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● 各国自動車企業の中国戦略

第1章 中国の自動車産業事情と政策

by飯田 耕平

§0 はじめに

■ 世界貿易における自動車産業の占める割合は大きい。歴史を振り返れば、自動車産業を制する国が経済の主役を担ってきた感はあるだろう。将来の世界経済のバランスを考える上で、今後最も影響力の大きい国が中国であることは間違いない。その中国も自国経済発展の柱の一つに自動車産業を据えている。しかも2010年までに日本を抜いて世界第二位の単一自動車市場となり、2020年までには米国市場と同規模程度になるとの見方が一般的だ。それでも現時点ではまだまだ発展途上の段階にあり、ここに各国企業が中国市場に進出していく理由があるのだろう。

■ このように考えると、これからの中国市場をどのように攻略していくかという問題は、今後の自動車業界、ひいては世界経済の行方まで大きく左右してしまうものと言えそうだ。今回はそんな中国自動車市場に進出する各国企業の動き・戦略に注目していく。またこのことについて考えることは、自動車産業の世界だけにとどまらず、新市場参入全般に関わるあらゆる分野において格好のケーススタディともなるであろう。

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§1 中国自動車産業事情

1-1 マイカー時代の到来

■ これまで順調な成果を上げてきた中国自動車産業であるが、昨今の生産台数の増加には特に目を見張るものがある(下グラフ)。中国政府も積極的に自国の自動車産業をバックアップしており、その期待は非常に高い。幹線道路や高速道路といったインフラの整備は、大幅な輸送量の増大をもたらし、近代化による国民所得の増大(特に沿海部)は購買層の拡大をもたらした。このような高まる自動車需要に加え、WTO加盟による市場開放路線が生産台数増加の大きな要因となっている。


(日本自動車工業会より作成)

■ 2003年度における総生産台数は444.4万台(前年度比35.2%増)、販売台数は439.1万台(同34.2%増)と、過去最高を更新。そのうち、バスの生産台数は119.5万台(11.9%増)、販売台数は120.9万台(15.1%増)。乗用車の生産台数が201.9万台(83.3%増)、販売台数が197.2万台(75.3%)であった。これらのデータは、中国自動車市場の主役の座が徐々に乗用車へとシフトしてきていることを意味する。これまではバス・トラック・タクシーといった商業用の車が大半を占めていたが、いまや総生産台数に占める乗用車のシェアは45%にまで達している。中国の「マイカー」時代到来が、いよいよ現実味を帯びてきた。

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1-2 政府主導のプロジェクト

■ これまで中国政府はその強い指導力によって、選定したいくつかの国産自動車メーカーを重点的に育てる政策を採ってきた。この国内メーカー保護・発展プロジェクトは「三大三小二微」政策と呼ばれている(下表)。しかし、中国の国内企業だけでは自動車産業の大きな発展は望めない。そこで中国政府は積極的に外資を利用しようと導入を進めてきたわけだが、同時に外資側には常に厳しい条件を提示してきた。中国政府の狙いは明確で、国内市場を守りつつ、先端技術や経営ノウハウを吸収することであった。

三大 第一汽車 東風汽車 上海大衆汽車
三小 北京吉普汽車 天津市微型汽車 広州ホンダ
二微 国営長安機器 貴州航空  

■ 中国政府は以前から、国内に無数に乱立する中小自動車メーカーを、将来的には「三大三小二微」に集約するとの方針を示している。そのため「三大」メーカーを中心として、今後より一層の規模拡大を目指した再編・淘汰が行われると予想される。一方でWTO加盟により、本格的に世界の超一流メーカーが中国に進出してきている。政府の保護下とはいえ、市場開放の趨勢の中でいつまでもトップ企業でいられるほど甘くはない。事実、三大に限っても東風汽車などは販売台数の伸び悩み傾向が出てきた(下グラフ)。外資との合併や新たな規制など大幅な政策転換の必要性は確実に高まっている。WTO加盟前後からは漸進的に国内メーカーへ自由な裁量を認める動きも出てきた。「三大三小二微」政策はいま大きな分岐点にある。

■ そんな中、2004年6月1日に中国政府は「新自動車産業発展政策」を発表した。10年ぶりの改定は、旧政策では国内市場の急速な発展速度に対応しきれないという問題を解決するためである。主な変更点は、WTO加盟時の承諾と合致しない部分の修正。外貨バランス、国産化の割合、輸出の実績といった制限の撤廃などが盛り込まれている。

■ 一方、外資メーカーの単独での全額出資は依然として認められず、中国メーカーとの合弁会社という形態を取らなければならないことは変わらない。その際の持ち株比率も50%以下に定められている。それでも今回の新政策では、輸出向けの自動車及び部品生産に関しては、外資メーカーによる出資が50%以上を越えてもよいことが事実上容認された。

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1-3 自動車大国への課題

■ 爆発的な生産台数の増加や海外メーカーの進出は中国市場の好調さを表すのに十分であろう。しかし後発国が急成長を遂げた裏側で実は数々の問題を抱えているのも事実である。WTOへの加盟は外国メーカー参入の防波堤となっていた関税撤廃・輸入数量制限撤廃の流れを生み出し、国内メーカーには大きな打撃となっている。

■ 例えば販売台数に関わる問題点。中国の販売台数を増やすためには、国民の購買力を上げる必要がある。しかしこの問題はそれほど単純なものではない。個人の所得が増えるということは人件費が増えるということの裏返しである。そうなれば中国の比較優位である「低廉な人件費」というコスト競争力を失うことになってしまう。国際的な競争力を失ってしまえば、持続的な国内自動車産業の成長・育成・発展は難しくなる。このように購買層を増やしたいにも関わらず、国益を第一に考えると簡単にはできないというジレンマが、中国の社会経済状況には存在する。

■ 自動車産業においては常に出てくる環境汚染防止問題もある。人口の多い中国ではより一層厳しい排出ガス規制への動きがあり、新たな省エネ技術の導入など開発費の増大は必至だ。他にも沿海部と内陸部の所得格差の問題や人民元の問題、大規模なインフラ整備による増税問題や都市部での駐車スペース確保の困難さ、いまだ不備の多いローン制度など、中国が真の自動車先進国へと変貌するためには、これら大小様々の問題を次々にクリアしていく必要がある。

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1-4 激化する市場争奪戦へ

■ 一般に、国民一人当たりのGDPが2000ドルを超えると自動車産業は飛躍的に発展するといわれる。また国民一人当たりのGDPが800ドルラインを超えれば、自動車産業が生まれてくる目安だといわれる。2003年に中国は一人当たりGDPが9030元となり、初めて1000ドルを突破した。中国自動車産業はまさに勃興期から覚醒期へと移行している。

■ しかし外資との合弁により競争力強化をはかっている国内メーカーも、依然としてグローバルに展開できるほどには至っていない。世界的な再編の進む自動車メーカーであるが、中国市場を前に新たな合従連衡が生まれる可能性は十分にあるだろう。WTO加盟による自由化への期待は、トヨタやGMといった超一流企業の本格参戦を招いた。成長著しい中国市場の覇権を狙ってグローバル企業が真っ向から激突する。次章からいよいよ各自動車メーカー進出の動きを見ていく。

参考サイト 日本自動車工業会 (http://www.jama.or.jp/index.html)
  中国情報局 (http://searchina.ne.jp/)
  IHCC Web Library (http://www.iijnet.or.jp/IHCC/north.html)
参考文献 週刊ダイヤモンド 2004 9/4号
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