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● ネットワークを考える

第3章 ネットワーク思考

by飯田 耕平

§1 企業組織の変化にみるネットワークの重要性

■ 20世紀の企業は、どの企業も組織構造に共通の特徴を持っていた。それはツリー構造と呼ばれる組織形態である。ツリー構造では、CEOを根としてスタートし、枝分かれした先端の方へ向かうにつれ、より専門性の高い、低レベルの管理職や労働者を表していく。根から離れるほど、その責任も小さくなり、最終的には発せられた命令をただ黙々とこなすだけの労働者に行き着く。

■ このような構造は、これまでの大量生産、大量消費が主流の経済においてはまさに最適であった。しかしモノを作れば売れる時代、やみくもに拡大再生産を繰り返す産業資本主義の経済は終わりを迎えようとしている。これからは、自らも絶えず変化をしながら差異性を追求するポスト産業資本主義の時代である。

■ 従来のツリー構造組織では、近年に見られる急速なビジネス環境の変化に適応できない。それは柔軟性がないからである。組織化が行き着いた先は、すべてが緊密に一体化された関係であった。そのため微調整・融通が利かない組織となり、かつてないほど柔軟性が求められる情報経済には不向きというわけだ。そこでいま企業は新しい組織モデルを作り直す必要に迫られている。

  柔軟性 情報経済への適合性
ツリー構造 × ×
ネットワーク構造

■ それでは、脱工業化時代の、ポスト産業資本主義の経済ではどのような企業モデルが相応しいのであろうか。その一つの答えが、ツリー組織からネットワーク組織への移行である。物理的資産から情報資産へと価値がシフトしていくにつれ、行うべきことも垂直方向に組織を一体化することからバーチャルな組織の一体化へと変化している。ビジネス戦略もトップダウン式からボトムアップ式に変化してきている。

■ そればかりか、これからはますます社の内外を問わず新しい連携を組む必要が生じ、そのための新しいトポロジーが求められている。組織の内外から集めたプロジェクト・チームやアウトソーシングも、もっともっと盛んに行われるであろう。急速に変化する市場で生き残ろうとする企業は、静的で最適化の進んだツリー構造から、動的で進化するネットワーク構造へと組織を変革し、より柔軟な指令系統を作らなければならない。

■ このような企業内ネットワークの作り替えは、経済をネットワーク的に見るということから引き出される結論の一つである。急変する市場に対応できるかどうかは企業内のネットワーク構造で決まる。バイオテクノロジー産業では、企業が成功できるかどうかは協力関係のネットワークで決まる。マーケティングの成否も、パワーユーザーや社会的絆など消費者層のネットワークとしての性質を活用できるかどうかにかかっている。つまりネットワークの様々な効果をきちんと理解する事が、急速に進化発展する経済のなかで生き残るための鍵となるのである。

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§2 ウイルス・マーケティング

■ ここでネットワーク思考によるマーケティング技術で大成功を収めた一例を紹介しよう。現在、世界中の電子メール・アカウントの約4分の1を占めるHotmail。資金の乏しい二人のインド人が始めたこのサービスは、結局マイクロソフトと4億ドルで契約するまでに至った。なぜこの企業がこれほどまでの登録者を獲得し、成功をおさめたのでろうか。

■ その答えはウイルス・マーケティングという最新の手法を採用したことにある。この手法は、世界を震撼させたコンピュータウイルス、ラブ・バグが数時間のうちに地球を一周できたのと同様の原理を使用する。そしてネットワークの力を最大限に活用するのだ。

■ Hotmail を使用すると必ずメールの最終行にHotmail の宣伝が入る。つまりHotmailのユーザーは友人に電子メールを送るたびにHotmailを宣伝する形になるのである。その上Hotmailは無料で、登録手続きも簡単だ。これら3つの特徴により、感染率の極めて高い、拡散メカニズム内蔵のサービスが誕生したわけだ。また消費者ネットワークのハブ的存在であるパワーユーザーに受け入れられたことも大きい。こうしてHotmailはネットワークの特性を巧みに利用し、少ない投資で電子メールの世界を席巻したのである。

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§3 真のネットワーク構築を目指す

■ 企業内ネットワークもただ構築するだけではいけない。昔から「社内の風通しを良くする」ということはよく言われてきた。これはお互い自由に意見の交換・交流があり、従業員が創造的な働きをしている状態を目指すことである。リコール問題が続いた三菱自動車の再建策にも、社内LANを用いて、すべての社員が社長に直接意見をいえる環境を設けるという案が採用されている。企業内組織を見直し、社内の体質改善を目指す動きといえるだろう。

■ ただ一口にネットワークといっても、そのルートには向きがあるということを注意しなければならない。AとBとCがあり情報の伝達がA→B→Cという場合はすぐに流れるとしても、反対のルートつまりCからも同様にC→B→Aといくのが望ましいネットワークである。しかし現実的にはCからAに情報の伝達を行おうとすると、C→D→B→E→Aと多段階を踏むことになってしまう。社長→課長→平社員のラインは比較的早くても、逆では意見が通りにくいということだ。こういった例は現実を想定すればいくらでも思い浮かぶであろう。

■ このようなネットワークは、変化に対する柔軟性に欠け、スピードが勝負のビジネスの世界ではあまりにも遅すぎる。よってただネットワークを構築するだけでは足らず、その向きや質までもしっかりと考慮しなければならないといえるだろう。そう考えると、三菱自動車の試みはネットワークの質を向上させるという点で、単純ではあるが非常に有効な手段ではないであろうか。

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§4 経済をネットワークで捉えなおす

■ メガバンクの誕生など、最近では大規模な合併や提携による再編が相次いでいるがこれもネットワークの視点から説明がつく。前章で述べたように、ベキ法則によりハブの存在が証明されたわけであるが、ネットワーク自体が大きくなれば同様にハブも大きくならざるをえない。現在のようにグローバル化によって経済規模自体が肥大していくにつれ、ハブもハブとして存在するためには巨大化しなければならないのだ。これがネットワークの視点からみた大型合併が行われる理由である。

■ このように経済は企業同士の関係で成り立っており説明もできる。ところが驚いたことに経済理論はこれまでネットワークをほとんど考えてこなかった。経済学の標準モデルでは、自動的かつ匿名的な個人の集団が、価格システムのみを介して相互作用するものとしてきた。このモデルでは、個々の会社や消費者の行動は、市場にはほとんど影響しないものと仮定されている。むしろ経済状況は、雇用、生産高、インフレーションといった総量で捉えるのが適切とされ、これら総量を生み出しているミクロ的な活動の絡み合いは無視されてきたわけだ。

■ しかし現実には市場は向き付けされたネットワークに他ならない。会社、企業、財団、政府など経済活動を行いうるものがノードであり、これらをつなぐ購買、販売、共同研究、マーケティング・プロジェクトなどさまざまな経済活動がリンクである。これらのネットワークがあらゆるマクロな経済プロセスの帰趨を決定しているのである。やはりネットワークは経済においても重要な概念であろう。

■ 現在の経済システムはネットワークが張り巡らされたものであり、連結性と相互依存性からなっている。そのため他の複雑性ネットワークと同様に、故障に耐えうる強い頑健性と、攻撃にはめっぽう弱い脆弱性を併せ持っている。このネットワークに対する新しい経済観を持ち、連結性の影響を理解しなければならない。

■ ネットワーク思考というものはまだまだ発展途上の研究分野であり、完成されたものではない。しかしこれからの多様性・複雑性の時代において最も重要な概念であることは疑いない。事実、ネットワーク思考を武器に成功をおさめた例は紹介した。そういう意味でも、逆に完成されていないというところはチャンスと見るべきであろう。効果があることがわかっているこの分野をどう利用すべきか。その可能性は無限に拡がっている。

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