■三輪田学園の教育に浸透している建学の精神
2004年11月2日、三輪田学園でミニ学校説明会が開かれた。ミニ学校説明会とは、通常の学校説明会とは少し異なり、参加者は30名〜80名とあえて少人数で行い、予約制となっている。また、通常の学校説明会では校長先生が教育理念と教育内容を、教頭先生や主要4教科の先生が入試要項の説明を行うというように複数の先生が説明するのに対し、ミニ学校説明会では原則として校長先生のみのお話となっている。ただし、校長先生のお話の後には毎回異なるプログラムが用意されており、今回は「在校生の保護者が語る三輪田学園」というテーマで、現在高校3年生の子どもをもつ保護者の生の声を聞く場がQ&A式で設けられていた。
小規模の説明会を定期的に行い、校長先生自らが中心となって保護者に説明するミニ学校説明会そのものが、校長先生の考え・情熱・教育理念を体現しており、三輪田学園の教育実践の隅々にまで行き届いていることがうかがえる。
■高い学力の育成と人間教育の充実
三輪田学園は、今年で創立117年目をむかえる伝統校である。「建学の精神とは、その時代の社会的情勢を見ながら創立者が提唱したものであり、そのまま現代にも当てはめようとすると時として時代錯誤の場合もありますが、建学の精神に反映された創立者の人間観は不易なものでしょう」と、校長・西 惇先生は語る。創立者・三輪田眞佐子氏は、三輪田の教育理念として「知・徳・体」を「徳育・知育・体育・美徳」、「才色兼備」を「徳才兼備」と表現したように、「徳」という語を一番初めに位置づけている。それは、知育が最優先されるのではなく、三輪田学園では人間としての価値観、道徳的モラル、人間的情操を大事にしているためである。もちろん学校である以上、能力や知性を開発するべく基礎基本を重視した学力を伸ばすことも重視している。人間教育と学力の伸長、この両者がどちらも欠けることなく、いわば天秤のようにバランスをとりながら教育を行っている学校――それが三輪田学園といえそうだ。
■三輪田学園を支える3つの柱
三輪田学園の教育における願いとして、@一人ひとりの学力・能力を最大限伸ばしたい、A人間としての総合的な学力を伸ばしたい、Bよい学園環境の下、情操豊かな人間形成をさせたい、という3つの願いがある。これら3つの願いや期待を胸に、三輪田学園の生徒たちは実際どのような6年間を過ごすのだろうか。
三輪田学園のカリキュラムは、「個性指導」「進学指導」「進路指導」の3つの柱から捉えることができるだろう。ここで興味深いのは、三輪田学園ではいわゆるキャリアデザインプログラムを、「進学指導」と「進路指導」という2つの概念に分けている点である。「進学指導」が教科指導と大学進学への対応が中心であるのに対し、「進路指導」は人間教育とキャリアデザインを上手に統合したものであり、三輪田学園の教育の大きな特徴となっている。校長先生のさまざまな語りの中でも建学の精神がより表れているのが、この「進学指導」と「進路指導」であろう。
■個性指導
三輪田学園は学校行事が多く、「生徒会活動」「クラブ活動」などの特別活動や、「芸術鑑賞」「運動会」「三輪田祭」などの学校行事のことを「個性指導」として位置づけている。たとえば、秋の「オペラ教室」では「魔笛」「カルメン」など毎年異なるオペラを鑑賞する。一流の芸術に触れることは、生徒の心が柔らかいうちに砂金のようなものとして何か残るだろうと期待でき、情操教育の一環として重視していると考えられる。
「三輪田学園は週6日制(土曜日は4時間授業)で、卒業生のほぼ全員が大学へ進学するという意味で進学校ではありますが、クラブ活動や副教科をおろそかにするような受験校ではありません」と校長先生は語る。特別活動や学校行事などには、異年齢の人々との活動を通して、人間関係がもまれる体験を重ねながら、自分自身で自分の個性を見つけていってほしいというねらいがある。
■進学指導
「進学指導」とは教科指導のことである。中1から高1までは全教科を共通授業として履修し(ただし、英語と家庭科は中学生の段階から少人数クラス授業)、高2・高3で将来の進路に応じた科目選択ができるように、選択授業や習熟度別授業が導入されている。選択授業は少人数クラスが中心で、文理は例年たいてい3:2の割合となっているようだ。
また、英語ではリーダーは全て暗唱し書けるようにすることや、英語・漢字(語彙力を増やすことが、読書量の増加や読解力にもつながる)の小テストの繰り返しなどを通して、基礎基本の徹底化を図る。これは、どの教科も無駄なものはないという考えと、高1までに基礎学力を定着化させたいという願いがあってのことのようである。ここでいう学力とは、どちらかというと「読み・書き・そろばん」の頭文字をとった「3R型」の学力観という印象を受けるかもしれない。
しかし、蓋を開けてみれば、三輪田学園のカリキュラムは「3R型」の授業のみで構成されているわけではないことがすぐにわかる。たとえば読書指導を、国語の指導事項に組み込むのではなく一つのカリキュラムとして位置づけ、中1の国語と中3の社会の授業で読書の時間が毎週1時間設けられている。図書室で本を読み、自分の読書ノートを担当の先生に提出すると、先生がコメントをそえて生徒に返却する。読書指導において、このような生徒と教員のキャッチボールがさりげなく組み込まれている点からも、校訓「誠のほかに道なし」の言葉のとおり、誠実さを日頃から大切にしていることが感じ取れよう。
また、リストアップされている本は大学の小論文の問題によく出題される作品が多く、読書は生徒の内面を豊かにするとともに、考える力も身につくものである。読書指導は、人間形成と学力伸張をどちらも手放さない三輪田学園の教育理念が、実践としてきちんと反映されている例の一つといえるだろう。
■進路指導
教科指導を意味する「進学指導」に対し、「進路指導」とは「生き方指導」と言い替えることもできるという。この「進路指導」は、人間の価値観や道徳的モラル、人間的情操を育む道徳やHRの時間を主に指す。それぞれ、週に1時間という少ない授業時数ではありながらも、この「進路指導」には三輪田学園の教育理念が大きく反映されており、理念と実践がしっかりと結びついていることがうかがえる。
「進路指導」といっても、入学したばかりの中1から自分の進路や生き方について問う授業を行うわけではない。各学年の発達段階に応じてテーマが設定されており、たとえば中1では「中学生としての基本的生活習慣と学習態度を身につける」という学年テーマのもと、あいさつや身のまわりの整理整頓に関するテーマにはじまり、友達、言葉、命の大切さを考えたり、平和や環境問題など現代社会の問題について取り上げている。中2の3学期になると、早くも高校進学に向けての心構えについての講話があり、進路指導の第一歩となる。中3では、自分の生き方や仕事について考える機会として、身近な人へのヒアリングや保護者の講演を行う。保護者が語る仕事の話は、教員が話す以上に生徒にとってインパクトがあるという。
高校では、道徳の時間はないがHRの時間を使い、たとえば自分史を書くことで将来の進路を決める手がかりとしている。自己を認識し、未来像を具体化していくのは難しいことだと思われる。しかし、三輪田学園では中1から毎週、人間としての価値観形成につながる教育と進路指導を取り入れている。生徒たちが卒業後も理系・文系、芸術の分野などさまざまな場で将来活躍できるよう、将来の自己実現へ向けての大事な基礎が6年間を通して少しずつ、着実に根づいていくものと期待される。
■目に見えない「誠」の道
このように、三輪田学園は中高一貫教育の流れの中で、教育理念と実践がきちんとマッチしている学校であり、それは明治20年の創立以来、100年以上の歴史を誇る三輪田学園の伝統と実績を21世紀の今もなおしっかりと支えている。
「進学指導」で「教科指導」を中心に学力を伸ばし、「進路指導」で「生き方教育」を行い、「個性指導」でさらに生徒の個性(オリジナリティ)を見出していくわけであるが、これらを個々に捉えるのではなく、トータルにして人間としての価値観や自己形成へと結びつけているのが三輪田学園なのである。それらは目に見えない「誠」の道であり、まさに今回のミニ学校説明会でも、校長先生が自ら保護者に説明した中で体現されていたのではないだろうか。
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