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07/07/23 中村学園 「みやこどり 第六十号」

みやこどり 第六十号

中村学園

『みやこどり 第六十号』
2007年3月1日発行

 

学校ホームページ




おはようがこだまする学校

校長  小林 和夫

 おはようが校内のあちらこちらでこだまする学校にしたい。これが校長として永遠の夢である。こだまという言葉がわたしは好きだ。漢字で木霊と書く。古代の人は、精霊が樹木に宿ると考えたのだ。高い山に向かってヤッホーと呼びかけると、山からヤッホーと返事がくる、あれである。

 わたしはおはようと、登校してくる生徒を迎えるために、四月より毎朝正門に立っている。晴れの日も雨の日も(今のところ雪の日はない)立つのであるが、自分の中に三つの約束を決めた。一つ、こちらからおはようと声を出す。一つ、相手の目を見て挨拶する。一つ、時としてとんちんかんな服装をしてくる者や遅刻をしてくる者もいるが、「おはよう」の四音のみ発する。つまり余計なおしゃべりや注意など野暮なことは言わずに、わたしの一日の全重量をただおはように乗せて伝えることにしたのである。

 するとうれしい事がおこった。学校週番に立候補した生徒の何人もが「朝、正門に立ってみんなにおはようを言いたいので立候補した」と立会演説会でアッピールした。清澄祭に見学に来た卒業生が「挨拶って大事ですね。大学では友だちも教授も挨拶しないから何か変な感じ」と母校を懐かしみ、「私一人でも挨拶してます」と笑顔で語ってくれた。

 生徒がわたしにおはようと返してくる挨拶率は、夏休み前は六十%くらいだったろうか。百%は気持ちが悪いけれど、せめて八十%まで挨拶率をあげたいものだ。それから歩く姿勢が悪い人が目立つので、背筋を伸ばしてさっそうと歩いて来てほしい。と余計な注文を出したのは、前期が終わる九月であった。一年三六五日のうち二五〇日以上海外旅行の添乗をしている人が教えてくれたのだが、胸を張って町を歩けば、海外のトラブルはほとんど防げるというアドバイスもつけ加えた。

 おはようには水準があるとあなたは思いませんか。あの人はろくに挨拶もできないと言われると、その人は一人前とは見なされず人間として寂しい限りだ。だから若いお母さんが幼児にまっさきに教えることは、挨拶をしなさい。自分で服の脱ぎ着をしなさい。それとトイレの使い方ではなかろうか。挨拶初級は、あいさつされたら返す。中級は、こちらからする。それでは究極のあいさつとは。あなたに会えて今日一日幸福です、と言われる事であろう。

 わたしのおはようの目標もここにあるのだが……。今朝、正門で校長先生とおはようを交わしたから、今日一日いい日になる、と生徒が言ってくれる日がくる事を祈っている。しかしこれは逆であると、わたしはつい近ごろ気がついた。それは、朝、登校してくるあなたの顔に出会えて、わたしの方が愉快な気持ちにさせられるのである。学校に来るという生徒にとって当たり前の事をごく自然にできる人間は、何とチャーミングなんだと発見したのである。平凡の非凡と言った人がいた。

 それから、あなたをようこそと迎えるのはわたしだけではない。職員のNさんも警備員のMさんもいる。それから友だちがいて先生がいる。わくわくどきどきする授業も待っている。学校は楽しいかい。

 いつの間にか、毎朝通る小学生。仕事に行く人。公園を散歩する人。インターナショナルスクールの外国の先生。近所の人がみんなおはようと行き過ぎる。おはようがこだまする町になったんだ。マフラーを首に巻き吐く息が白くなった寒い朝は、あなたのおはようがほっこり胸の奥まで染みてくる。

 見上げると、シベリアから渡ってきたユリカモメが悠悠と空を舞っている。おまえはいつまで清澄の池で羽根を休めていくのか。

 今朝もおはようがこだまする学校に始まりを知らせるチャイムが鳴っている。


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