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首都圏私立中高一貫校が求める学力像
〜3年間の入試問題分析から(1)
2005年6月1日
by 本間勇人(honma@netty.ne.jp)
§1 はじめに

◆ 日能研が志望校選定保護者会で配布した資料は大変貴重なデータベースだ。首都圏私立中高一貫校の70%の入試問題を分析している。しかも原則3年分だ。小問1つひとつ分類されているから、ある学校を受けるために、子どもたちがどの分野をどういう思考過程を通して学んでいるかがおよそ推測できる。逆にいえばそれぞれの学校がどういう学力像を子どもたちに求めているのかがわかる。

◆ 塾としては、それぞれの学校の入試傾向とその対策を考案するために、このようなデータを作成しているのだろう。しかし、これをある塊で再分析してみると、個々の私立中高一貫校だけではなく、全体でどのような学力像を求めているか、実際には子どもたちがそういう問題を日々考えているのだから、どういう学力の形成に影響を与えているかがわかるのである。

◆ すべてが3年分あるわけではないので、その中から3年分揃っているデータを抽出して分析してみたい。いくつかの角度から分析を進め、最終的に全体像をまとめていこうと思う。

 

§2 男子生徒が形成する言語的学力像〜国語の分野の分布から見えること

◆ 3年分揃っている男子が受験する学校86校のデータを抽出して【表−§2】を作成した。R4偏差値(日能研が作成している合格可能性80%を示す指標)で60以上の学校と55から59の学校、86校全体という学校群で分け、それぞれどの分野の問題を出題しているのかを見る表である。

【表−§2】 漢字 語句 物語 随筆 論説文 説明文

韻文(詩・短歌・俳句)

R4 60以上(21校) 31.9% 6.3% 33.6% 9.7% 15.2% 3.2% 0.1%
R4 55〜59(17校) 26.9% 8.2% 25.8% 10.7% 19.8% 7.4% 1.2%
全体(86校) 29.3% 8.9% 28.0% 8.0% 18.2% 6.1% 1.6%

◆ どの学校群も漢字や知識という基礎的な問題を40%弱出題しているし、素材は物語が多い。論説文の方が物語より難しそうだから、やはり全体として基礎を中心に問題を出題していると解釈しがちであるが、これは違う。R4偏差値60以上の学校群は他の学校群と比べ説明文が少なく物語が多い。これはどういうことかというと、実際に問題を見ながらでなければここは解釈できないのあるが、見ていると仮定して話を進めると、実は説明文のように事実とその論理だけを読解していく思考過程で、R4偏差値60以上の学校群は満足していないのである。説明文や論説文は、見える論理を構築する力をみるときに使う素材である。物語は、メタファーの背景に隠れている見えない論理を再構築する力をみるときに使う素材なのである。

◆ このように考えると、男子が受験する私立中高一貫校の言語的学力像は、「基礎知識」、「見える論理」、「見えない論理」という学力構造であることがわかる。そしてその中でも「見えない論理」を考える力を重視しているということも見えてくる。なかなかパスしにくい学校群はこの「見えない論理」を再構築する力をさらに重視しているということだろう。中学入試が暗記中心主義という受験勉強を煽るというマスコミ的見解は、神話であるということがはっきりしてくる。

 

§3 男子生徒が形成する言語的学力像〜言語を使った思考過程

◆ つぎにこれもまた大変貴重なデータが公表されている。それは細部と全体という思考の視野の情報である。文章に傍線が引いてあり、その傍線箇所の理由や気持を考えさせる問いが出題されるのが、国語の文章題の一般的スタイルだが、大事なことは、その傍線の理由や気持を考える手がかりが傍線の近くにあるのか遠くにあるのかという分析をしているのである。

◆ 同じ理由を考える問いでも、手がかりが近くにあるか遠くにあるかでは、思考の視野に違いがある。論理を抽象的に再構築しながら読んでいったり、情報を圧縮しながら読んでいかないと全体的な思考の視野を要求される問いは解答しづらいだろう。

◆ それから記述式の問題でも30字以内なのか30字以上なのかというデータも分析されている。30字以内の記述は、キーセンテンスを書くのでせいいっぱいの文字量である。逆に30字以上になるとキーセンテンスに理由や反対の内容を肉付けしなければならない。思考の積み重ねあるいは統合作業の度合いが30字以内と30字以上では違うのである。もちろん30字以内で多くの情報を圧縮させるという高度な問題もあるが、それは例外的な問題だと考えてよい。

◆ さて、【表−§3】は、【表−§2】と同様学校群に分けて作成してみた。

【表−§3】 細部読解 全体読解 記述
30字以内 30字以上
R4 60以上(21校) 51.0% 49.0% 59.0% 41.0%
R4 55〜59(17校) 57.7% 42.3% 64.8% 35.2%
全体(86校) 57.8% 42.2% 70.4% 29.6%

◆ 男子が受験する私立中高一貫校の言語を使って思考する視野は、細部にこだわるだけではなく、かなり全体的な視野で俯瞰する力が要求される。つまり論理の再構築力と情報圧縮力が重要ポイントであるということだ。ただ、それを表現するときは、まだまだキーセンテンスを明確に表現できるという程度でよいということである。そうはいっても、R4偏差値60以上の学校は、表現においても論理の再構築力と情報圧縮力を要求されるということを【表−§3】は示唆している。文章という素材に沿いながらの論理の再構築や情報圧縮力に加え、ある程度自分の言葉に変換してアウトプットするという思考過程を回転させる力も必要になってくるのである。



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