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● 2050年問題
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第11章 2050年のEU Part2

by葛原 怜

§0 はじめに

■ 環境問題の文明への影響は紀元前からみられる。エジプト・メソポタミアなどの古代文明は森林の過剰な伐採が原因で砂漠化を招き、生産力を保てなくなって衰亡したと言われている。しかし、環境問題が特に顕著となってきたのは産業革命以降である。EUを含むヨーロッパでは、石油や石炭などの化石燃料を使用することで莫大なエネルギーを取り出すことが可能になり、また、石油化学工業によって多くの人工物質を合成・使用することができるようになった。

■ そして20世紀末期までは、環境破壊の重大さは比較的軽視される傾向があった。経済的な要請と環境の保護は相反することが多く、結果として経済的な発展と引き換えに、環境に多大な負担をかけざるを得なかったという側面があるのだ。そんな中、環境問題が一般に取り上げられるようになった契機としてレイチェル・カーソンの『沈黙の春』(1962年)が挙げられる。

■ 同書は産業界からは激しい非難を浴びたが、DDT(有機塩素化合物の殺虫剤の一つ)の全面禁止など、その後の米国の環境行政に大きな影響を与えた。1972年、ローマクラブが取りまとめた報告書『成長の限界』が出版され、現在のまま人口増加や環境破壊が続けば、21世紀半ばには資源の枯渇や環境の悪化によって、人類の成長は限界に達すると警鐘を鳴らしている。破局を回避するためには、地球が無限であるということを前提とした経済のあり方を見直し、世界的な均衡を目指す必要があるというわけだ。

■ その後、現在に至るまで特にEU地域を中心に酸性雨の影響が出てきた。他にも、オゾンホール、地球温暖化、異常気象など全地球規模の気候の変化が顕著になってくるにつれ、人々の環境に対する関心は徐々に高まってきた。世界の環境に対する関心が高まる中、最も環境問題に対する関心が高いEUは、警笛が鳴らされている2050年に向けてどんな取り組みをしているのであろうか。本章では、現状を踏まえつつ45年後のEUを見てみようと思う。

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§1 現状のEU

■ EUの温室効果ガス排出量は今日、世界全体の約14%を占めている。そんな中EUは、1990年という早い時期から、CO2排出量を2000年までに1990年レベルに安定させることを自主的に定め、その目標の達成に成功した。また、京都議定書に従い、旧15加盟国は、議定書で規制される温室効果ガスの合計排出量を、2012年までに1990年レベルよりも8%削減することをも定めている。

[環境省より参考]

■ EU内ではこの全体的目標値を基に、各加盟国の排出量削減能力に従って、法的拘束力のある目標値が国別に設定されている。2004年5月にEUに加盟した10カ国は、このEU目標の対象国となっていないが、ほとんどの国が議定書に従い、6−8%という独自の削減目標を設定している。

■ ところで、EUの排出量の80%以上がエネルギーの生産と使用、そして運輸による排出である。各加盟国の国内対策を補う形で、欧州委員会は費用対効果の高い方法で温室効果ガスを削減するための幅広い規制と市場ベースに基づく対策を講じてきた。これは欧州委員会のイニシアティブによる欧州気候変動計画(ECCP)の下で行われている。ECCPから生まれた最も将来性のある対策の一つが排出権取引指令で、これが2005年1月1日にEUが先駆けて導入した排出量取引制度につながった。

■ また、京都議定書の目標を費用対効果の高い形で達成するために、EUは企業レベルでの世界最大のCO2排出権取引制度を導入した。この「キャップ・アンド・トレード(上限付取引)」制度は、EUの全25加盟国の電力・熱産業などの主要エネルギー集約産業の大量排出企業約12,000社を対象としている。EUのCO2合計排出量の約45%に相当する対象企業は、年間のCO2排出枠が政府によって割り当てられ、排出量が割当量を下回った企業は余剰分を売却することができる。

■ 一方、排出量が割当レベルを超えると予想した企業は、排出量削減に向けて投資するか、または過剰排出分の一部あるいはすべてを賄うために市場でさらに割当分を購入する。このように、柔軟性のある制度を活用することによって、企業は最も経済的な方法を選択することができることとなった。この排出権取引制度は他の国々の同様の制度と連携が可能なほか、第三国における排出量削減プロジェクトで獲得した「クレジット(削減量)」を活用することで、京都議定書の市場メカニズムを支えている。この制度は2006年中頃に見直しを行い、今後他の温室効果ガスや業界の他部門にも拡大するかどうかが検討されるという。

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§2 ポスト京都議定書へ向けての動き

■ 世界の気温は今後数十年に一段と上昇することが予想されているが、これを防止する、あるいは少なくとも抑制するには、京都議定書の目標値の達成期限である2012年以降に、温室効果ガス排出量削減のための広範な対策が必要になる。この対策が効果を上げるには、すべての主要排出国の関与が必要である。これには京都議定書への参加を見送った米国(世界の排出量の約25%を占める)と、議定書の下で排出量削減目標値を与えられていない中国(14%)、インド(6%)などの大きな途上国が含まれる。

■ EUは、気候変動の最悪の影響を回避するには、地球の温度上昇を産業革命以前のレベルから2℃以内に抑制する必要があると考えている。現時点で手に入るデータから判断して、この値を超えた場合、さらに深刻な影響が及ぶおそれがあるためである。この上限以下にとどめるには、先進国の排出量削減についは、2020年までに1990年レベルの15?30%以下、それ以降はさらに大幅な削減を考える必要がある。EUは2012年以降の対策に関する国際的な討議を早急に開始するよう求め、新たな世界交渉の準備に向け、世界の諸パートナーと積極的に作業を進めている。

■ ルクセンブルグ議長国下で初めてのEU環境閣僚理事会が、2005年3月8日にブリュッセルで開催された。今回の理事会では、気候変動戦略、春の欧州閣僚理事会(首脳会議)への準備、国際会合や条約会合の準備(国連持続可能な開発委員会、オーフス条約締約国会議、カルタヘナ議定書締約国会議、POPs条約締約国会議)などについて話し合われた。気候変動については、京都議定書の第一約束期間が終了する2012年後に向け、EUの中長期的な排出削減戦略について決議がなされた。決議では、世界の気温の上昇を、産業革命前のレベルから2度以内に抑えるという目標が再確認され、先進国グループについては、2020年までに、1990年レベルから15〜30%、2050年までに60〜80%、排出量を削減することを検討すべきだとされた。

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§3 EUバブル

■ 京都メカニズムのひとつにクリーン開発メカニズム(CDM)がある。排出量上限のある国(例えば日本)が、排出量上限のない国(例えば中国)で、発電所を作るとしよう。中国が従来の技術で発電所を作り発電する時に発生するであろう温室効果ガスの排出量と、日本の技術で発電所を作り発電する時の排出量の差を、日本と中国が共同で削減したものとみなす制度である。CDMによる削減量はクレディットと呼ばれている。

■ 一方、排出量上限のある国同士で技術移転などを行うことにより、排出削減量を移転できる制度はジョイント・インプレメンテーション(JI)と呼ばれている。ロシア・ウクライナなどでは、2010年頃、経済の停滞のため、実際の温室効果ガスの排出量が議定書で定められた排出枠を大幅に下回ると予想されている。このため、国内削減の努力をすることなく、排出権を他の需要国に売ることが可能になる(この排出権はホットエアーと呼ばれている)。

■ 一方、議定書では、排出権取引およびJIは、国内削減に「補完」的でなければならないと明記されている。つまり、国内削減が"主"で排出権取引、JIは"従"である、と解釈できる。EU はこの補完性を体現する戦略として、99年5月、排出量の供給国には供給量に一律の制限を設け、需要国は10個の数値の中から一つだけ取引上限を選べるという提案をした。議定書ではCDMには明白な補完性の記述がないので、排出権取引においてCDMからのクレディットに制限はかけられない。

■ そうすると、供給全体に制限をかけることはできない。一方、需要国では各国10の数値から自国が最も得をするように上限を選べる。つまり、供給側には制限がなく需要側では購入量を戦略的に制限できるので、排出量の価格が下がる。購入量は少なくなるものの、価格が下がるので需要国が得をする可能性すらある。よって、EUの数量制約提案により得をするのは EU を含む需要国、損をするのは市場経済移行国と途上国になる。EU 提案に対する日米の反論は、数量制約をすることによって市場の効率性を損ねる、というものである。つまり、数量制約では最も安く目標を達成することができない。

■ 4番目の京都メカニズムと呼んでよいものに「バブル」がある。バブルとはグループのことで、EU15カ国の各々は90年比8%削減をいう約束を議定書でしてはいるが、EUをグループとして認めることにより、各国の削減量はまちまちでもEU全体として8%削減すれば良い、というのがバブルの考え方である。そのため、EUは15カ国の各々に削減を再配分している。この再配分の数値をみると15カ国中10カ国が上述のEUの数量制約条件を満たしていない。

2012年までのCO2削減率(1990年比)

国名 削減率
オーストリア ▲13.0%
イタリア ▲6.5%
ベルギー ▲7.5%
ルクセンブルグ ▲28.0%
デンマーク ▲21.0%
オランダ ▲6.0%
フィンランド 0%
ポルトガル 27%
フランス 0%
スペイン 15%
ドイツ ▲21.0%
スウェーデン 4%
ギリシア 25%
イギリス ▲12.5%
アイルランド 13%
EU 全体 ▲8.0%

 

■ EUバブルにはさらに大きな抜け穴といってよい戦略がある。チェコ、ハンガリー、ブルアリアなどのEUバブルに参加することが見込まれている市場経済移行国のホットエアーである。これらの国々がEUバブルに参加すると、拡大EUバブルの各国がほとんど削減することなしに議定書の約束排出量を満たす可能性すらあるというわけだ。環境に対して早くから配慮していると言われているEU諸国だが、石炭や石油を輸送においてよく使っているイギリスとドイツのみが削減をし、それ以外の国は逆に増やしているという現状があるのだ。

§4 まとめ

■ 以下の図を見てもらいたい。これは、EUが予測している2050年までの年間CO2排出量の予想推移であるが、これは先程の削減目標に対して作られたものである。簡単に言うと、2050年にEUが排出するCO2は3億トンを切るという計算になっている。確かに、先述した通り、EUは環境に対していち早く対処している。しかしながら、同時にその対応の方法にも疑問が持たなければならない。

■ 世界の地球温暖化を止めようという目標の為に、京都議定書は作られた。そして、そのために各国が可能な限りの削減をしていかなければ、温暖化はそう簡単に防止できないのは周知の事実である。それにもかかわらずEUは、EU全体での削減目標を取る事で、CO2を増やしても構わないという逆の目標を加盟国に与えてしまっているのが現状だ。

■ そのためか、2010年を境にして、急に削減量が増加しているのが以下のグラフから読み取れる。2010年以降のポスト京都議定書では、余力を残したイギリスやドイツ以外の国々に対して削減目標を厳しくするのであろうか。EUとしては温暖化防止に最善を尽くしていると、国際会議で豪語する前に、2050年に向けまずはどの加盟国もCO2を"削減"する目標を掲げて欲しいと思う。

[International Network for Sustainable Energyより参考]

 

参考サイト :EUの環境政策と産業 http://www.jmf.or.jp/japanese/wold_topic/EU/eu_contents.html
  :EICネット http://www.eic.or.jp/
  :在日欧州委員会代表部 http://jpn.cec.eu.int/home_jp.php
 http://www.esri.go.jp/jp/prj-2004_2005/forum/050304/Egenhofer_j.pdf
  :NEDO技術開発機構 http://www.nedo.go.jp/index.html
  :内閣府・経済社会総合研究所 http://www.esri.go.jp/
  :International Network for Sustainable Energy
 http://www.inforse.dk/europe/Vision2050.htm
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