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● 各国自動車企業の中国戦略

第2章 巨大市場獲得競争(1)

by飯田 耕平

§1 中国市場における外資進出の歴史

■ それではこれまでの中国自動車市場と外資進出の歴史を簡単に振り返ってみよう。1978年から中国が改革開放路線を推進したことを受け、80年代に入ると政府は積極的に外資の導入を始めた。最初に中国進出を果たしたのはAMC(現ダイムラークライスラー)。83年に北京汽車と中国自動車史上初となる合弁会社・北京ジープを設立した。その後、上海汽車とVWにより上海VWが、広州汽車とプジョーにより広州プジョーが相次いで設立された。また三大三小二微政策が掲げられたのもこの頃からで、同時に外資には厳しい進出規制を設けていった。

■ 90 年代に入ると中国自動車市場は更なる発展を見せる。94 年に「自動車工業産業政策」が公布されると、各国の自動車メーカーは一斉に中国に注目し始めた。それはこの政策が、政府によるモータリゼーションの進展、とりわけ乗用車の一般普及を促し始めるというものであったからだ。しかし、新規参入はごく少数しか認めないという政府の方針により、海外メーカーも容易には進出できなかった。その証拠に上海汽車がVWに次ぐ新たな合弁相手を探す際には、GM、フォード、トヨタといった大手企業が名乗りを上げたにもかかわらず、結局、当時最も大きな投資計画を打ち出したGMのみが中国進出を果たすにとどまっている。

■ 日本勢の最大手メーカーとしては、99年に初めてホンダが進出を果たす。プジョーの撤退を受け、その代わりにホンダが広州ホンダを設立した格好だ。2002年にはようやく出遅れていたトヨタが天津汽車と、フォードも長安汽車集団と合弁し、中国進出を果たす。さらに2003 年、日産は東風自動車と、その後ダイムラークライスラーが北京汽車と合弁することを決定した。

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§2 複雑な合弁関係

■ 中国政府による外資の進出規制は依然として厳しい。外資メーカーの単独進出は認められていないため、現地の中国メーカーとの合弁という形態を取らなければ進出できない。さらに合弁の際の持ち株比率も50%以下に定められている。もちろんWTO加盟によりこういった厳しい参入規制は漸進的に緩和されていくことだろう。しかしそういった期待とは裏腹に、すべてのメーカーがルールに則って中国市場に乗り込んでいるのが現状だ。

■ こうした事情により、現在の中国では現地メーカーと外資との複雑な合弁関係が形成されている。下表を見ても分かるように、例えばVWと合弁している第一汽車がトヨタとも合弁を結んでいたり、一方のVW側も上海汽車と合弁を組んでいるなど、一見して大変わかりにくい提携関係となっている。

主要中国メーカー 合弁パートナー
第一汽車 VW トヨタ フォード
上海汽車 VW GM いすゞ
東風汽車 PSA 日産 ホンダ
長安汽車 スズキ フォード
広州汽車 ホンダ トヨタ
北京汽車 DC 現代自動車 日産

■ このような状況になってしまった原因には、中国市場の特殊性が影響しているとも考えられるだろう。中国は従来から一省一工場の政策を採っており国内自動車メーカーが多数乱立していた。これは中国文化の「地域性」に由来するもので、この国では地域ごとによって売れているメーカーがまったく違うということも珍しくない。そのため外資メーカーには新たな合弁相手と組むことで生産・販売拠点を確保したいというインセンティブが生じ、他方、中国メーカーにも有力な外資を複数取り込んで経営を安定化させたいというインセンティブが存在するのである。こうして双方の利害が一致した結果、多数の提携関係が交錯する複雑な関係が形成されていったものと考えられる。

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§3 各社の中国展開

■ 少し前までの中国自動車市場は時代遅れの旧型車ばかり出回っていた。政府の市場保護政策の下では、欧米や日本市場のような熾烈な競争などないに等しいものであったからだ。もちろんそれでも消費者は買っていたし、メーカーは十分に利益を出すことができた。そこには中国市場の特殊性といわれた社会主義的なビジネス慣習が存在していたように思われる。

■ しかしWTO加盟後の現在は大きく変わった。消費パワーの向上と企業間競争の激化は、商慣習の欧米化や消費者至上主義をもたらした。価格競争も熾烈を極め、いまや販売価格の下落が進出メーカーの最大の悩み事となっている。もはや時代錯誤の車を販売しても売れるという保障は全くなくなった。事実、参入各社も最新鋭のモデルや中国仕様のモデルを投入して差別化を図るようになってきている。市場開放に向かい特殊性を失った巨大市場では、しっかりとした戦略を持って生産・販売していかなければならない。以下では各国自動車メーカーごとにその事業展開を見ていく。

§3-1 先発組(VW、GM、ホンダ)

 ◆VW(独フォルクスワーゲン)◆

■ VWの武器はまさに「進出時期の早さ」といえるだろう。1985年に進出し、第一汽車、上海汽車とそれぞれ合弁企業を設立した。進出以来ずっと現地での生産・販売に着手してきたことによるアドバンテージはことのほか大きい。蓄積された様々なノウハウは一朝一夕に手に入るものではない。他メーカーが不案内な中国市場に苦戦するのを尻目に、同社は現在も生産、販売体制づくりで大きく先行している。下のランキングを見ても分かるように、乗用車部門では40%近くのシェアを握っている(注:2004年1−6月では24.3%にまでそのシェアを低下させている)。

2002 中国乗用車販売台数ランキング
  メーカー名 生産台数 シェア(%) 主な車種
1 上海VW 301,095 23.8 サンタナ パサート
2 一汽VW 207,858 16.4 ジェッタ アウディ
3 上海GM 110,763 8.8 ビュイック セイル
4 一汽天津 95,433 7.5 シャレード
5 神龍汽車 85,088 6.7 シトロエン
6 長安汽車 65,018 5.1 アルト カルタス
7 広州ホンダ 59,151 4.7 アコード オデッセイ
8 奇瑞汽車 50,155 4.0 チェリー
9 吉利汽車 45,972 3.6 美日
10 風神汽車 41,060 3.2 ブルーバード

 

■ もう一つ先発組のアドバンテージとして、政府からの庇護を受けていることも大きい。例えばタクシーなどの業務用乗用車の生産は、VWにのみ許可された独占事業だ。これなどまさに中国政府からの信頼の証といえる。知名度やブランドイメージの面でも大きく先行している。「サンタナ」などの人気車種を多数抱えているのも強い。今後は乗用車を中心としたフルラインの充実、上海汽車と第一汽車との効率的で巧みな業務展開、並びにマーケティングや販売面でも先発組としての優位性を発揮できるかが課題となるであろう。

 ◆GM(米ゼネラルモーターズ)◆

■ 世界一の自動車メーカーであるGMだが、中国進出に際しては出遅れとは言わないまでも少し様子を見た感がある。上海汽車との合弁で、生産・販売を開始したのは1999年。初めて市場に投入する車には、高級セダン「ビュイック」を選んだ。売り上げは好調で大きなヒットとなったが、これはもちろんGMの戦略に裏づけされたものであった。

■ 当時の中国では規制などの諸事情により旧式の車が横行していた。つまりGMは時代遅れの中国市場に高級セダンを投入し、それに消費者は目の色を変えて飛びついたというわけだ。国民所得の調査をし、購買対象を一部の富裕層に絞ったことも、GMのイメージ戦略成功につながった。さらに2001年からは「セイル」も投入し、2003年度の総販売台数は20万1282台(対前年度比81%増)を記録、圧倒的なシェア拡大を見せている。今後は上海汽車との提携を軸に、小型車や乗用車、バス、トラックといった幅広い生産拠点を確保していく見通しだ。

 ◆ホンダ(本田技研工業)◆

■ ホンダはプジョー撤退後の広州汽車と合弁会社、広州ホンダを設立した。1999年には中国市場投入の第一号車種として高級セダン「アコード」を選択。基本的な狙いはGM同様、ターゲットとなる購買層は一部の富裕層に限定した高級車戦略で、当時の中国市場にはなかった斬新なデザインやサービスで差別化を図った。もちろん消費者には大変好評で、人気を集めた。しかし最近ではWTO加盟による中国国内の自動車価格下落に合わせて、高級車戦略の中にも小型車を投入するなど、柔軟な対応を見せながらニューリッチ層などの新たな購買層の拡大を目指している。

参考サイト 日本自動車工業会 (http://www.jama.or.jp/index.html)
  中国情報局 (http://searchina.ne.jp/)
  IHCC Web Library (http://www.iijnet.or.jp/IHCC/north.html)
参考文献 週刊ダイヤモンド 2004 9/4号
  日本経済新聞
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