講演:修学旅行 「ヒロシマ」 の学習プログラムの開発と実践
開成中学校・高等学校 (社会科・地理) 生田 清人 先生 |
■ 『地理研究』 〜自己紹介に代えて〜
はじめに、私の自己紹介に代えて、私が教育活動の柱にしている『地理研究』についてお話したいと思います。『地理研究』は、地理の授業の中で生徒が書いたレポートをまとめた報告集で、現在、8冊目を作成しているところです。
私は開成の教壇に立って約25年になりますが、着任したころに、ある国語の先生が生徒の読書感想文をまとめて報告書を作っておられるのを見て、私も作りたくなって教えを請うと、「盗め!」といって詳しくは教えてくださいませんでした。それで、その先生の進め方を横目で観察しながら何とか1冊目を作りました。あとは自分なりに工夫を積み重ねていきました。工夫の中心は、「どのように生徒に書かせるか」でした。そして、7冊目ができたとき、今は教壇を去られている先生に、出来たての『地理研究』を差し上げたら、ようやく「よくできている!」と、とても嬉しい言葉をいただきました。
これまでに創った『地理研究』を、ご紹介します。『地理研究』は、いくつかのテーマにわけることができます。そのテーマに分けてご紹介します。(*講演では資料に掲載し実物を回覧しました。)
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▼生田先生がこれまでに作られた『地理研究』
○文献調査を中心に地域学習をまとめたもの
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地理研究1(1984)『地理的にみた日本の街と村』
地理研究2(1985)『地理的に見た「比較」の研究』
地理研究3(1988)『地理的にみた「変化」の研究』
地理研究4(1991)『地理的に見た「比較」の研究U』
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○野外調査を中心に地域学習をまとめたもの
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地理研究7(2004)『「総合的な学習」としての地域学習 開成の界隈:あるく・しる・かんがえる』
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○文献調査をもとに生徒がリレー式に空想の旅行記を作成して、1冊の本にまとめたもの
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地理研究6(2002)『地域を地理的に調べ伝える研究 ミクとニッキの不思議な旅行記』
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○大学入試問題(記述式・論述式)を教材化して授業のテキストにすることを目的にまとめたもの
(*これだけは私が作成したものをまとめたものです。)
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地理研究5(2000)『大学入試問題をつかった地理的な問題解決の研究 地理と地域の問題120』
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テーマの中に「地理的」という言葉が何度も出てくるのは、地域を地理的に眺め・調べて・考えて・伝えることが、地理を学習して獲得できるもっとも大きな生きた力だと考えているからです。
前置きが長くなりましたが、今日お話しする修学旅行の学習プログラムも、『地理研究』と同じ考え・コンセプトから開発し実践したものです。
■ 修学旅行「ヒロシマ」の基本的な考え方
開成では、中学3年の旅行のほかにも、中学1年でも、中学2年でも宿泊をともなう旅行がありますが、中学3年の旅行を「修学旅行」と位置づけ、他の学年のそれは「学年旅行」としています。修学旅行の行き先は、十数年前までは「飛騨高山」方面でしたが、名古屋からの移動に時間がかかるなどの理由で、検討を重ね、「京都・奈良」方面に変えることになりました。しかし、このときの話し合いの中に、「一度は、ヒロシマやナガサキを見ておくべきだ」という意見もあり、わたしはこの言葉を忘れることができませんでした。そこで、2001年度から担当した学年では、ぜひ実現させたいと思いました。
理由は大きく二つありました。ひとつは、中学3年生はいわゆる反抗期を抜けて社会に対して次第に目を向ける時期にあたるので、彼らが生きている社会の現実をひとつでも多く触れさせたい。ちょうどイラクでの戦争がはじまった時期で、彼らには荷が重いかもしれないが「戦争」や「平和」について考えてほしいということ。もうひとつは、『地理研究』を実践する中で、二泊三日の修学旅行では「京都・奈良」は大きすぎるのではないか、それよりも「広島」なら二泊三日で彼らなりに探求し尽くせるのではないかと感じていたからです。長い話し合いの末、最終的に「ヒロシマ」に行くことになりました。
■ 修学旅行「ヒロシマ」の概要
修学旅行で広島に行く場合の中心的な課題は「平和学習」です。そして、一般的なコースは、平和公園に行き原爆ドームを見て、原爆資料館を見学することではないかと思います。しかし、これでは原爆の被害の大きさや恐ろしさ、平和の尊さを実感するには、あまりに直接的で説明不足ではないか、広島をひとつの都市、地域としてとらえ、そこに住む人々に何とか直接お話を伺うことはできないのか、と考えて計画を立てました。旅行業者にお願いしたのは、東京と広島の移動手段と宿泊するホテルだけで、広島での訪問先は、私を中心に学年の先生方がひとつひとつ掘り起こしていきました。
私達の訪問先は、次のようなところでした。(*講演では資料に掲載していました。)
1) 秋葉広島市長との面談
2) NHK広島放送局で原爆・被爆などについての番組を制作している方との面談
3) 中国新聞社本社で原爆や被爆の問題について記事を書いている記者の方との面談
4) 広島電鉄本社で原爆が投下された後でも走ることができた路面電車の見学とお話
5) 放射線影響研究所で原爆放射線の健康被害について臨床医の先生との面談
6) マツダの自動車生産工場の見学
など、あわせて12の訪問先を用意し、生徒はそこからいくつかを選択して参加しました。このような修学旅行をするために、前年(中学2年の後半)からいくつかの事前学習を始めました。
■ 事前学習1: 博物館を見る練習
この修学旅行では、多くの博物館や資料館を訪れて、自分で資料を集めることが学習活動として重要な意味をもちます。そこで、開成に近い王子の飛鳥山公園にある「紙の博物館」「北区飛鳥山博物館」「渋沢資料館」に300名を連れて行きました。生徒にとっては見学の練習ですが、わたしたちにとっては「生徒にどのように博物館を見せるか」の練習でもあって、とくにワークシートには工夫しました。
この博物館の見学は、生徒に興味や関心を持たせることが目的なので、例えば、紙の生産工程を順に追わせたり、土器を年代順に追わせたりしないで、「紙の生産工程で最も興味を持った道具を調べよ」などの発問を作りました。また、ワークシートは、取材用と提出用に2枚持たせる工夫をしました。
■ 事前学習2: 戦争・被爆体験を聞く
この修学旅行では、広島で地元の人から直接、戦争体験や被爆体験を聞きたい、聞かせたいと考えていましたが、学年の先生方と話しているうちに、生徒の親も戦争を知らない世代であることに話が及び、そこで、中学2年の秋の保護者会をつかって、広島から戦争体験・被爆体験の証言をされている方をお招きして、生徒と保護者がいっしょにお話を聞く、「親と子で戦争・被爆体験を聞く会」を開きました。このときは、生徒の多くはまだ「戦争」や「平和」の話には向き合いきれなかったようですが、修学旅行の1日目の夜、学校にお招きした方に再びホテルに来ていただいてお話を聞く会をしました。この日は、平和公園や原爆資料館に行ったばかりだったので、みんな熱心に聞き入って、お話していただいた方にも、熱心に聞いていただいてありがとうという言葉をいただきました。生徒には、この日いちにちの出来事はやはりかなり大きな印象となったようでした。
■ 事前学習3: 地形図で読み解く「ヒロシマ」
この修学旅行では、事前学習の段階から、それぞれの教科目の学習において、意図的に広島に関連する教材を扱っていただけるようにお願いしていました。その一環として、地理(*中学3年では「地域学習」という地理と歴史の合科的な総合学習になっています)を担当する私は、地形図を使って「ヒロシマ」を読み解く授業を展開しました。
私の授業は、広島の同じ場所を扱う、大正14年、昭和25年、昭和47年、平成13年の地形図を扱って、まず、地形図の地図記号や等高線を読む練習をしました。それから、こちらから指示をして、色を塗って、土地利用図を作らせました。そのうえで、生徒に問いかけました。
広島城の周辺には寺院を示す記号が規則的にあるので、それに色を塗ると、「城を囲んで馬蹄形に並んでいるけど、なぜだろう。」と問いかけます。ふつう城下町では、寺院は城下町のはずれに配置し、攻撃された場合の前線拠点になることがあるのですが、「それでは、広島もその例に乗っているのだろうか。」また問いかけます。そこから先は広島に行って調べればいいのです。(*実際には広島の地域の事情があって「公式どおり」ではない。)このような問いかけをしながら、広島という地域について関心を持たせ、知識を蓄えさせることを目的に授業を展開しました。
■ 事後学習: 『ヒロシマ作品集』
修学旅行のあと、事後学習として、2つの本を編集しました。ひとつは、旅行の感想を綴った旅行文集です。もうひとつは、4つの科目(国語1・2、公民、地域学習)が授業の中で生徒が書いたレポートのうち、優秀なものを集めて一冊の本にしたものです。これは、とくに「平和」「戦争」に関するレポートが多く、この修学旅行が当初計画した考えを達成するものとなりました。とくに、広島でお世話になった方々に送付させていただいた反響は高く、秋葉広島市長からもメッセージをいただきました。また、広島のある高校の校長先生から、「広島に住んでいる私達でさえ、広島=被爆都市というレッテルを貼って考えていたことに気がつきました。開成の試みは、広島にとっても新鮮でした。」という言葉をいただき、私はこの修学旅行に大きな達成感を感じました。
■ 「総合的な学習の時間」としての修学旅行のあり方
最近、再び、「総合的な学習の時間」の扱いについての議論が盛んになってきましたが、私は、「総合的な学習の時間」がまだ正しく認識されていないと感じています。本来、あるひとつの問題をいろいろな視点から見ていくクロスカリキュラムとして開発されてきたものが、日本では、合科的な総合学習との認識が強く、それぞれ科目が持ち寄られているだけで、それぞれの学び方や学習のしかたを調整したり工夫したりすることがないように感じます。私は、「総合的な学習の時間」で重要なのは、「自分で問題を見つけ、自分で調べて、伝える」という「学び方の学習」だと考えています。
修学旅行は、教科学習活動としても、課外活動としても、自治的活動としても扱えるものです。どの科目でも参加できるともいえます。しかし、修学旅行と社会科や国語、理科など特定の合科的色彩が強くなるのが現状だと思いますが、修学旅行で見る対象によって関係する教科が決まるのではなく、学年に関わる教科が一緒になって、「どのように学ばせるか」を議論の中心にすえて、ひとつの修学旅行を作り上げていくべきだと考えます。
ご清聴ありがとうございました。
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