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第三章 国連と軍縮

by小松原 瞳

§0 はじめに

■国連は、国際の平和と安全を維持する活動の中心として、多国間軍縮と軍備規制を目標としてきた。なぜなら、国際社会において自国の安全を確保するため、各国は一定の規模の軍事力を保有しているが、軍縮への取り組みがなければ、勢力争いのためそれぞれが軍備を増強し、そうした競争が際限なく進む恐れがあるからである。軍縮や不拡散によって、こうした軍拡競争を抑制することが、国際の平和と安全のためには重要となるのである。

■軍縮問題の中でも、国連が最優先で取り組んできたのが、核兵器の削減とその究極的な廃絶、また化学兵器の廃棄、そして生物兵器禁止の強化だった。これらの兵器は地球全体の将来をも左右しうる人類最大の脅威であり、こうした兵器の廃絶という目標は当初から変わっていない。しかし、政治的問題や国際情勢の移り変わりに伴い、その審議や交渉の規模は変化してきている。

■そこで、この章ではこれまでの世界的な軍縮・軍備管理の流れ、また国際的な取り組みについて、そして今抱える課題はどういったものがあるのかを検証していきたい。


§1 世界的な軍縮・軍備管理の流れ


■冷戦時においては、大きな核戦争が勃発することのないよう、特にアメリカとソ連が無制限な核の軍備競争を行わないよう努め、核兵器そのものや核兵器の原料となる資源・機材の移転を禁止する「核兵器不拡散条約(NPT)」を作り、国際的な枠組みを作る努力がなされていた。生物兵器に関しては、その生産や保有を禁止する「生物兵器禁止条約(BWC)」が結ばれた。

■やがて冷戦が終結し、核兵器によって東西の軍事的バランスを保とうという考え方が見直され、核兵器の軍縮・不拡散への動きは大きく進展した。具体例をあげるならば、米露間において「戦略核兵器不拡散条約(START)」や「戦略攻撃能力削減に関する条約(モスクワ条約)」が発効された。また、フランスや中国などの核保有国をはじめとする多くの国々がNPTに加入した。

■しかし、必ずしも世界が軍縮へと向かっているわけではなく、それと逆行するような動きもいくつか見られた。たとえば、1990年代前半にはイラクや北朝鮮の核問題が発覚し、国際社会は核不拡散の強化の必要性にせまられた。そのため、国際原子力機関(IAEA)の保障措置を強化する「追加議定書」が1997年に発効され、締結国を増加させる努力が行われている。

■また、1998年にはNPTに加盟していないインド、パキスタンが相次いで核実験を行い、2004年には核兵器関連の物資や技術を秘密裏に取引する「核拡散の地下ネットワーク」の存在が明らかになり、国際社会は大きな衝撃を受けた。現在の核不拡散体制へのこうした反発に対し、国際社会が今後どういった形で取り組んでいくかが、非常に重要な問題となってくる。

■軍縮・軍備管理の重要性は昔から変わることはないが、その時の国際情勢に合わせて、様々な取り組みが実施されることが必要だとわかる。それは、既存の取り組みが重要でなくなってきたということではなく、これまでの成果に加えてさらに努力してゆくことが重要なのである。


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§2 国連における軍縮・軍備管理への取り組み


■国連は、創立以来積極的に軍縮・軍備管理に対して取り組んできた。しかし、冷戦時代には国連を通じた具体的な成果はあまり見られず、むしろ二国間または地域的な枠組みを通じて軍縮に関する取り決めが行われてきた。一方、国連は総会においての軍縮問題に関する議論や採択を行うという形で、国際社会に影響を与えてきた。こうした議論や決議は、長期的なスパンで考えるならば国際世論の形成に大きく貢献したと言える。

■また、冷静終結後には国連軍備登録制度の設置や「包括的核実験禁止条約(CTBT)」の国連総会による採択、「国連小型武器行動計画」の採択など、総会を通じて具体的な軍縮・軍備管理に対する成果をあげている。安全保障理事会においても、1992年に軍縮・不拡散の重要性を強調する議長声明が発表された。

■では、国連内の軍縮に関わる機関を見ていきたい。軍縮に関する問題を審議する主要な責任は、国連総会が負っている。そして、軍縮問題を取り上げる総会を補助する機関として、「軍縮・国際安全保障委員会(第1委員会)」と「国連軍縮委員会(UNDC)」がある。前者は通常総会の際に開かれ、総会における軍縮問題に関するすべての議題を取り上げる。一方、後者は特定の問題に焦点をあてることによって専門化された審議機関である。

■さらに、「ジュネーブ軍縮会議(CD)」という機関があり、国連の枠外において軍縮協定について審議する唯一の多国間交渉の場となっている。この機関はそもそも、冷戦下にあって国連を中心とした軍縮の成果があがらないために作られた「10カ国軍縮委員」を母体としている。65カ国で構成されており、国家の安全保障上の利害に触れる問題については厳しいコンセンサスに基づいて進行することになっている。国連との関係は特殊であり、軍縮会議においては独自の規則を用い、議題も自ら決定するが、総会の勧告は考慮にいれ、毎年総会に報告をするという形をとっている。

■CDは、化学兵器や包括的核実験禁止条約に関する交渉を成功させるにいたった。けれども、1997年以降は、軍縮の優先順位について加盟国間においてコンセンサスを得ることができず、そのまま交渉は中断している。

■また、これまで多くのNGOが国連と連携して経済・社会問題について重要な役割を果たしてきたが、軍縮問題に関しては国家の安全保障と密接に関連しているため、国連における軍縮交渉の当事者はあくまで各国政府とされNGOが直接的に関与することは許されなかった。よって、軍縮問題に関してはNGOが国連になんらかの影響を与えるためには、自国の国内世論を喚起して政府の政策の形成に働きかけるか、世界的な平和運動などによって国際世論を喚起することしかできなかった。

■しかし、冷戦が終焉し1990年代に突入すると、軍縮に関わるNGOの国連における活動も活発になってきた。安保理の理事国代表が、NGOを含む市民社会からも多様な助言や情報を入手しようと、理事会の政策問題を討議するための機会を設けるようになったのが一つの理由であろう。その結果、安保理のNGO作業部会が1995年に設置され、人道的救済から人権、軍縮など安保理の問題を幅広く扱った。けれども、軍縮問題に関する審議の中心はあくまでも総会やジュネーブ軍縮会議であり、NGO作業部会は国連の軍縮問題に関して十分な影響力を与えることはできなかった。

■それでは、個々の問題への対処についてみていきたい。まず、核兵器に対するアプローチであるが、持続的な努力の末、国際社会では徐々にではあるが、核兵器を削減し、その拡散を制限する協定の締結に成功している。しかしながら、核兵器が国際社会の脅威であるという事実はいまだにかわっていない。

■1996年に国際司法裁判所は、核兵器に関する勧告的意見を発表しており、その中で「あらゆる側面における核軍縮へ導く交渉を誠実に追及し、かつそれを終わらせる」義務を国家が有することを確認した。中でも、弾道ミサイルとミサイル防衛システムの開発、隠密に行われる核兵器計画の可能性、核兵器拡散の危険性、南アジアにおける核実験、核軍縮の中心となる国家による包括的核実験禁止条約の批准の必要性、などが核兵器に関する主な問題となってくる。

■次に、化学・生物兵器に対するアプローチであるが、1997年に化学兵器禁止条約が発効された。これは、国際軍備管理史上初めて、締約国の条約上の義務順守を監視する厳格な国際検証体制をとった。そのため、オランダのハーグには化学兵器禁止機関が設置され、各国で査察が行われた。そして、条約において宣言された60の化学兵器生産施設の閉鎖を確認した。

■また1975年には、生物兵器禁止条約が発効されたが、これは検証機構については規定していない。そこで、条約順守の促進や、技術協力や技術援助を履行するシステムを設けるための再検討会議が1995年から行われている。(BWCについて現在の状況を補足)こうした条約を確実に浸透させ、これらの兵器の非締約国への拡散を未然に防ぐよう努めることが、国際社会の将来のために必要とされている。

 

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§3 今後の課題

■国連では、これまで軍縮問題に関して国家中心の枠組みで考えてきたため、国益が対立し、それゆえ交渉が難航することが多かった。しかし、今後軍縮・軍備管理を推進してゆくためには、国家中心の枠組みを取り去り、市民社会や地球全体の利益を重視し、国連加盟国全体が相互に協力していくことが大切になってくる。

■そこで、まずは現在交渉が中断しているジュネーブ軍縮会議を再開させることが重要となる。同会議は、1996年に包括的核実験禁止条約案を作成してからというもの、議論や交渉がほとんど行われていないに等しい。多くの国が、同会議において兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)の交渉開始の必要性を訴えているにも関わらず、一部の国の同意がないためにいまだに進展がみられない。

■こうした状況を打開するため、ジュネーブ軍縮会議における決議の採択にすべての構成国の同意を必要とするコンセンサス方式を緩和するという方法が挙げられる。少なくとも「手続事項」に関しては多数決方法で採択するようにすれば、交渉の開始も容易になるだろう。さらに、軍縮の特定の議題をほかの議題と関連付けるリンケージの手法を各国がとるのをやめることで、同会議における交渉を活性化することにつながる。

■また、安保理における軍縮問題の審議を活性化させることも重要となる。安保理は、常任理事国をはじめ多くの軍事大国によって構成されており、軍縮・軍備管理問題に関して直接的に交渉することが可能である。さらに、前述したように、現在NGO作業部会が安保理と綿密に会合を重ね、安保理の政策形成に影響を与えられる状況が整っている。このように軍縮交渉の好条件がそろっており、市民社会の意見も取り入れられている安保理においてこそ、積極的に軍縮問題が審議されるべきなのである。

■さらに、国連の枠内だけでなく、NGOをはじめとする市民社会のより積極的な行動が今後重要になってくる。近年になり、専門的な知識と情報を持った軍縮NGOが、軍縮・軍備管理の実施計画や具体的措置を提案し、またそれらを実現するのに必要な諸条件を考え、自国の政府や国連に積極的に持ちかけるようになった。こうしたNGO相互の国際的連携の強化が、国連の枠組みの中での軍縮・軍備管理問題の推進に影響を与えることは間違いないだろう。

■最後に、軍縮教育によって人々に軍縮問題の重要性を認識させることが重要になる。2000年、国連事務総長の諮問機関である国連軍縮諮問委員会において、現在の核軍縮問題の停滞を打破するためには、若い世代の軍縮教育に積極的に取り組む必要があるとの問題提起がなされた。その結果、各国に軍縮教育の促進を求める内容が含まれた「軍縮教育に関する報告書」にある勧告の、実施を求める決議案が総会で採択された。こうして人々の平和意識を変革するための軍縮教育に注目が集まっている。

 

参考サイト  ○外務省HP(http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html
参考文献 ○「新しい国連」(2004年 有信堂)編臼井久和・馬橋憲男
  ○「国際連合の基礎知識」(2002年 世界の動き社)国際連合広報局
  ○「やさしい国際問題のはなし」(1996年 法学書院)著谷川平夫

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