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総合学習の実践例から――その可能性と危険性

2004年3月24日
by 葛原 裕香

§1 新学習指導要領における総合学習の位置づけ

■ 総合的な学習の時間(以下「総合学習」と記す)の取扱いについて、新学習指導要領には「各学校は、地域や学校、生徒の実態等に応じて、横断的・総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行う」と記されている。探求活動に主体的に取り組む姿勢と問題解決能力の育成を指導のねらいとし、「例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題、生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題など」に取りくむことを推奨している。

■ 総合学習を行うにあたって配慮すべき点としては、新学習指導要領では次の2点が挙げられている。第一に、「自然体験やボランティア活動などの社会体験、観察・実験、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動など体験的な学習、問題解決的な学習を積極的に取り入れること」、第二に、「グル−プ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態、地域の人々の協力も得つつ全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制、地域の教材や学習環境の積極的な活用などについて工夫すること」である。

■ では、具体的に現在どのような総合学習が行われているのだろうか。インターネットを中心に検索してみると、多くの小中学校ではテーマ学習・ボランティア活動・職場体験の3つが主流のようである。

 

§2 テーマ学習・ボランティア活動・職場体験が主流の総合学習

■ まずテーマ学習の場合、新学習指導要領に「グル−プ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態」と記されていることから、個人学習よりもグループでの共同研究スタイルをとっている学校が多いようだ。テーマの内容としては、各学校で自由に内容が設定できるとはいえ、先にも述べた新学習指導要領に挙げられている「環境」「福祉・健康」「情報」「国際理解」をキーワードにした学習活動が多く見受けられる。

■ テーマ学習のなかには、地元の歴史や地形、特産品を調べるなど「郷土」に関するテーマ学習を行っている学校もある。たとえば、埼玉県北葛飾郡杉戸町立杉戸中学校では「身近にある杉戸町の遺跡と杉戸町の誕生」をテーマに、また、静岡県富士宮市立富士根北中学校では、富士山学習として地域に生息しているかたくりの古名の「かたかごの里の学び」を総合学習の大きなテーマとして実施しているという。このように、テーマ学習は各校のオリジナリティを出しやすい学習と捉えることもできるだろう。

■ つぎに、手話・車椅子の体験活動や、静岡県菊川町立菊川東中学校のように、養護学校・障害者施設・老人ホームへの訪問といったボランティア活動も、総合学習として積極的に行われているようだ。あるいは、東京都世田谷区立芦花中学校のように、地域ボランティアとして公園や学校周辺の掃除やゴミ拾いなど地域清掃に取り組んでいる学校もある。こうした地域密着型の総合学習は、地域住民との関わりの中で学校が在り、またそこで学ぶ自分が在るのだという意識化につながることであろう。さらに、生徒たちの問題関心がリサイクルや環境、福祉へと広がっていく意味でも有意義な体験ではないかと思われる。

■ そのほか、総合学習として職場体験や情報教育なども含まれよう。職場体験は、中学校だけでなく高校でも積極的に行われているようだ。後述するように、情報教育が一般に1年生次で行われることが多いのに対し、職場体験は、大分県大分郡挾間町立挾間中学校や広島県尾道市尾道市立栗原中学校のように、2年生次に行われている学校が多くみられる。これは、進路選択を迫られる3年生になる前に、将来就きたいと考えている職業や関心のある分野の仕事について少しでもイメージを具体化してもらえれば、という先生方の意向も反映されてのことであろうか。

■ 情報教育とは主にパソコンを使った学習で、和歌山県橋本市立橋本中学校に代表されるように、中学1年次の早い段階から取り入れている学校が多いようである。調べ学習でインターネットの情報を活用してくためにも、パソコンの基本操作は早い時期に習得させておく方が望ましいということなのかもしれない。また、パソコンだけでなくプレゼンテーションの一手段として、デジタルカメラやパワーポイント、あるいはビデオ映像を活用する学校もでてきているようだ。模造紙での発表や新聞制作が未だ主流とはいえ、メディアの積極的な活用はメディア・リテラシー教育ともあわせて、今後ますます重要になってくるだろう。

 

§3 総合学習の形骸化の危険性

■ しかし、総合学習が順調に行われているのかというと必ずしもそうではないようだ。総合学習の実践において最も注意すべき点の一つは、体験至上主義に陥らないことであろう。総合学習の中には、体験が自己目的化してしまい、教科同士をつなげる横断型学習という総合学習の理念からかけ離れてしまう場合がある。本来、研究や調べ学習とは課題設定を考える段階(問題関心の掘り下げと研究目的の明確化)からはじまるものだが、あらかじめ教師側からテーマの内容や目指すゴール地点を与えられては、生徒たちはそれをこなすだけの「体験」学習になってしまう恐れがある。すでに小学校の生活科で、体験が自己目的化しているケースも少なくないようなので十分に注意する必要があるように思われる(http://www.nakahara-lab.net/integration-okabe.pdf参照)。

■ ただし、総合学習がうまくいっていない事例を検討する際には、教師個人の力量不足を指摘するだけでは不十分であり、総合学習の構造的な問題点にも目を向ける必要があると思われる。週休二日制の導入により授業時間数の不足から、受験校や私立校に限らず公立校においても、総合学習の時間を教科の補習や文化祭・修学旅行の準備に当てている学校も少なくないようだ(http://www5.justnet.ne.jp/~tor-ks/edu/edu2.htm参照)。

■ また、国際理解の一貫として英会話の授業を求めている保護者が多いようだが、実際は、ネイティブスピーカーの英会話講師に出せるほどの予算はどの学校にもあるわけではない、という問題も浮上してきている。小学校の総合学習では、東京都江東区立第三大島小学校、岡山県岡山市立庄内小学校、沖縄県嘉手納町立屋良小学校のように、子供たちに早い時期から英語に親しんでもらおうと英語教育が注目されている。しかし、教育委員会を通じて派遣されているALT(ネイティブスピーカーの英語補助教員)は市全体の講師であるため、一つの学校にかける時間はごくわずかだ。学校側としても講師集め、講座内容に四苦八苦しているのが現状だという(http://www5.justnet.ne.jp/~tor-ks/edu/edu2.htm参照)。

 

§4 総合学習の失敗例や批判に対しても十分な検討を

■ 岡邊が指摘するように、どんなに総合学習が推奨されても教科学習の意義が衰えるわけではなく、また総合学習がそれに取って代わることも現実的ではないだろう。そもそも、総合学習とは科目の枠にとらわれない学習という意味でしかなく、それ自体を良い悪いと結論づけることはできないであろうし、教科学習と総合学習を二項対立的に捉えることも適切ではないように思われる(http://www.nakahara-lab.net/integration-okabe.pdf参照)。

■ 総合学習の実践例として成功例に注目が集まるのは、総合学習への取り組みが始まって間もないことを考慮すれば致し方ないことではあろう。しかし、未だ多くの学校で総合学習が模索段階である今、成功例と同じく失敗例やその危険性についてもまた十分に目を向け、検討していくことが重要なのではないだろうか。

参考資料:

『総合的な学習のひろば』 http://camellia.fukuyama.hiroshima-u.ac.jp/
『総合的学習と教師─批判的検討を中心に─ 岡邊健』
http://www.nakahara-lab.net/integration-okabe.pdf
『総合的な学習実践校へのリンク』 http://www.aa.alpha-net.ne.jp/hide215/hnet/sogo/gakko.html
『公立校教諭による総合学習批判U』 http://www.ne.jp/asahi/sun/star/hiroba/263.html
『総合的な学習らんど』 http://www.nier.go.jp/homepage/jouhou/literature/sougou.html


学校HP: 東京都江東区立第三大島小学校 http://www.koto.ed.jp/3dai-sho/
岡山県岡山市立庄内小学校 http://www.syounai-e.okayama2.schoolnet.gr.jp/index_top.htm
沖縄県嘉手納町立屋良小学校 http://www.educ.kadena.okinawa.jp/yarasho/
静岡県富士宮市立富士根北中学校
http://www.fujinomiya-shizuoka.ed.jp/jh-nekita/welcome.html
東京都世田谷区立芦花中学校 http://www.setagaya.ed.jp/troka/
埼玉県北葛飾郡杉戸町立杉戸中学校 http://www.sugito-jhs.sugito.saitama.jp/
静岡県菊川町立菊川東中学校 http://www1.sphere.ne.jp/washokai/kyouiku.html
広島県尾道市尾道市立栗原中学校 http://www.bbbn.jp/~kurityu/top_menu.htm
大分県大分郡挾間町立挾間中学校 http://www.town.hasama.oita.jp/~jhhasa/index.html
和歌山県橋本市立橋本中学校 http://www.edu.city.hashimoto.wakayama.jp/hajs/index.html

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