NTS教育研究所NTS教育研究所
ホーム教育を考えよう:私学の先生方の教育コラム


私学の先生方の教育コラム7
共立女子の校訓をとらえ返す
共立女子中学校 渡 辺 眞 人 先生

 ャールズ・ディケンズの『二都物語』の冒頭は「それはおよそ善き時代でもあれば,およそ悪しき時代でもあった。知恵の時代であるとともに,愚痴の時代でもあった。信念の時代でもあれば,不信の時代でもあった。光明の時でもあれば,暗黒の時でもあった。希望の春でもあれば,絶望の冬でもあった。……要するに,すべてはあまりにも現代に似ていたのだ」から始まる。このくだりは,不思議と今の20世紀にそのまま当てはまるように見える。

 しかし,21世紀は情報化の進展と共に第3次産業革命ともいうべき,社会の変容が予測されるが,どのようになるのかは全く予想がつかない。また,その変容に合わせて,常に教育もイノヴェーションにより,その姿を変え続けなければならない。イギリスのブレア首相は「重要3政策は,教育,教育,教育だ」と述べた。ケンブリッジ大学MITと提携し,マイクロソフトのビル・ゲイツ会長の寄付を受け,世界から200人の奨学生を受入れて孤高の衣を脱ぎ捨てた。また,パブリック・スクールの伝統エリート校のハーロウはビジネス・スタディー・コースを開設した。アメリカではハーバード・ロースクールも教育内容の見直しをはじめている。

 のように,教育改革は質的には異なるものの,発展途上国のみならず先進国に至るまで,グローバルに必要とされてきている。こうした動きと,現在の日本で論議されている教育改革の内容を考えると,その論議は全く正鵠を得ていないと思われるが,今や知の習得や教育は,単純系パラダイムから複雑系パラダイムへと確実に転換してきている。

 単純系パラダイムとは,古くはギリシア時代から,またヨーロッパ社会ではフランシス・ベーコンの『新アトランティス』の空想から,デカルトの『方法叙説』を経て,現代まで脈々と続いてきていた要素還元論である。今ある現象の原因を要素と要素の相互作用と捕らえ,それらの複雑な積み重ねが今ある現象を引き起こしているという考え方である。しかし,それは線型思考であり,解の収束への飽くなき信仰であった。

 ITのシーモア・パパートは,3R(読み・書き・そろばん)から3X(探究・共有・表現)へという新しい知識観・学力観を提唱した。NTS教育研究所の本間勇人所長は,それを整理し,学習(コミュニケーション)観タイプカテゴリー表としてまとめた。これは学校選択カテゴリー表としても含蓄のあるものであるが,それらについては,本HPの論説を参照していただきたい。その実践例としては今年発刊された『21世紀を拓く最先端学習プログラム』がある。

 誤解を恐れずにいえば,単純系パラダイムの線形性をもったシステムは,部分を構成する要素の結合,つまりは読み・書き・そろばんの和のみで成立しているので,今までは現実の姿の理解や価値判断に困難は生じなかった。

 しかし,ラ・ロシュフコーは『人生の知恵 ― 省察と箴言』の97で「知性と判断力とは別々のものと考えられてきたが,それは間違いであった。判断とは,知性の偉大さを示すものにほかならない。この光は物事の奥にまで浸透し,知るべきことの全てを認識し,目にもとまらないようなものまで知覚する。だから,判断力の働きで為しとげられたと思っていたことも,全て,知性の光のおかげなのだと認めねばならぬ」と言う。このように要素や他の部分との結合に,量的ではなく質的な別の性質が加わると線形思考では考えられない,非線形性の現象が現れる。この結合のアマルガムに必要なものが3Xであり,その結果生じたものが,複雑系パラダイムのシステムである。この複雑系では,3Xは3Rを包括しながらシステムを構成する要素の相互作用によって,要素だけではとても予想のできないものを創造していく。
 
 共立女子中学校の校訓―コンセプト表

立女子学園の校訓は「誠実・勤勉・友愛」であるが,校訓と理念としてのコンセプトとの関係を,私なりに次のように考えてみた。詳細な教育内容には,ここでは言及しないが,コンセプト表にあるように「勤勉」という横軸方向が3Rに相当する。一方縦軸方向には「誠実」があり,情報教育や長年にわたって培われてきた豊富な情操教育プログラムによって人間教育が行われてきた。この両ベクトルの合成の和として「友愛」が位置する訳である。線型空間での表示ではあるが,ここでのシステムは当然のことながら複雑系である。「友愛」には,本校に入学後,さまざまな過程を経て創り上げられてきた自分と全人格を,社会に還元する意味があり,共有・共生・共創の精神に通じている。

 雑系には幾つかの特徴がある。第1はシステムの開放性があげられる。線形システムでは小さなインプットは小さなアウトプットしか生まないが,開放システムでは小さなインプットが巨大なアウトプットのトリガーになる可能性がある。本HPに「今日の400字」というコラムがあるが,10月20日に江森真矢子研究所員が,三重県の暁中学校と桜丘中学校の交流の様子を紹介していた。暁中学高等学校の小崎先生のコメントにも納得させられるものがある。交流の様子は10月30日以降,2回にわたって報告されるはずだが,どのような様子であったのか楽しみである。情報の共有ができれば,ネットワークの活性化もより盛んになる。交流や情報交換を通じた出会いは,大きな変化のステップである。

 第2は非線形性である。非線形なフィードバックの繰り返しは,同じパラメータ値をインプットしても,ほんのわずかな「ゆらぎ」の現れ方が違うと,その時間と空間により,かなり異なったシステムが作られる。つまりは生徒間,教師間の相互作用の非線形性と相互作用のもつ「ゆらぎ」によって,それぞれの学校の特色が出てくるのである。楽しく,面白く,「ゆらぎ」を取り入れることによって,システムは大きく変化する。

 第3は自己組織化である。システム自身が自律的に,様々な条件を制御しながらシステムをつくり出していくことを自己組織化という。受験者数のゆらぎの中で,負ではない正のフィードバックを常に継続することができれば,より高次なレヴェルのシステムへと自己組織化される。フィードバックの内容を正確に把握していれば,それもまたその学校の特色であり,重要な戦略にもなる。前述したケンブリッジ大学やハーロウ校やハーバード・ロースクールなどがその例といえよう。

 20世紀を終わるにあたって,知の習得や教育は大きくパラダイムシフトしようとしている。学校というシステムを構築していく時に,今後は複雑系の「ゆらぎ」や自己組織化の概念や考え方が大きく影響してくるであろう。今我々は,時代の証人として立っているのである。
2000年10月27日寄稿

---共立女子中学校リンク
共立女子中学校ホームページはこちら
共立女子中学校のコンピュータ教育について(「合格レーダー」掲載記事)はこちら


このページのトップへ▲
ホーム教育を考えよう:私学の先生方の教育コラム