§0 はじめに
■ 世界の金融・資本市場は大きく動いている。先進国とエマージングマーケット※とを問わず国境を越えて移動する資金の量が巨大になっている。これは各国の金通システムが大きく変化しているということに他ならない。
※ エマージングマーケット・・・1990 年代に急速に経済成長し,貿易や投資先として有望な国・地域。
■ 日本は現在、他のアジア諸国と同様、多額の不良債権問題に直面している。さらに、わが国の金融機関は世界的な金融のメガトレンドに乗り遅れないように、ビッグバンを成功させなければならないとも言える。世界的な金融のメガトレンドとは、一言で言えば、国際的な資金移動が巨大化する中、各国の市場が同質化し、個々の金融機関がより高い効率性と市場支配力を求めて大型合併等に進む動きである。このトレンドは、1999年からの欧州の統一通貨ユーロの誕生によっても加速された。現在の日本でも、その動きは確かに存在する。
■ さて、前章ではインターネットの普及により、世界中で株式投資が身近なものとなったことを紹介した。そして、日本における株式投資とはどのようなものであったかということも簡単ではあるが論じた。本章では、日本以外の国々における資本市場と株式の関係について紹介し、それと同時に世界の株式投資の潮流について考察していくことを目標とし、論じていきたいと思う。
(参考文献:『変動する世界の金融・資本市場』1999年 著 (財)国際金融情報センター)
§1 米国の資本市場と株式投資
■ 米国の金融資本市場の第一の特徴は、経済規模が世界最大で、通貨ドルが世界の基軸通貨であるため、同国の金融資本市場の動向が世界でもっとも大きな影響力を持っていることである。第二の特徴は、自由で規制が少ないため、イノベーションに富んだ市場であることである。こうした特徴は、米国金融機関の金融派生商品(デリバティブ)の開発とトレーディング、各種のリスク管理、最新の通信技術を駆使した電子取引、等において顕著である。
■ 一方で投資家保護と自己責任原則は徹底しており、規制や会計規則など制度の透明性の高い市場となっている。以上二つの特徴から、米国の金融部門は多くの分野においてグローバルスタンダードとみなされている。
■ 米国企業によって発行される株式の種類はさまざまである。たとえば普通株でも、議決権の内容が異なる場合があり、優先株でも配当の累積性、所定額の超過分配当の受け取り、償還の有無などにより区分されている。株式の純発行額は、金利や株価動向などの一般的経済・金融動向のほかに、M&Aや自社株買いといった要因にも影響を受けて増減しているという。
■ 米国の株式流通企業の特徴は、証券取引所と店頭市場が全米市場システムで連結されていることと、上場、登録される企業の規模によって重層的な構成を持っていることである。米国の証券取引所は、1934年証券取引法に基づいてSECに登録され、国法証券取引所と呼ばれる八つの取引所(ニューヨーク(NYSE)、アメリカン、ボストン、CBOE、シカゴ、フィラデルフィア、シンシナティ、パシフィック)がある。
米国の主な株式市場の概要 (単位:百万ドル)
| |
上場・登録企業数 |
時価総額 |
| NYSE |
2,800 |
15,300,000 |
| ナスダック |
3,765 |
17,166,000 |
■ 店頭市場ではナスダックが最大規模である。ナスダックは登録基準が緩やかなため、新興成長企業の新規登録が多い。一方で登録廃止も多く、そのダイナミズムは高く評価され、登録企業数ではナスダックはNYSEを凌駕しているという。株式市況の主な指標としては、NYSE上場株式の中から選ばれた30銘柄で構成されるダウ・ジョーンズ工業株30種平均、同じくNYSE上場銘柄500種を対象としたS&P500指数があげられる。
※ 店頭市場・・・取引所の売買市場以外の市場。上場されていない株式・債券が相対(あいたい)売買によって,証券会社の店頭で取引される。OTC。〔日本における株式店頭市場(2001 年一般呼称を JASDAQ 市場に変更)をさす場合が多い〕
■ 最近では、投資アドバイスや調査などを行わずに低額の手数料で証券の売買を仲介する、チャールズ・シュワブ社に代表されるディスカウントブローカーの台頭が見られ、取引もインターネットを利用するものなどがシェアを伸ばしている。
§2 英国の資本市場と株式投資
■ 英国の金融・資本市場は、バークレイズバンクをはじめとする4大クリアリングバンクが中核となっている国内ポンド建市場と、ロンドンのシティに集結した多数の外国系銀行、証券会社等が活躍するポンド以外の通貨建てのユーロ市場に大別される。ポンド建市場を見ると、※1ホールセール部門においては4大クリアリングバンクが圧倒的な強みを発揮しており、一方、※2リテール部門においては4大クリアバンクと中小の銀行ならびに住宅金融組合が競争を繰り広げている。また1997年初頭からは、大手の流通業者が個人客に狙いを絞り、相次いで銀行業務に参入するなど、新たな展開が見られる。
| ※1・・・ |
小売店だけでなく一般消費者も対象とする会員制のディスカウント-ショップ。小売業とみなされ,大店法の規制をうける。 |
| ※2・・・ |
(個人向けの)小口取引。小売り。小売店。 |
■ オイルマネーの流入により発展したユーロ市場の中心地であるシティは、およそ1マイル四方の金融街であり、そこに集結している銀行・証券会社は、そのほとんどが外国系金融機関である。ユーロ市場においては英国系よりも米国系、スイス系、ドイツ系金融機関の活躍が目立っているし、日系金融機関は70年代から80年代にかけて大躍進した。
■ 英国の金融資本市場は79年以降の一連の金融制度改革によって、外為規制撤廃や証券流通市場におけるビッグバン等の規制緩和が行われた。その結果、市場参加者にとって使い勝手のよい市場の整備、つまり低コストで多種類の取引が可能な市場が形成され、国際金融センターとしての地位を確固たるものとしているわけである。
■ その中で、株式市場はビッグバン以降ほぼ順調に拡大してきたが、特に外国株式取引の拡大は著しく、ついに1993年には外国株式取引高を上回るに至っている。ロンドン証券取引所には96年に世界最多の外国株式が上場されていたのも事実である。外国株式の取引規模は国内株の規模を大きく上回っており、一取引あたりの取引平均規模は国内株が6万6000ポンドであるのに対し、外国株は29万7000ポンドとなっている。
■ この売上高のうちSEAQインターナショナルによる取引所非上場の株式の取引が8割以上を占める。SEAQインターナショナルとは、海外の主要証券取引所の代表的な銘柄を、スクリーンを使った情報システムを媒体に、電話で相対取引させるシステムであり、SEAQと同様に決済機能等は有しない。この市場では、ロンドン証券取引所への上場の有無にかかわらず、気配を提示するマーケットメーカーが存在すれば取引が可能となるというわけだ。ロンドン証券取引所における外国株取引の状況を見てみると、フランス株は本国市場の2分の1が、日本株は本国市場の5分の1が取引されており、外国株の取引がイギリスでは活発に行われていることがよくわかるだろう。
§3 ドイツの資本市場と株式投資
■ ドイツでは典型的な銀行・証券併営のユニバーサルバンク制度がとられている。比較的規模の小さい貯蓄銀行、信用協同組合の淘汰、再編が主因で金融機関の数は減少を続けており、通貨統合前後には規模の大きい合併も見ることができた。外国金融機関は貸し出しなどの伝統的業務では競争条件が厳しく参入が困難となっているが、投資銀行的業務で強い影響力をもっている。一方、保険業界では、銀行との販売提携が積極的に行われている。
■ 短期金融市場は、歴史的にユニバーサルバンキング制度のもとで、長短金融の両面において企業の銀行依存が大きかったことなどに加え、ドイツ連邦銀行が金融市場へのコントロールの維持を重視し、オープン市場に調達に慎重であったため、規模の上では米英と比べると小さいといえるだろう。
■ 一方、債券市場では、事業法人の起債は少ないものの、公共債、金融債に代表される国内債の発行残高が大きく、厚みのある市場となっている。反対に株式市場は、投資家が株式保有リスクを嫌うこと、企業が株式の公開を好まないことなど需給両面の理由によって、ドイツの経済規模に比べて小規模なものにとどまっている。こうしたことから、ドイツの金融は伝統的に間接金融中心の構造となっている。
■ しかし、ドイツは1985年頃から金融資本市場の改革に着手している。当初、債券市場の整備に始まり、現在では株式市場の活性化が改革の中心となっている。また特に90年代に入ってからは「金融立地としてのドイツ」という標語のもと、資本市場の国際的地位を高めるべく、官民一体となって改革に取り組んでいる。こうした改革の背景には、高齢化の進展に伴って、疲弊している公的年金問題などを解決する必要があること、通貨統合が引き起こす欧州の金融市場間の競争激化に対する危機感が存在する。
■ 1996年末のドイツの株式時価総額は1兆341億マルクであり、世界の主要市場のかなでは米国、日本、英国についで第四位である。しかしながら、株式時価総額を対GDP比で見た場合、欧米が100%を超えているのに対して、ドイツはわずか30%弱であり、株式市場は相対的に規模が小さい。これは先述したとおり、個人が株式市場リスクを嫌う一方で、銀行が大企業の株式の多くを保有し、企業も株式の公開を好まないことなど、需給両面の理由による。
■ ドイツの株式会社数は、推定45万社の有限会社に対して約3900社とわずかであり、上場国内企業数も933社(99年)に留まっている。株式の保有状況は、企業と金融機関による保有が約72%を占め、個人による保有は約15%と英米の半分程度に留まっている。また、家計の金融資産に占める株式・出資金の比率は99年末で約16.8%で、これは96年秋のドイツ・テレコムの上場が契機となっていて、個人投資家の株式投資への関心は高まっているとも言えるだろう。

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