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■ LAから残りの制限時間を聞いた生徒たちは、さっそくプレゼンテーションの資料作りにはげみます。制服に着替えた生徒たちは、チェックインを済ませて予定の時間よりも早く会場に集まっています。眠い目をこすりながら、昨日作ったパソコンのデータや、模造紙の使い方を確認する生徒の姿があります。つられたようにテーブルにはメンバーが集まり、まだ集まっていない生徒を呼びにいきました。やがてチームのメンバーが揃い、全員で編集作業の続きに取りかかります。
■ 模造紙に意見をまとめていたチームは、重複する部分を整理し、具体例を補強するために新しい模造紙を書き始めました。残り時間で間に合うでしょうか。文章の横に鉛筆で発表の分担が割り振られ、原稿を書く生徒に伝えられます。内容の確認が次々に行なわれ、進行状況の確認は短い目配せや仕草で通じるほどコミュニケーションが密になってきました。てきぱきとしたやり取りが、メンバー同士の信頼関係を反映しています。
■ 残り時間が30分を切ったところで、リハーサルがはじまりました。本番を想定して、ストップウォッチではかりながら、手順を確かめ合います。話し合いが充分にできず、「アドリブで」で済ますと言っていた箇所で、気まずい沈黙が流れます。すぐに修正が行なわれる場合もあれば、最優先事項が他にあり、先送りされる場合もあります。判断と行動の間隔がしだいにせばまり、緊張がみなぎっています。別のチームのLAを呼んで、判断をあおぐチームもあります。劇を演じるチームで、身振りをもっと大きくすべきというアドバイスが入ります。実は、生徒が読み上げる原稿には、身振りの指示も書き込まれていたのですが、実行していなかったのです。「リハーサルの状態を本番に近づけるほど、みんながやるべきことははっきりしてくると思う。リハーサルでできないことは、本番でもできないよ。逆に今持っているものを出し切れば、さらにやるべきことが見えてくるよ」。チームは再び最初の挨拶からリハーサルをやりなおしていました。
■ 残り10分を切ったところで、他のチームには知られたくない「サプライズ」を練っているチームがいます。周りに他の生徒がいないことを確認して、それははじまります。成功するかどうかは、すでに確信のもとにあるらしく、不敵な笑みを浮かべながらドアが閉じられます。本番ではどのような演出をみせてくれるのでしょうか。
■ 服装と座り方をととのえた生徒たちは、いざ本番にのぞみます。各チームに5分間の発表時間が与えられています。3日間話し合い、考えたことを、学年全体の前で伝えます。手順の確認に余念がないチーム。どっしりとかまえ、落ち着いた様子で、開始時間を待つチーム。発表の順番が気になって仕方がないチーム。開始までのわずかな間にも、チームの特徴はあらわれます。SVがマイクを握り、プレゼンテーションの開始を告げます。阿弥陀くじで最初のチームがステージに向うと、会場は期待と緊張感に包まれます。
■ 突然会場の照明が落とされます。暗闇のなかから、タイミングを合わせる掛け声があがります。「気をつけ!礼!」という力強い声とともに、「豊かさ」を構成する三つの要素が述べられます。幸せなイメージ、明るいイメージ、特に不幸じゃないこと。「あたりまえの日常をあたりまえに生きることが『幸せ』だと思います。幸せは、人と人とのつながりによってなりたっています。『豊かさ』というのも、人との関係によってなりたっています」。生徒たちは、日常生活のなかから「私たちの豊かさ」を見出したようです。
■ ASIMOが二足歩行で姿勢を保つことができる技術的な理由を、簡潔に発表するチームが登場しました。最先端技術に次いで、リサーチで訪れた「森のトイレ」の詳しい情報と、エコ活動が必要になった背景が語られます。質疑応答では、次のような意見が出されました。「ASIMOと『森のトイレ』とエコが重要だということはわかったんですが、その三つのなかで、どういう『豊かさ』がわかりましたか?」「技術の豊かさ、自然を活用する豊かさ、エコに取り組む人間の姿勢が豊かだということがわかりました」。先生から質問が入ります。「十年後のASIMOは、どのように変わっていると思いますか?」。生徒が答えます。「今のASIMOはごっついじゃないですか。だから、表面にシリコンなどを使って、より人間の質感に近づけたらいいと思います」。様々な質問にしっかりと答えを述べる生徒たちの姿はとても大きく見えます。
■ 「ここで劇をやります。8月29日、ゲンタとモンタが出会いました」。プラカードのように示された絵には、モンタという過去からタイムスリップしてきたサルと、現代を生きる少年であるゲンタが描かれています。物語は、お互いが住む世界の豊かさを主張しあうことで始まります。自然の豊かさが手付かずのままで残されていた昔と、便利で快適に過ごすことのできる今。お互いの考える豊かさの基準は平行線をたどり、やがてケンカが起こります。「そこに『平等様』が現れました」。生徒の朗読によると、「平等様」とはどの時代にも属さない神様で、後ろのシルクスクリーンには、ぶあつい積乱雲から太陽光が鋭く伸びる写真が提示されます。「平等様」は二つの時代に立った視点のすれ違う原因を語り始めます。昔の暮らしには、生存をめぐる血で血をぬぐう戦いがあり、現代の暮らしには、温暖化による環境の変化があり、年間の温度上昇率の数値を提示する模造紙が示されます。「わしらは何かを得て何かを失うんじゃよ」。ゲンタとモンタの和解のきっかけは、「平等様」によってもたらされました。「人間が生まれた自然と、人間が新たに作り出したものをまぜていけば、よりよい世界になるんじゃよ」。質疑応答の時間に、プレゼンの資料の使い分けがうまいと評価をうけました。プラカードとパワーポイント、模造紙という三つの手段は、必要な情報を使い分けるだけでなく、強調することにも役立ったようです。「だんだん指摘するポイントがするどくなってきましたね」とSVが指摘するように、聞く側の生徒たちは、しっかりとプレゼントを受け止めているようです。生徒たちの成長は無限に広がります。
■ 次のチームがステージにのぼります。こちらも、劇というプレゼンスタイルを選択したようです。ASIMO役の生徒が自己紹介をします。もちろん、二足歩行ロボットになりきって、身長と体重、いくつかの機能が述べられます。一人の生徒が両腕を広げます。「ところでぼくは最近思うんだけど」。チームはいっせいに、「豊かさってなんだろう」と声をそろえます。すると、「待たせたな」という声とともに、スキップをするように軽快な足取りの生徒が現れます。「私は、神様という職業のものです」。先のチームの「平等様」とは趣を異にした神様のようです。ロボットと人間の共存を説くと、瞬時に姿を消しました。劇は二部に移ります。森のトイレの仕組みが説明されると、突然生徒がお腹をかかえ、痛がっています。排泄物からできた水に抵抗を覚え、腹痛になってしまったという設定のようです。そこで「それは、見た目で感じる汚さというイメージに過ぎない」と、一人の生徒が述べます。「再び登場」、と神様が自然の大切さを訴えます。「太陽や水、いろいろな、ものが、集まって、生命を、高く、高く、評価しあって、すばらしい、自然を、つくっているんじゃよ」。最後に神様と腹痛を起こした生徒が音楽にのりながら短時間で習得したダンスを披露して、「うれしすぎて、神様と踊っちゃいました!」というコメントと共に発表が終了しました。質疑応答では、「神様だけが豊かさを知っている、というような内容だったんですが、皆がそれぞれに考える豊かさってなんですか?」という声が。「皆で話し合った内容をまとめた結果が、神様の言葉になっています」。「最終的に豊かさをひとつであらわすとしたら、なんですか」。ここで再び神様役の生徒が三歩前に進み、役そのままの口調で腕組をしながら、みんなで協力する大切さをおごそかに強調していました。
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