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§0 はじめに■ これからの社会システムの構築を考える上で、新しい基軸エネルギーの導入は最重要課題である。今日の経済は石油経済であるが、21世紀のエネルギー源として石油は二酸化炭素の排出量が多すぎる。地球を取り巻く環境は現在以上のペースで二酸化炭素を排出することに耐え切れないレベルにまで悪化している。これほど温暖化や地球の有限性が意識されている中で、基軸エネルギーを二酸化炭素の排出量の少ない天然ガスや、二酸化炭素を全く排出しない太陽光やバイオマスといった再生可能エネルギーへとシフトすることは至上命題である。 ■ また、これまで世界経済の覇権が経済を動かす基軸エネルギーの推移とともに移り変わってきたことは歴史が証明している。19世紀のイギリスは蒸気機関の発明と石炭の利用で第一次産業革命を成し遂げ、「石炭経済」で世界に君臨した。20世紀に入ると今度はアメリカが石油を基軸エネルギーとする社会を構築、すなわち「石油経済」の誕生により世界経済の覇権はアメリカへと移った。そして21世紀、燃料電池という新しいエネルギー変換技術の実用化が現実味を帯びてきた今、『水素経済』の時代がやってこようとしている。次はどの国が世界に覇権を唱えるのか、いま世界経済の勢力図が大きく塗り替わるかもしれない時なのだ。 ■ このように環境対策の面からも経済における国際競争の面からも、石炭、石油に続く第3のエネルギー源である水素の時代の到来が望まれている。悪化する地球環境を救う意味でも、低迷する日本経済を救う意味でも第三のエネルギー社会の構築はそれこそ一国を挙げての緊急課題である。 ■以上のことを踏まえながら、本章では来るべき第三のエネルギー社会の構築を石油経済の限界に触れながら考えていきたい。そして燃料電池という環境にまったく無害な新エネルギー変換技術を紹介し、再生可能エネルギーと連携した究極の水素経済実現の可能性に迫っていく。
§1 石油経済の限界1−1 内燃機関と燃料電池 ■ 1973年の第一次石油危機から過去数十年に亘り、我々は「石油資源の寿命はあと40 年」と言われ続けてきた。しかし21世紀に入った現在では、革新技術の普及や新しい油田の発見により従来型の見方は大幅に上方修正されている。石油資源の寿命はむしろ延びる傾向にあるのだ。2002 年後半から、国際エネルギー機関(IEA)、米国エネルギー省、欧州委員会が相次いで発表した長期エネルギー需給見通しによると、2030 年になっても石油は石炭や天然ガスとともにエネルギー供給の主流であるという。その意味では石油資源の枯渇という問題はさほど鬼気迫るものでもないのかもしれない。 ■ ところで我々はその石油資源をどの程度の効率で使っているのであろうか。G・ダイムラーにより発明され、現在広く使用されているガソリンエンジンは、これまで過去120年に亘り改良を加えられてきた。しかしそれにもかかわらず我々が自動車用原動機として使う場合、その熱効率は最良の条件で運転しても40%弱、市街地を走行するときなどは10%程度である。このようにエンジンという我々に最も身近なエネルギー変換技術の効率は実は非常に低いのである。これではいくら化石燃料の寿命が延びたといっても、もったいないと言わざるを得ない。 ■ それではエンジンは今後どの程度熱効率を改善する余地を見込めるのであろうか。エンジンの回転数をさらに上げ、より多くの出力を得るようにする事は可能である。しかし熱効率の改善の余地はあまり多く残されていない。なぜなら効率を高める一つの方法が圧縮比を高めることであるが、空気を酸化剤として使う限り、どうしても窒素酸化物の生成が多くなり、これが燃焼で得た熱を奪ってしまうからだ。つまりエンジンはその構造上、それほど熱効率が見込めないという欠点を有しているのだ。 ■ 一方、燃料電池の熱効率はどうであろうか。結論から言って燃料電池は熱効率が良い。特に自動車として普段使う領域の熱効率では圧倒的にエンジンより優れている。およそ自動車として走る場合、「水素+燃料電池」の組み合わせの方が「ガソリン+エンジン」の組み合わせよりも約三倍も効率が良くなる計算だ。
1−2 自動車排出ガス問題 ■ 自動車の排出ガスについても考えていこう。日本政府はディーゼルエンジンから排出される窒素化合物NOxと浮遊粒子状物質PMに対し、2005年度からの欧米並みの規制強化を決定した。しかし過去のディーゼル車排出ガス規制強化が、ほとんどNOx、PMの大気汚染改善に寄与しなかったことから、今回の新規制もどれほどの効果が期待できるのかは疑問である。なにしろこういった規制法には例によって抜け道がたくさん用意されている。企業側にもオネストエンジニアリングが要求されるだろう。 ■ いま排出ガス対策は世界的に取り組まれてはいるが、究極的に人体や地球環境に無害なエンジンの開発は不可能である。というのもエンジンはそもそもその性能上有害物質を出すものであり、今後いくら技術革新で環境対策されようが、本質的にクリーンなエネルギーではないのである。そのため環境問題を引き起こす要因になってしまうのはある程度避けられない。そこで新たに本質的にクリーンなエネルギー変換技術を開発する必要性が生じてくるのである。その第一候補は言うまでもなく燃料電池である。なぜなら燃料電池は燃料として石油を使ってもほとんどNOx、PMを排出しないクリーンエネルギーであるからだ。
1−3 再生可能エネルギー社会へ ■ 地球はこれ以上のエネルギー消費量増加には耐えられないというレベルにまで悪化してしまっている。なにしろ我々は人類が誕生してから19世紀までに消費したエネルギーの累計と同じ量を、20世紀のたった100年間で消費してしまったのだ。やはり21世紀は環境に大きく配慮しなければならない時代である。そこで我々は環境的に無害な、消費しても自然の営みにより元にもどる、いわゆる再生可能なエネルギーによる社会を構築する必要に迫られている。 ■ それでは再生可能なエネルギーとはどのようなものであろうか。下表は代表的な再生可能エネルギーを利用して発電した場合の発電可能量を示している。これを見ると太陽エネルギーが圧倒的に大きな数値になっていることがわかる。そのエネルギー量の大きさは、仮に全世界を7%の発電効率の太陽光発電装置で覆ったとすれば、全世界の年間エネルギー消費量の約160倍ものエネルギーを得る事ができる程である。
(「太陽・風力・バイオマスエネルギーの導入条件調査」 http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/foreigninfo/html002/002-3-1.pdfを参考) ■ しかしそんな太陽光発電にも欠点はある。発電コストが高いのだ。しかし世界一の太陽電池の生産量を誇る我が国や、それに猛追をかけるアメリカなどの開発努力によりそのコストは近年急速に下がっている。特にアメリカでは国を挙げてプロジェクトを進めるほどの力の入れようだ。やはり政府の支援、企業努力、消費者の環境意識の高まりといった要素の集合が、再生可能エネルギーだけでエネルギー自立するという目標を実現するには不可欠である。 ■ 他にもコスト問題を解決しようと努力し、その成果が如実に表れているものに風力発電などがある。また最近ではバイオマスエネルギーも注目されている。これは植物などの生物体(バイオマス)によって蓄えられた有機物をエネルギーとして利用するものである(下図)。スウェーデンの様にすでにバイオマスで一次エネルギーの20%近くをカバーしている国もある。
(四国経済産業局 http://www.shikoku.meti.go.jp/より引用) ■ しかし風力発電、太陽光発電はいずれも天候に大きく左右されてしまうため安定供給が難しい。加えてエネルギー密度も小さい。実はこれらが再生可能エネルギーの最大のウィークポイントなのである。つまり、これらの再生可能エネルギーを有効に使うためには、一度このエネルギーを貯え、必要な時に高い効率で電気エネルギーに変換するという技術が要求されるのだ。 ■ 電気は蓄電池により貯えることは可能であるが、それほど多くの量を貯えることはできない。そこで水素にして貯えておくのである。従来はこの貯えた水素を、熱効率の低いエンジンで発電するしかなかったが、ここで熱効率の高い燃料電池を利用することができればその過程におけるロスのエネルギーが大幅に小さくなる。しかも再生可能エネルギーで水を電気分解し、そこで得た水素を使って燃料電池で発電するため、クリーンな水のみが排出されるシステムも構築できる。このように燃料電池の出現で再生可能エネルギーのウィークポイントは大きく補われ、また地球に優しい究極の発電装置の実現も現実味を帯びてくるのだ。
1−4 まとめ ■ 以上、エンジンの熱効率の限界、ひいては石油資源の利用効率の悪さ、地球温暖化に最も影響を及ぼす自動車の排気ガス対策、そして再生可能エネルギー社会構築における問題と順に見てきたが、燃料電池の存在はこれらすべての問題点を悉く解決に導いてしまうのである。 ■ また燃料電池は水素を燃料にした高効率な発電装置だが、この水素は化石燃料からも取り出すことができる。つまり21世紀半ばには到来すると考えられている水素の時代へ、段階を踏みながら漸進的に移行することが可能なのだ。その意味でも燃料電池こそ石油経済から水素経済への推進役を担える技術なのである。
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