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| NTS学習の論理マトリックスからみる京北学園の授業 |
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2004年5月17日 |
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■ 2004年5月8日(土)京北学園を訪問した。はじめに、校長先生に学園の教育についてお話をうかがった後、中学2年生の数学の土曜講座を見学させていただいた。授業後、何人かの生徒たちに授業の感想を聞くとともに、その授業を担当されているT先生にインタビューをすることができた。午後からは、京北学園で今年度中学1年生のクラスを受け持っているS先生と、T大学で開催された研究会に同行することができた。その研究会では、ある公立中学の社会科の授業例から「指導技術」についての報告があった。 ■ その研究会で報告された公立の授業での先生方の取り組みは、午前中みてきた京北学園の授業との違い(教師の授業に対する基本的な考え方の違い)がよく表れていて興味深かった。もちろん、公立と私立の違いと一括りにして語ることはできないし、言うまでもなく私立と公立の優劣をつけるという意味では全くない。ただ、学校によって、あるいは教員によって、授業スタイルや教育観の違いがあるということは、日本の学校教育を考える上でおさえておくべき点の一つかもしれない。 ■ さて、京北学園の教育について話を進める前に、先にNTS教育研究所の考える学習の論理マトリックスについて少し述べてみたい。当研究所では、学習の論理マトリックスとして、コミュニケーション行為という観点から授業スタイルを分類すると、以下の4つのパターンに分類することができるのではないかという仮説を立てている。授業のやり方そのものについては、各学校、各教員でそれぞれ独自の方法論が確立されていることであろう。したがって、ここでは授業の方法論や指導方法ではなく、教員と生徒のコミュニケーション行為(教員と生徒の位置関係、と言いかえることもできるかもしれない)という視点から、授業スタイルについて大別してみたい。
■ まず、学校での授業を教師が教壇に立ち、黒板を使用しながらの講義形式の授業と、近年日本でも注目されはじめているチーム学習に代表されるような授業スタイルに分けることができるのではないかと考えられる。ここでは前者を「Traditional」、後者を「Progressive」な授業としよう。ただしこれは、「Progressive」な授業はチョーク・アンド・トーク型の「Traditional」な授業よりも先進的で良い、といった優劣をつける意味ではないことに留意していただきたい。ここでいう「Progressive」な授業とは、「experience(体験)→explore(探究)→exchange(議論)→express(表現)」という4つのプロセスを経たチーム学習のことを指している(NTSでは、4つの語句それぞれに「X」が入っていることから、この学習プロセスを総称して「4X」と呼んでいる)。「Progressive」な授業では、次のステップへと学習が進む時もまたこの4Xのプロセスを経る。4Xが1つのサイクルで終わるのではなく、何度もこの4Xを繰り返し循環させながら生徒の学習を向上させていく。 ■ さらに、「Traditional」「Progressive」それぞれの授業でも、教師が生徒を先導していく教師中心型の授業と、生徒が主体となって学習していく生徒中心型の2つに分かれるのではないだろうか。前者を「T centered (=Teacher centered)」、後者を「S centered(=Student centered)」としよう。したがって、日本の多くの学校で用いられているであろう、教員主導のチョーク・アンド・トーク型の授業は「Traditional」で「T centered」な学習であるので、上の図でいうと「A」に該当する。それに対して、たとえば栃木県茂木町の施設で行われる小中高生を対象とした滞在型体験学習、Honda「発見・体験学習」のように、生徒主体のチーム学習は「Progressive」で「S centered」な学習の「D」に位置づけられると考えられる。 ■ では、こうした4つのタイプの理論枠組をもとに、京北学園の授業スタイルをみてみるとどうなるだろうか。京北学園の基本的な授業スタイルは、上記の論理マトリックスでいえば「A」と「B」の中間あたりに位置づけられると考えられる。教壇での一斉授業という意味において、多くの日本の学校の授業がそうであるように、京北学園もどちらかといえば「A」の授業が主流ではないかと思われる。しかし、冒頭で紹介したT先生の授業は、「全然わからないんだけど」とつぶやく生徒に、「でしょ?でも(これから授業の中で)わかるようになります」と笑顔で先生が答えるように、生徒と教師が常に会話をしながら授業が進んでいく。生徒も活発に教師に質問をしたり挙手をするなど、教師の一方的な講義形式の授業ではなかった。遠山先生の授業のように、一斉授業とはいえ生徒中心の授業が展開されているケースは「B」に位置づけられるだろう。 ■ なお、生徒と教員の会話のキャッチボールによって授業が展開されていくことのメリットについては、2003年に行われた東京大学大学院とお茶の水女子大大学院による共同研究のレポート「中学校入学後の学習習慣の形成過程」の中でも言及されている。レポートによれば、同じ教員が同じ内容の授業を行った場合であっても成績に学級差が生じることについて、授業中に教師の意図を超えて談話が広がるクラスの方が、そうでないクラスに比べて成績が良かったと指摘している。 ■ このように、京北学園の授業はAとBの中間あたりではないかと考えられるが、京北学園はそれだけで終わらないのが魅力的だ。たとえば体験学習として、中1で田植え・稲刈り体験合宿、中2で酪農体験合宿を行ったり、キャリアデザイン教育の一貫として中3で大学見学を実施している。そのほか、社会科や美術の校外学習やスキー旅行を実施するなど、学校外での学習を多く取り入れている。もちろん国内のみならず、「海外語学研修・君もオーストラリアで異文化体験してみないか」というキャッチコピーのもと、オーストラリアのホームステイ(16日間)も実施している。こうした取り組みからは、生徒の学習意欲を「教室」以外の場でも引き出そうとする、学校の意欲的な姿勢を感じとることができるのではないだろうか。このような、教室以外の場での体験学習や校外学習は、CあるいはDの「Progressive」な学習に該当するといえるだろう。 ■ さらに、今回の取材で見学させていただいた土曜日の練成講座は、今年から授業内容を変え、平日の授業の復習ではなく、たとえば数学なら「おもしろ数楽」といったように、数学の面白さを知ってもらうためのパズルやクイズを中心とした学習内容に変更したという。これは、週5日制という時代の流れの中で、生徒たちに「土曜日も学校に来てよかった」と思ってもらうために、土曜講座を楽しいものにしたいという学校側の願いが反映されてのことらしい。 ■ その一方で、今年度も土曜講座の中で引き続き検定講座や実力対策講座を行っていく方針だそうだ。これについては、昨年の東京都の実力テストで、昨年の中1(現中2)の数学の平均点が都の平均を上回ったことが生徒の自信につながり、「数学が楽しくなった」という生徒がでてきた例に象徴されるように、学内だけでなく学外での自分の実力の程度も、生徒たちに知ってもらう必要があると考えているからとのお話だった。 ■ つまり京北学園は、普段の授業と学校外での学習活動全体を通して、生徒の実態に合わせたA〜Dの学習スタイルを全て取り入れている学校だといえるかもしれない。京北学園では、さまざまな次元や角度から生徒と教師がコミュニケーションをとれる環境が整えられている。校長先生が全校生徒の名前を覚えており、新しく入学して不安を抱えているであろう中1に対しては、とくに気を配りながら生徒一人ひとりに笑顔で声をかけているのも、そういったことのあらわれではないだろうか。このように、学校全体で多様なコミュニケーションが形成されることが、今後ますます重要になってくるのかもしれない。 |
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