系企業がどう争っていくのか注目したいと所だ。
§2 総合商社
■ バブル崩壊後に最も打撃を受けているのは実は総合商社なのかもしれない。「企業のデパート」と呼ばれるほどにまで様々な企業とネットワークを持つ総合商社は、その世界中に広がるネットワークを使って仲介料ビジネスを行っていた。しかしながら、バブル崩壊後に行われた企業のスリム化によってメーカー各社は自社の中で全てをまかない、コスト削減を図る工夫をするようになってしまった。そこで騒がれたのが『商社不要論』と呼ばれるものである。
■ そもそも商社という業種は以前より、日本にしか存在しなかった。海外への抵抗感や語学・文化の障壁を感じていた日系企業が海外進出するための手助けとして、始まったビジネスである。しかしその商社も、欧米のようにグローバル社会の一員となった日本には、確かに不要になってきたのかもしれない。
■ しかし、それ以降実は総合商社は様々な分野に裾野を広げていっている。音楽やメディア、そしてITと商社の関連子会社という名目で様々な会社を設立し、新たなビジネスモデルを展開している。また最近では、そのネットワークを生かしたM&Aや経営コンサルタントにも手を出しているのだから、もはや「企業のデパート」としては収まらなくなっている。
■ 『商社不要論』が謳われてもう10年になるが、それでも未だに業界規模47兆円を維持しているのは、ある意味それだけ商社が必要とされているという証なのかもしれない。言い方を変えれば、商社が不要にならぬよう総合商社各社が躍起になって生きる道を探しているようにも見える。
§3 IT・ネット
■ また本誌からわかるのは、IT・ネット業界がもはや日本の業界の中で、一つの確立された地位に位置づけられていることだ。ほんの10年前まで、インターネットというものがここまでの産業になるとは誰も予想できなかったに違いない。アメリカでは、主要産業が自動車業界からIT産業へと移り変わっていることは言うまでもない。今やアメリカ一の企業はフォードでもGMでもダイムラークライスラーでもない。マイクロソフトなのだ。
■ 米国ではあらゆる局面で、「ハード」から「ソフト」への移行が行われている。現金からキャッシュカードへ、そしてキャッシュカードからネットバンクへ。お金でさえも今ではバーチャルな世界が当たり前となっている。学校へ行かなくても教育が受けられるe-learningは当然のこと、時間・場所を問わないユビキタス社会は、もうすぐそこまで来ている。
■ 今や日本でもある程度ブロードバンド化によって様々なサービスが可能になっている。その広告市場やネットビジネスに目をつけ、成功を収めつつあるのは、世間を騒がせているソフトバンクや楽天やライブドアといった企業なのである。彼らがよく口にするメディアとネットの融合も一つの新たなビジネスモデルであろうし、企業買収による株価変動から利益を得ることも同様である。
§4 終わりに
■ いずれにせよ、新たなビジネススタイルの導入がどの業界にも要求されていることは間違いなさそうだ。そういう意味では、各業界のコーポレートガバナンスは当然のこと、所属する業界を超えたビジネスを起こすことが一つの鍵となってくるように感じられる。メーカーが金融業界に進出したように、様々なチャレンジが企業を複合体にし、大きな利益を生む。その点でIT業界がこの先優位な点があるとすれば、身動きのとりやすい環境にいる点であろう。
■ しかしながら、先述した通り身動きの取りやすさで考えれば、総合商社もIT企業同様に業界を超えてビジネスモデルを構築できるであろうし、金融業界もその資金とネットワークを生かして構築できるはずだ。今まで、ヒトがモノを作り、それをヒトが買うという一方的なビジネスが主流だった。しかし、今後のビジネスモデルの一つとしては、それだけではなくモノをいかに動かすのかという視点や他のモノとどうコラボレートするかという点が重要になってくる。もしかしたら、モノ自体が存在しないバーチャルな世界でのビジネスも主流になるかもしれないが。
■ そう考えれば、どの業界の企業もどんな人材を今求めているのか、ある程度見えてくる。今までであれば、モノをいかに安く作り、いかに高く売るかという過程で活躍できる、真面目で正確で優秀な人材を求めていたに違いない。しかし、これからはそういう人材も必要だが、まさに固定概念に縛られない、「枠」という概念を持たずその「枠」を超越し、さらに創造できる人間を必ずや求めるはずだ。つまり、こういった類の業界誌も事細かにデータや順位付けを見るのではなく、業界の流れを読み取り、今後を創造するための一つの参考にするくらいの気持ちでいいのかもしれない。
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