|
■ 資本主義社会の中では日々熾烈な競争が繰り広げられている。もちろんその競争の中では勝つ者もいれば負ける者もいる。残酷なようだが、すべての人が平等にその競争に参加する機会を与えられている以上、ある意味では仕方のないことなのかもしれない。
■しかし、現実世界ではその過酷な競争に勝ち続けるものが存在する。経済社会でいうところの独占企業や寡占企業、あるいは多方面に展開し高収益を生み出し続ける企業などである。
■それでは彼らはいかにして競争に勝ち抜いていくのであろうか。確かに他社に真似の出来ない技術力や商品開発能力などが大きく影響していることは間違いない。しかしそれだけではないはずだ。単に優れた商品を持っているというだけでは、市場を席巻することはできないのは事実だからである。以上の理由から、この章では競争社会における勝敗の着き方を、ネットワークの視点で考えてみたい。
§1 ネットワークの基本的構造
■ワールド・ワイド・ウェブはベキ法則に従うということは前章で述べた。それではいかにしてネットワークには二種類のノード(=頂点)が誕生するのだろうか。すなわち「少数のリンクを持つノード」と、「大半のリンクを持つノード(=ハブ)」がどのように誕生し、そしてなぜそのような格差が生まれるのかということである。以下ではその発生メカニズムを見ていこう。
§1−1 成長性
■ワールド・ワイド・ウェブが拡大し続けていることは経験的に理解できるだろう。現時点でも相当な量のドキュメントが存在するが、世界中の誰かが日々ドキュメントをウェブに公開する作業が続く限り、ネットワークはその成長をやめない。これは地球上のすべての情報がオンラインに載れば終息するかもしれないが、今のところその増加傾向は緩みそうもない。
■しかし考えてみれば現在非常に多くのドキュメントを抱えるウェブも、最初は一つのドキュメントからスタートしたはずである。そしてそこから一つ一つ地道にドキュメント(=ノード)を獲得していくうちに、いまの姿にまで成長してきたのだ。
■この「当初は一つのノードから始まった」という考えは、すべてのネットワークで当てはまりそうだ。事実、現実のネットワークは実に多様であるが、そのほとんどが本質的に同じ特徴を持っている。それは「ネットワークは成長する」というものである。
■この成長という要素をネットワークに加える事により、ノード間にリンク数の格差が生じるということの説明がつく。なぜなら古くから存在するノードの方が、より他のノードからリンクされやすくなるからだ。反対に新参者のノードは他のノードからリンクしてもらう時間が相対的に少ない。このように「成長」という要素は古参のノードに対して明らかに有利に働く。簡単にいえば「早い者勝ち」の論理であり、そのため古いノードほどハブになる可能性が高いことがわかる。
§1−2 非ランダム性
■次に我々がインターネットを利用する時のことを考えてみよう。例えばヤフージャパンで「ニュース」と検索したら、登録サイトだけで6961件ヒットした。このとき我々は果たしてその膨大な量のサイトを、一つ一つ等しい確率で平等に閲覧しているであろうか。答えはノーだ。たいていの人は大手ニュースサイトの名前を知っているから、とくに悩む事もなくそのうちの一つにリンクするだろう。
■このように我々がウェブ上のどのサイトとリンクするかを選ぶ際、それが例え無意識的にせよ「優先的選択」を行っていることがわかる。つまり2つのページのどちらかを選ぶのであれば、知名度が高く人気のある方を選ぶことが多くなる。つまり現実のネットワークには、「すべてのサイトがリンクを獲得する可能性は平等だ」という民主的なルールは存在しないのである。リンクを呼び込む力は、人気や知名度に影響される。したがって我々はこの法則に操られるようにして、すでに多くのリンクを獲得しているノードに高い確率でリンクするというわけだ。
■以上から「成長」と「優先的選択」というネットワークの基本的構造により、ハブが誕生することがわかった。これがノード間に格差を生じさせ、ハブとそれ以外の平凡なノードとを分けているのだ。これらは現実のネットワークを理解するのに、最も有効で簡単な基本事項であり、実際この二つの組織原理だけで、自然界に見られるネットワークの性質は基本的に説明できてしまうのである。
§2 後発の挑戦者が勝つには
■§1の論理でいくと後発の参入者は圧倒的に不利であり、ネットワークのリンク獲得競争では勝てないという結論に達してしまう。一体この考え方はそのまま現実世界に当てはめることが出来るのだろうか。また本当に新参者が勝つことは不可能なのであろうか。
■インターネットの新鋭グーグルは1997年に登場して以来、わずか3年で一躍トップグループの仲間入りをした。この例はこれまで述べてきた法則に当てはまらない。それではなぜグーグルは勝てたのか。
■優先的選択を行うというネットワークの基本的構造を考えてみよう。果たして我々がウェブを選択する際に吟味する点は何なのか。知名度、人気、評判、興味、話題性‥こういった様々な諸要素を総合的に考慮しながら選んでいるはずだ。ここでそのサイトが人を呼び込む力を「適応度」と呼ぶことにする。適応度の高いものが優先的選択の際に選ばれやすくなるというわけだ。グーグルはその適応度が極めて高かったのである。
■こうしてみるとネットワークの世界では適応度を高めることに成功したものが勝利者となることがわかる。故にグーグルのように後発参入者であっても、適応度が高く人々に選ばれるサイトであるならば、ハブになることが可能なのである。それでは適応度を高めるためにはどうしたらよいのだろう。第一に考えられるのはやはり広告・宣伝活動である。
■P&Gの日本戦略には「HOKKAIDOモデル」と呼ばれるマーケティング方法がある。これはファブリーズという製品の良さを口コミで広げようという狙いで、例えば洗車場や地区のスポーツ大会などにP&Gのデモンストレーション女性陣を送り込み、製品を消費者と同じ視点で使用し宣伝するというものだ。この「HOKKAIDOモデル」によりファブリーズは約60%も売上げを伸ばした。
■今年の早稲田大学のオープンキャンパスでは、ポカリスエットを無料で配布するというキャンペーンが行われた。不案内な土地で自販機の場所も分からず猛暑に悩まされていた来訪者は、まるでオアシスを見つけたかの様に我先にとポカリスエットに群がった。おかげで一時キャンパス内は、ほとんどの人がポカリスエットを手にしているという光景となった。それにしても、地方からキャンパスライフへの夢を抱いて出てきた若者が、憧れのその場所で初めて飲んだ物という宣伝効果は計り知れないものであっただろう。
■以上二つの例を挙げたが、このような戦略は人的ネットワークを利用したマーケティング戦略だと考えられる。人的ネットワークによる口コミ効果は抜群の信頼性を生み出し、インタラクティブな広報活動として成功する。一方通行の情報提供の限界性が指摘されて久しいが、今後はこのような宣伝活動は増加していくものと考えられる。幸いなことにインターネットや携帯電話の普及により、個人の情報の伝達スピードは飛躍的に高まっている。直接働きかけるリアルな宣伝活動の効果に明らかな追い風となるだろう。
■当然のことながら、これ以外にも適応度を上げる方法はいくらでも存在する。またその重要性は以前から意識されていたことも事実である。しかしそれがネットワークからの視点というものではなかったこともまた事実であろう。これからの多様性・複雑性の時代ではネットワーク思考は益々なくてはならないものとなっていく。よって次章ではそのネットワーク思考の重要性と必要性をより深く考えていきたい。
|