§0はじめに
■創設以来、国連は数多くの紛争解決に成功してきた。しかし、近年その役割を果たすことが非常に難しくなってきている。
■冷戦時代は、多くのマイナス面を持ちつつも、一面では国際社会に安定をもたらしていたことは否定できない。資本主義対社会主義というイデオロギーの対立が世界を支配し、そうした大きな争いの中では民族や宗教的なものに関する対立は抑え込まれることとなった。しかし冷戦が終わり、各国で息を潜めていた民族的感情や宗教的対立が一気に噴出し、世界中で紛争が多発している。
■冷戦中は大国間の対立で国連はほぼ機能麻痺に陥っていたが、東西の和解が行われた今、世界の平和を維持する国際機構として、その本領を発揮してくれるのではないかと期待がよせられた。しかし、実際国連は多発する紛争を収める手段を確立することができていない。ここに、国連の課題が残されている。これから、国連加盟国が国連をどのように育てていくかが、重要となってくる。そこで、第2章では国連の平和・安全保障に関する現状と問題点について検証する。
■国連の平和・安全保障に関する活動は、紛争予防、強制措置、平和維持などの領域に及んでいる。こうした活動は、それぞれの領域で同時に進めていかなければ意味がない。では、実際どういった活動が行われているのだろうか。
§1 紛争予防
■紛争が生まれるのを防ぎ、また紛争の再発を防ぐために行われるのが、予防外交、予防展開、そして予防軍縮である。予防外交とは、争いが紛争へと発展する前になんらかの形で解決を図ることだ。それは、例えば仲介であったり、調停、または交渉であったりする。国連は世界中を慎重に見守り、常に平和と安全に対する脅威を早期発見するよう努めている。
■国連事務総長の特使や特別代表は、世界中で仲介などの予防外交に全力を注いでいる。地域によっては、有能な特別代表がいるというだけで、紛争の拡大を防げることもあるという。予防外交は、また地域機関との綿密な協力も重要となってくる。
■予防外交を補足するのが、予防展開と予防軍縮であるが、軍縮については次章で詳しく述べたい。予防展開とは、紛争の可能性のあるところに平和維持軍をあらかじめ展開させることである。緊張地帯に信頼を築き上げることで紛争を収める方法で、将来的に価値のある手段として考えられている。
§2 強制措置
■国連憲章第7章の規定をもとに、安全保障理事会は国際の平和と安全を維持または回復するために強制措置をとることが可能である。強制措置は、経済制裁から軍事的措置まで多岐にわたる。
■制裁の具体的内容は、武器禁輸や旅行の禁止、金融制限や外交関係の断絶などがあげられる。制裁は、武力による訴え以外の方法で、国家や紛争の主体に圧力をかけることによって、安全保障理事会の要求を受け入れさせる。
■しかしながら、制裁が女子や子供など、社会的弱者に対して不本意にもたらす影響について、懸念の声も上がっている。そのため、制裁の方法と実施に関して見直すことが要求されている。例えば、安全保障理事会の決議の中に人道的例外事項を組み込んだり、制裁の対象を明確にしたりすることで、マイナス面を緩和することが可能となる。こうしたいわゆる「スマートな制裁」が近年支持を得てきている。
■あらゆる平和建設の努力が失敗した場合、より強い行動が加盟国に承認されることとなる。安全保障理事会は、軍事行動も含めた「すべての必要な処置」を加盟国に対し認めている。例えば、イラク侵攻後のクウェートの主権を回復するために、軍事的措置をとることが認められた。こうした措置を承認するのは安全保障理事会だが、実際の行動は全面的に参加国の管轄となる。
§3平和維持活動(Peace Keeping Operations)
■国連の平和・安全保障に関わる主な活動として、平和維持活動(PKO)があげられる。PKOとは、「国際の平和及び安全を維持する(国連憲章第1章)」ため、国連が小規模な軍隊を派遣して行う活動を指す。国連憲章ではPKOについての明文はとくに規定されていないが、1962年に国連総会で受諾されている。
■PKOの役割は1988年に国際的に認められ、国連平和維持軍はその年にノーベル平和賞を受賞している。活動内容としては、軍事監視団や平和維持軍があげられる。軍事監視団は、和平協定や停戦を監視するのが典型的な任務である。平和維持軍の各国軍隊は、水色のヘルメットをかぶるため、「ブルーヘルメット」と呼ばれる。また、派遣車両はすべて白いペンキで塗られる。ここに「戦いを目的としない軍隊」という平和維持軍の性格が出ている。あえて遠方からでもはっきり識別できる鮮やかな色の装備をすることで、国連の存在をアピールし、紛争当事者に自制心を起こさせ停戦の維持を図るのだ。
■PKOには大きく三つの原則があるとされてきた。
1 紛争当事者(国)がPKOの受け入れに同意していること
2 自衛以外には武器を使わず、非強制の行動に徹する
3 紛争当事者の間で中立を守る
しかし冷戦が終了してからというもの、民族的対立などによる紛争が多発するため、この原則を守ることが難しくなっている。
■1948年以来、およそ110カ国から派遣された75万人以上の軍事、警察、文民要員がPKOに従事した。そのうち、1650人以上が命を失っている。
■冷戦終結後、国際社会の平和と安全の維持に関する国連の役割が高まり、PKOがより多く設立されるようになった。これまでに合計60件のPKOが設立されており、そのうち47件が冷戦終結直前の1988年以降に設立されている。現在は16件のPKOが展開中であり、105カ国からおよそ66,000人の軍事・警察要員が派遣されている(2005年5月末日現在)。
■90年代後半になり低迷していたPKOだが、コソボや東ティモールで行政を直接担当するPKOが設立され、さらにアフリカで多くの新しいミッションが開始しため、活動の幅が広がっている。
■PKOはモザンビークやカンボジアではうまく働き、その役目を果たしたが、ソマリアや旧ユーゴでは民族的暴力という大きな壁に直面し、成果を挙げることができなかった。その結果、国連加盟国の中には国連の実力を超えたPKOの展開には慎重な姿勢をみせるものもいる。こうした過去の失敗をふまえ、また多様化する国際社会に効果的に対応するため、専門家によってPKOを中心とする「国連の平和活動」が包括的に見直されている。
■そうした見直しの結果、2000年に約60の勧告が発表された。たとえば、PKOの任務は現実に達成可能なものであるべきこと、活動に必要な要員や経費が認められることが重要であることを指摘している。これらを受けて、国連事務総長は勧告を実施するための計画案を提出し、これに基づいて国連で議論が行われた。その後のフォローアップの結果、同勧告に基づいた改善が一通り行われたことが、総会で報告された。
■また近年のPKO増加を背景に、2004年にはPKOに関する安保理公開討論が開かれ、効率的なPKOの運用の必要性、明確な出口戦略の確立の重要性等について議論された。PKOは、いまや平和維持だけでなく、平和創造、平和構築、平和強制、平和予防を含む総合的な活動になってきている。
§4PKOの事例と問題点
■ここでは、具体的にソマリアと東ティモールの事例を取り上げて、PKOがどのように多様化し、どのような問題が新たに生まれたか考えていきたい。まず、ソマリアの事例だが、1960年独立したソマリアは1991年に独裁政経が崩壊し、それからは内戦と干ばつと飢餓によって大量の死傷者と難民を生み出した。国家機能が停止した「崩壊国家」となったのだ。
■そこで安保理によってPKOが派遣されたが、現地勢力との戦闘によって内戦の当事者となってしまい、多くの負傷者を出し、任務を果たす前に撤収した。結局残されたのは、崩壊したままの国と、極限状態におかれた人々だった。
■第7章の規定では、「平和に対する脅威」と認定されれば、内政不干渉の原則の例外として、国連が干渉できると定めている。しかし、ソマリアの事例に関しては、違法な人道的干渉であったと批判し、国連の干渉主義を危惧する意見もある。どの段階で国家の内政に干渉するかは、その判断が難しく、安保理だけでなく、加盟国のコンセンサスで決定すべきとの声もあがっている。
■この他にも、PKOに武力を用いる権限を与えるべきではないのではないか、国連が特定の国や機構を正当化する道具にされることはないか、現地の人々に説明責任を果たせる活動を最後まで遂行するためにはどうすればよいのか、など新たな問題点が浮き彫りになってきた。
■東ティモールの事例では、インドネシアから独立した東ティモールが国家として回復するプロセスにPKOが関わることとなった。その特徴としては、国連史上初となる国連による直接統治型PKOが設立され、武力行使も認められていたことがあげられる。だが実際は、国際社会の協力もあり、PKOが強制的な武力行使を大規模に行う場面はほとんどみられず、PKOはめざましい成果をあげている。
■しかし、今回の事例に関しても、その問題点はいくつか出てきている。まず、直接統治や武力行使を含む総合的平和活動をPKOとし、その計画や実行をするのは適切なのであろうか。また、直接統治や全面的な国づくり支援であるならなおさら、画一的な国際的価値や基準を押し付けてはならないのではないか。さらに、そもそも国連という国際機構に国を直接統治する権限があるのかどうか。こうした問題に対し、国連は国際法的にも検討する必要性が残っている。
■ この他にも、国連及び関連機関の活動は多岐に渡り、その存在は世界平和を実現する上でなくてはならないものと考えられている。
§5 まとめ
■こうして見る限り、確かに国連に残された課題は多く、検討の余地はあるにしろ、やはり国連が果たしてきた役割というのは国際社会の平和と安全において非常に大きかったことがうかがえることは否めない。まだまだ紛争が絶えないとはいえ、国連によって解決へと導かれたものも多数存在することもわかっている。
■PKOの問題に引き続き、第3章では軍縮の問題について、国連の果たしてきた役割、そして問題点について具体的に検討していきたいと思う。
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