| 01/03/21 中村学園 「みやこどりNo.54」 |
ハクモクレンの花が咲いた
理事長 小林 和夫
ハクモクレンの花が咲いた。白いふっくらとした花びらが、天のしずくを受け取るように、口を上に広げている。町の写真愛好家が一眼レフのカメラを向けるが、春風が枝を揺らしてシャッターがなかなか切れない。カメラマンはクッキー色した新校舎のタイルと青空を背景に花を撮りたいらしい。しまいには道路に寝そべってピントを合わせている。春風が止んだ。カチャとシャッターが押された。
ハクモクレンの花が咲いた。少女が、この花びら踏んじゃかわいそう、とけんけんしながら木の下を通った。黒い地面に転々と散り落ちた花びらは、一層白くなまめかしかった。少女はこの前父親を亡くしたそうだ。
ハクモクレンの花が咲いた。仏教学の老教授はポケットから三枚のハンカチを出して、本当に白いのはどれかと学生に聞いた。一枚目は真っ白いハンカチ。二枚目は生成の白いハンカチ。最後はどこにでもある白い木綿のハンカチ。老教授はゴホンと咳払いをしてもう一度聞いた。よく見なさい。この中でどれが白いハンカチか?。一番白いのは一番目のハンカチです、と学生たちは答えた。老教授は言った。蛍光材で白く光らせたものだぞ。学生たちは目を白黒させた。困った学生とゴホンと咳をする老教授の問答は続く。
ハクモクレンの花が咲いた。昔、校庭にあったキジバトが巣を掛けるヒマラヤ杉も、満開の花が新入生を迎えてくれる山桜も、冬の真っ最中に一足早く春を知らせる梅の木も、残らず切り倒した。新校舎を建てるには、どうしても更地にしなければならなかったから。何かが生まれるときは、何かが死ぬという約束がありましたっけ。旧校舎から新校舎にバトンタッチされたのは、ハクモクレンの木一本だけ。
白い花はみんなの希望。白い花は未来への伝言。白い花はいのちの賛歌。
春風に揺られて、今年も咲くだろう。白い白いハクモクレンの花が。 |
|