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§0 はじめに
■ 遺伝子組み替えやDNA、クローン人間、ヒトゲノム(人の全遺伝子情報)など、バイオテクノロジーにおける認識がここ10年間で急激に高まってきたのは事実である。以前よりバイオの研究は行われていたが、世界中の人々の注目を一気に集めたという意味で口火を切ったのは、1997年にイギリスのスコットランドのロスリン研究所で、クローン羊のドリーが作られたことであろう。まさに、映画の世界であったはずの技術が現実になった第一歩であった。 ■ 世界各国でバイオについての対策が早急に求められたことは、記憶に新しい。しかし、現在クローン技術の是非は様々なところで問題となっているが、遺伝子組み替えを用いた作物やその他のバイオ技術は着々と現実の世界に進出してきていることは確かである。現在、人類が生存しているこの地球の生態系は、限界に達しようとしている。このままでは人類は近い将来滅亡するということは、嫌というほど耳にしている。本章ではバイオについて深く理解することで、その技術で人類が解決しなければならない問題について、以下の文献を参考に検討していこうと思う。
§1 問題解決型ビジネス■ 人類存亡の問題は、環境、エネルギー、食料、医療の四つに大きく分けられる。これらの問題を解決していくにはまずそれらの問題を明確化し、解決するために科学技術を応用したビジネスを立ち上げなければならない。もちろんNGO活動も活発化するが、問題解決をビジネス化することによって、人類の福祉と健康に貢献する仕事に携わる人は二点の特典を得られる。まず、達成感や満足感を得られること、そして経済的なメリットという二つがある。 ■ そもそもビジネスとは、地域社会の人々のニーズに応え、彼らの暮らしを向上させる経済活動である。この活動を効率よく実行する企業は、地域社会から信頼され、成長し、利益をあげ、そこに働く従業員に好ましいサラリーを支払ってきた。これはビジネスの基本であり、時代が変わっても不動である。 ■ だが、21世紀のビジネスは次の3点でこれまでのものとはずいぶん異なる。第一点目は、情報産業(IT)と物流が高度に発達してきた事である。これによってこれまで地域社会に限定されていたニーズが、一気に地球レベルに拡大した。第二点目はこれまでは地域レベルでの狭い範囲内で環境に配慮していれば良かったが、これからは地球レベルの環境も配慮しなければならなくなったということである。第三点目は、パテント化が進行する事である。優れたパテント(特許)の有無がビジネスでの勝負を決定する最も大きな鍵となるのである。つまり、すぐれた特許を所有する個人または企業は、21世紀のビジネスを圧倒的に有利に展開する事になるというわけである。 ■ その21世紀ビジネスとして注目されているのがゲノムビジネスである。しかし二十数年前、バイオベンチャーのロバート・スワンソンが遺伝子がビジネスにつながることを考えるまで、単なる生物研究の一端に過ぎなかった。彼は1976年に組み換えDNA技術を基礎にした世界で最初のバイオファームジュネンテック社を設立した。現在、アメリカだけでバイオファームは約1500社(日本はその10分の1)もあり、総売上高は1500億ドルに達するという。 ■ 日本国内最大手の製薬企業武田薬品もゲノム研究に本格的に身を乗り出した。武田薬品はこれまでに数多くの治療薬を世界に販売してきた実績があり、研究・開発力は海外でも高く評価されている。また、日立製作所や富士通などの大手電機メーカーもハイテクを利用し、ヒトゲノム解析ビジネスに進出している。両社ともゲノム情報を保存・解析するためのコンピュータ、遺伝子解析用ソフトウェアなどを販売する。米国企業と比べて相当遅れてではあるが、このように国内でもようやくゲノムビジネスが浸透しつつある。
§2 環境問題■ まず、地球温暖化への対策は、放出される二酸化炭素を省エネによって減少させることであり、急を要する。また、砂漠化への対策は無理をしない持続可能な農業の実施であり、より積極的には、組み換えDNA技術(ある生物の遺伝子を切り取ってきて、別の生物に入れる技術のことで、バイオ技術とも呼ばれる)を利用して砂漠を緑化することである。 ■ オゾンホールへの対策は、オゾン層を分解するフロンガスの使用禁止と代替ガスの開発が必要であろう。ゴミ問題への対策は、リサイクル運動の実施と、捨てた後に土壌で分解するバイオプラスチック、すなわち組み換えDNAを利用した「生分解性プラスチック」の開発である。環境問題への対策は、これまでに培った技術力を環境マネジメントに生かすこと、そして組み換えDNA技術をフルに活用することが鍵である。
§3 エネルギー■ 我々は日頃の生活において、石油というエネルギーを二つの役割に分けて使っている。一つはプラスチックや、衣類などの素材として。もう一つは電気を起こしたり、温かい空気を送ったりと燃料として用いている。これほどまで我々の生活に必要不可欠な石油もその埋蔵量には限界がある。したがって枯渇する前に、石油に代わる素材と燃料を製造する方法を開発しなければならないのである。 ■ 石油のもう一つの問題点は、エネルギーを獲得するために燃焼させ、二酸化炭素を放出している点である。言うまでもなく、二酸化炭素は地球温暖化の元凶である。しかし石油の燃焼をやめて原子力発電に頼るのは、地震大国日本にとってさらに危険な選択である。そこで石油に代わる新たなエネルギー源を開発しなければならない。風力発電やソーラー発電も有力であるが、やはり一番は生物資源を組み換えDNA技術によって燃料(バイオ燃料)や素材(バイオ素材)に変換することである。 ■ バイオ燃材にはメタンガスや水素ガス、メタノールなどがあり、バイオ素材はエタノール、グルコース、ピルビン酸などである。エネルギー問題への対策として、組み換えDNA技術の優れた点は、生物資源はほとんど無尽蔵に存在するから、枯渇の心配がないことである。また、原子力よりも人為的にコントロールしやすい点も大きな魅力である。
§4 食糧問題■ 地球の現在の人口は約60億人であるが、2010年には70億人、2030年には90億人に達する見込みである。世界の多くの国々はいま飢えに苦しんでいる。1996年にローマで開かれた食料サミットでは、毎日一万人の子供達が飢えによって亡くなっていることが報告された。食糧危機は人類にとって将来、発生するかもしれないといった未来の不確かな問題ではない。今人類が現実に直面している危機である。 ■ 食糧問題を解決するには、まず人口を抑制しながら、食糧を大幅に増産するよりほかに道はない。それには作物の品種を改良することによって、農業の生産性を格段に高めなければならない。農作物の品種を害虫に食われない、病気に負けない、除草剤の影響を受けない品種に改良しなければならないのである。農業の生産性を高めるための品種改良は、人類が農業をはじめた一万年以上前から試行錯誤されてきたが、伝統的な方法による品種改良はスピードが遅い。 ■ そこでスピードの早い品種改良を可能にしたのが組み換えDNA技術である。この技術を有効に使うことで、望む形質を発揮させる遺伝子を植物にすばやく導入できるので、品種改良を正確に高い効率で実行できるのである。このようにして作成された作物のことをバイオ作物と呼んでいる。バイオ作物は「種の壁」を超えていると言われるため、敬遠されがちであるが、そもそも「種」という概念は、交配するために、生物を人間がグループ分けするのに便利だから作ったものである。すべての生物は遺伝子を利用して生きていて、単にこれを生物から生物に移植するだけである。しかし、どんな遺伝子でも生物に入れることができるので、どんな事故が発生するかわからないというのも事実である。
§5 医療■ ここ数十年間で、先進国では肺炎や結核などの感染症による死者数が激減した。喜んでいたのも束の間のことで、その代わりに心臓マヒ、脳溢血、高コレステロール血症、がん、糖尿病などの生活習慣病に苦しむ人が急増している。すなわち、感染症をほぼ克服した先進国は、生活習慣病に苦しんでいるのだ。 ■ 生活習慣病が発生するかどうかは、その名の示す通り、生活習慣に密接に関わっている。だが、それだけが理由で発症するのではなく、程度の差こそあるが必ず遺伝子が関わっている。数年以内に人の持つすべての遺伝子のシークエンス(塩基配列)やその働きが明らかになると言われている。そうなればある特定の人の遺伝子を調べる(遺伝子診断)ことで、その人がかかりやすい病気を予測することができるというわけである。 ■ また、個人と個人の間で一個の塩基だけが異なることをスニップという。スニップ解析は体質を判定し、薬の効き目や副作用などの個人差を予測するための最適の道具である。日本政府は、総額1206億円の「ミレニアムプロジェクト」を2000年立ち上げ、そのうち640億円がゲノム研究に配分された。このうち、科学技術庁の遺伝子多型応用に43億円、通産省の標準スニップの解析に25億円。スニップの研究に合計65億円が投じられた。 ■ アメリカが先行したスニップの解析を、わが国をはじめ先進諸国が必死に追いかけている。なぜ、スニップが注目されるかというと、ヒトゲノムの中に数百万個もあるばかりか、判別も容易であるため、人の分類に役立つからである。すなわち、スニップはヒトを人種、家系に分類するのに便利な道具であり、人類学の研究には好都合なのである。だが、重要なのはスニップ解析の医療への応用である。病気はある特定の人種や家系に発生しやすい。したがってスニップ解析を疾患遺伝子に適用すれば、ある特定のヒトが将来どんな病気にかかりやすいかも予測できるのである。 ■ スニップ解析を医師の患者への診断に活用することの利点は、薬の効き目を最大に引き出しつつ、副作用を最小に抑えるのに必要な薬の処方を患者一人ずつにきめ細かく処方できることである。これまで集団を対象にしたレディメード医療は、21世紀には個人を対象にしたオーダーメード医療に様変わりすると思われる。 ■ もしもそうなった時には、スニップ解析を迅速にやってのける道具が必要となる。これが、小さなシリコンチップの上に数万個のDNAを固定したDNAチップである。DNAチップの特徴は、これまでの千倍以上の速度でDNAを解析することである。DNAチップはヒトゲノム解析、マウスゲノム解析、伊根ゲノム解析と並行して、ウィルスやバクテリアなどの病原体の毒性の原因遺伝子や薬剤耐性の原因遺伝子の追跡にも利用できる。DNAチップの応用は広い。DNAチップを遺伝子診断と組み合わせることでその他にも、親子鑑定、個人の確認、特定の人のガン、糖尿病、高血圧など生活習慣病にかかる可能性も安易にしかも迅速に調べることができるのである。 ■ 2010年に世界のDNAチップビジネスは四兆円に達すると見込まれている。そのため、ゲノム情報をもとにした論理的な薬の設計、すなわち、『ゲノム創薬』が画期的な新薬を発明するための必須の戦略となった。これによって研究開発の期間が大幅に短縮され、新薬を必要としている患者の治療に、これまでより迅速に役立つようになるだろう。 ■ それでは『ゲノム創薬』について考えてみる。我々の健康は必要なときに必要な量のタンパク質が生産されることで健康が保たれている。必要なタンパク質に過不足が生じると病気になりやすいのである。つまり、タンパク質の過不足を補正すれば病気が治るというわけであるが、実際の治療でタンパク質そのものを注入することは効果が薄い。それは経口投与したタンパク質は胃で分解され、血液中では酵素によって分解されるため、効果はあまり期待できないからである。胃や血液中で分解されないのは小型物質であり、タンパク質と同じ効果のある小型物質をデザインすれば優れた薬を創る事ができるというわけである。 ■ さらに、タンパク質の結合により血圧等が上がるということもある。これを起こさないためにはタンパク質の結合を邪魔する阻害材を作ることが要求された。その一つとしてまずタンパク質の立体構造を決め、その構造にピッタリと当てはまる小型物質をタンパク質の阻害材として設計するという「ドラッグデザイン」がある。これによって、やみくもに探すより、阻害材を発見する効率が格段に上がるため、薬の研究・開発の時間を大幅に短縮でき、コストを削減できるのである。それまで、幸運や偶然にまかされていた薬の発明を、人がデザインによって達成するというのであるから、「ドラッグデザイン」は野心的であり画期的な試みである。 ■ 環境、エネルギー、食料、医療の四つの大問題を大まかに見てきたが、特に医療分野においてバイオの影響は他のどの分野よりも大きく、革新的であったと言える。やはりこれからそれら四つのの問題を解決する上で、バイオは必要不可欠になってくる事は言うまでもない。20世紀初頭より化石燃料を中心として人類は主に、物理と化学を駆使した物質文明により発展してきた。それが、21世紀は生命科学を駆使した時代に入ると思われる。つまり、21世紀の主役産業は「ゲノムビジネス」であると言えるのかもしれない。 ■ 20世紀に人類が発展ばかりを考えたがために発生した四つの大問題を、バイオの力で解決しようとしている。バイオはこれからの成長産業であると同時に、危険な分野でもある。20世紀に発生した大問題が21世紀になってその数が増えぬよう、慎重に解決していかなければならないであろう。
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